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22、女神メルトの復活

 地下二階のクロウラーと戦った部屋にあった階段を登ると、一瞬にして聖堂に戻ることができた。

 どうやら、地下何階であっても登り階段を進むと聖堂に戻って来られるようだ。


 無事聖堂に戻って来た俺は一つ違和感を抱く。

 女神メルトを抱きかかえている手が重い。


 いや、メルトが重いという訳ではない。重さの正体は、クロウラーがドロップしたメイスだ。


 でも、聖堂に戻ってきたら地下で手に入れた武器やアイテムは全て消えてしまうのに、なぜこれはこうして残っているのだろう。


 まさかレジェンダリーアイテムは消えない……のか?

 それを聞く為アルティナの元へ向かう。その道中。


「ん……」


 俺に抱きかかえられていた女神メルトが、かすかに声を出した。

 その閉じられていた目がゆっくり開けられ、顔を覗き込んでいた俺と目が合う。


「……」


 女神メルトは大きな目をパチパチと数度瞬きさせ、首だけを動かして辺りを見回した。

 そうして自分の現況を理解した彼女は……。


「ぎゃーーー!」


 急に叫び出した。

 あまりにも大きい声に俺の体がすくむ。


「お、降ろせー! 降ろしなさいよー!」


 メルトは小柄な体を目いっぱい動かし、じたばたと暴れ出す。そのせいで彼女を地面に落としそうになった。


「ま、待ってくれ、落ちつけ! そんなに暴れると危ない! 重いから危ない!」


 もちろん重いのはメイスだ。でも言葉が悪かった。


「誰が重いのよ!? 最低! 重いならさっさと降ろせー!」


 本当にこの少女は女神なのだろうか……? アルティナとはなんか全然違う。

 なんとか暴れるメルトの足を地面に着かせると、彼女はばっと俺から離れ、涙目で睨みつけてきた。


「こ、このあたしが女神メルトと知っての狼藉か! あ、あろうことかお姫様抱っこをするなんて……! 魔王の手下め! 魔法でぶっとばすぞ!」


 思いっきり手の平を向けられ魔法を放たれかける。俺は反射的に両手を上げて無害アピールをした。


「いや、あの……魔王の手下ではないです……」


 思わず敬語になった。下手にでないと本当に魔法でぶっとばされそうだからだ。


「ふざけんな! あたしは騙されないわよ……! その顔! 体! 来ている衣服! どこからどう見ても……あー……人間、よね?」


 あれ? っと首を傾げるメルト。何だか急に少女らしい可愛さが見えてきた。


「あれ……? あたし魔王に封印されて……それからどうなったんだっけ……?」


 うんうん唸るメルトは、やがて一つの解答にたどり着いたのか、俺をキッと睨みつけてきた。


「よく分からないけど、人間であるあんたが寝ているあたしを抱きかかえていたのは事実じゃない! 女神の寝こみを襲おうだなんて不敬だわ! このまま魔法で裁く!」


 明らかな誤解だが、長い封印から解けたばかりで事情を把握していないのだろう。

 しかしこの剣幕の彼女に、いったいどう説明したものか。


 どうしようもなく戸惑っていると、この騒ぎを聞きつけたアルティナが俺たちの元へとやってきてくれた。


「あ! アルティナ―!」


 アルティナの姿を確認した途端、メルトは彼女に抱き付いた。


「ちょっとアルティナ! 聞いてよ! この無礼な人間があたしの寝こみを襲おうとしたのよ!」

「メルト、久しぶりですね。またあなたの元気な声を聞けたのは嬉しいですが、リック様が寝こみを襲ったというのは勘違いですよ。リック様は封印されていた私達を助けてくれたのです」

「え……?」

「それに、メルトを助ける時は大変だったのですよ。記憶の産物ですが、あのクロウラーと正面から立ち向かい、見事撃破してメルトを解放したのです。いかに女神といえど、恩人であるリック様に非礼を働くのはいけません」


 アルティナに諭されて、メルトが気まずそうに俺を見た。

 彼女は恥ずかしそうに俯いたまま、ぼそっと呟く。


「……ごめん。勘違いだったみたい」


 だが、すぐに顔をあげて俺を睨んだ。紫色のツインテールがその動きに合わせて軽やかに舞う。


「でも! 女神をお姫様抱っこするなんて失礼よ! いい? 女神はあんたのような人間よりはるかに偉いのよ! しかもあたしのようなこんな可愛い女神を抱っこするなんて……! 今回は許すけど、これがあんたの人生における最上級の幸福だと理解したうえで、終生このあたしを崇めなさいよ!」


 ……。


「ところでアルティナ、クロウラーが落としたレジェンダリー武器のメイスだけど、なぜか消えてないんだが?」

「おや……どうやらレジェンダリークラスのアイテムは消えないようですね。これは非常に嬉しい誤算ですよ。手に入れたレジェンダリーアイテムはこの聖堂に保管し、必要な時に持っていくのがいいですね」

「そうだな……ひとまずこのメイスはこの辺に置いておくか」


 がしゃんとメイスを地面に置くと、女神メルトがぷるぷると震えだした。


「……あ、あたしを無視すんな~~!」


 ……なんかメルトは見た目そのまま生意気な少女の性格をしている気がする。アルティナと違って女神の包容力とかそういうのが全くなかった。


 だからだろうか……なんか、あんまりアルティナみたいに尊敬できないな。同じ女神なのに。


 ともあれ、こうして女神メルトも無事封印から目覚めたのだった。

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