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21、二人目の女神メルト

 魔王の腹心の部下が一人、骸骨騎士のクロウラーに勝利して、俺は腰が抜けたように座り込んだ。

 疲れた……あまりにもきつかった。


 実際の所、三十分あまりは戦っていたようだ。あんな極限状態で三十分も集中力を持たせた後では、身動き一つできなくなる。


 それにしても、勝てたのは本当に紙一重だった。

 アルティナの声援。あれが聞こえなければ、最後の反撃なんてできなかっただろう。


 その感謝を伝えるべく、俺はアルティナに話しかけた。


「アルティナ、ありがとう。アルティナの応援がなければ勝てなかったよ」

『そんな……正直、あれほど必死で戦っているリック様に声を届けるのは返って邪魔だと思っていました。それでも、我慢できなくて……』

「でもそのおかげで勝てた。最後の瞬間、俺は負けを確信してたよ。でも体が動いたのは、アルティナの声が届いたからなんだ」

『……リック様』


 続くアルティナの声はなかった。だが彼女と繋げた絆の深まりのおかげか、その感情が伝わってくる。

 とても嬉しそうで、言葉も出ない。アルティナのそんな想いが心の中にじんわり響いてきた。


『あっ……リック様、ご覧下さい。クロウラーが倒れた場所に』

「ん?」


 そこには、奴が使っていた巨大なメイスが取り残されていた。

 まさか……ドロップしたのだろうか?


 体は疲れてへとへとだったが、何とか立ち上がってそれを拾い上げてみる。

 とてつもない重さで、両手で握ってようやく持ち上げられた。


『これは……レジェンダリー武器ですね』


 アルティナに以前説明されたマジックアイテムの等級。その中でも最上級の物がレジェンダリーだ。

 魔王の腹心の部下が持つ武器なのだから、レジェンダリーなのは当然か。


 しかし問題は……。


「これ、どういう魔法効果がついてるのかまだ分からないんだよな?」

『はい……レジェンダリ―クラスは中級の鑑定スキルがないとさすがに……しかも中級ではその効果の半分ほどしか確認できません』

「確認できないとさすがに使いづらいか」

『それどころか、確認できてない部分の効果はまともに発揮されないのです。その武器の本質を知らずに使っては、真の強さを発揮させることができないということですね』


 うーん。思った以上に鑑定スキルも重要そうだ。これからレアなアイテムを手に入れた時、鑑定しないと本来の効果が発揮されないというのなら優先的に取得する必要がある。


「でもアルティナの鑑定スキルは初級のみなのか……」

『知識を司るクリスなら上級鑑定スキルを授けられるのですが……あっ!』


 突然アルティナが叫び、俺は驚きに目を開いた。


「ど、どうした?」

『忘れてました! メルトです!』

「メルト?」

『あそこに封印されている女神の名です! メルトは確か、中級程度の鑑定スキルを授けられるはずですよ』

「あ……」


 俺も忘れていた。そういえばここには封印される女神も存在したんだ。

 クロウラーとの戦いに必死なあまり、目で見ているのに頭で認識できてなかった。


 改めて、部屋の奥にある台座で茨に包まれる女神の姿を見てみる。

 それは紫色のツインテールをした、小柄な少女。あれが女神メルトなのか。


「あの子がアルティナ以上の鑑定スキルを持っているのか……」


 ここでレジェンダリー武器を手に入れたのが無駄にならなそうだ。


『それだけではありません。メルトは魔を司る女神。彼女なら魔法系のスキルを全て授けられます。メルトを助ければ、リック様は更に強くなれますよ』

「そうか……よし、早速助けるか」


 一応今のマナを確認しておく。確か地下二階に来る前は100も無かったはずだけど……うおっ、5000もある!?


 さすがにスケルトンを倒した程度でこのマナは異常だ。おそらくクロウラーを撃破した際のマナだ。多分4000以上はあったのだろう。とんでもないな。


 しかしこれだけあればメルトを封印から解放するのは容易いはず。


 手に入れたクロウラーのメイスを両手で持ちつつ、茨に包まれる台座へ向かう。

 そこで手を向け、マナを放出するイメージ。

 すると俺の手の平から紫色の光が放たれ、メルトの体に吸い込まれていく。


 次の瞬間には、メルトの体を包む茨が燃え出した。

 そのまま茨は燃えて朽ち、メルトの体がゆっくりと台座に横たわった。


 ……。

 あれ? 起きないな。


『おそらくですが、封印が強力すぎてまだ目が覚めないのでしょう』

「……なら連れて帰るか」


 幸いこの部屋のボスであるクロウラーを倒した事で、新たに地下へ向かう階段と聖堂に戻る登り階段が出現している。聖堂に戻るのはすぐだ。


 俺はメルトの小柄な体を持ち上げようとして……メイスが重すぎるのに気付いた。


 メイスはここに置いていこうかな。聖堂に戻ったら消えちゃうしな……。

 でも初のレジェンダリー武器。消えてしまうとしても記念として最後まで持っておきたい。


 悩んだ結果、両手でメイスとメルトを一緒に抱き上げた。

 いわゆるお姫様抱っこ。しかしメイスと女神を一緒にお姫様抱っこするのは謎の状況だ。


 でもこれメイスが重すぎて手がやばい。メルトはそんなに重くないけど、メイスの重量に追加されるとやばい。


 激闘の後で疲れているのに、俺は妙なこだわりで苦戦しながら聖堂へ戻るのだった。

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