20、激闘
クロウラーの攻撃パターンを見切った俺は、今度はこちらから間合いを詰めにかかった。
そして奴のメイスの距離へと踏み込む。
さあ来い。この距離だとお前は叩きつけからの三連続攻撃を仕掛けるはずだ。
「ぬあぁっ!」
俺が睨んだとおり、クロウラーは気勢と共にメイスを叩きつけてきた。
これは一歩下がることで回避。続いてまたメイスを肩に担ぎ叩きつけてくる。これも一歩下がって回避。
そして最後に薙ぎ払い……ここだ!
俺は間合いを一歩外して薙ぎ払いを回避した瞬間、踏み込んで剣を叩きつけた。
クロウラーの甲冑に剣が激突する。硬い。斬りきれない。手がひどく痺れた。
しかし感触は充分。斬ることはできなかったが、衝撃はかなりあったはずだ。
「ぬうぅっ……」
クロウラーはわずかに体勢を崩していた。
ここは更なる追撃を……と思ったが、安全を優先して間合いを離す。
無理をする必要はない。なにせ俺は相手とは違って一撃喰らったら確実に死ぬ。冷静に、落ちついて戦うべきだ。
そしてさっきまでクロウラーの威圧感のあまり余裕を失って忘れていたが、今の俺には遠距離攻撃がある。
「【ファイアーボルト】!」
切っ先を向け、ファイアーボルトを三連発。
一発はメイスによる防御で防がれたが、残り二発が命中した。更に低確率で発動する炎上まで発生した。
こうしてじわじわダメージを与えていけば、絶対に勝てる。それは多分、この一撃死の中では気が遠くなる時間だろう。
しかし、復活できるからといって安易に死を選ぶ事はできない。何度も復活できるとは決まってないのだ。もしかしたら回数制限があるかもしれない。
何より死を前提に行動するのは、やはり一人の人間として耐えがたい。何度も死んだから分かる。死ぬのは慣れたりしない。奈落に沈み込む感覚は怖気が走る。
それに……俺が死ねば死ぬほど、アルティナは悲しむだろう。自分の無力を嘆くだろう。
そんな事はさせたくない。俺はもう、簡単には死んだりしない。そう決意する。
だから勝つ。この明らかに格上の強敵に、根気だけで粘り勝ちしてやる。
クロウラーが攻撃を仕掛けてくる。それを見切り、回避し、確実に攻撃できる隙に剣を叩きつける。そして距離を取り、ファイアーボルトで牽制。
クロウラーが跳ぶ。メイスを叩きつけてくる。それを避け、薙ぎ払いがくるか見極める。
一瞬の間。奴は薙ぎ払いを放ってきた。それをバックステップで回避し、ファイアーボルトで攻撃。
奴の攻撃に慣れるたびに、攻撃を仕掛けるタイミングが増えていく。剣での攻撃は危険でも、魔法で攻撃するタイミングがあったりする。その隙に根気強くファイアーボルトを当て続ける。
どれくらい時間が経ってるんだろうか。極限の集中力で、もうクロウラーが立てる音しか聞こえない。
メイスが地面に叩きつけられる音。奴が動くたびに甲冑が擦れ耳障りな音が聞こえる。メイスを肩に担いだ時なんて、じゃりじゃりとした嫌な音だ。
息が切れる。体が重い。一撃喰らえば死んでしまう状況で、もう何十分も戦い続けている。スタミナが限界を迎えるのは当然だ。
きっと後一発。後一発で倒せる。そんな願いを込めて攻撃すること何度目だろうか。
奴はまだ倒れない。本当に俺の攻撃は効いているのか? 今の俺では全くダメージを与えられていないのでは? そんな疑念まで生まれてくる。
そんな思いが、俺の選択を誤らせた。一度落ちつこうと背後に下がって距離を離したとき、背中に壁の感触を得た。
あ……壁際だ。思考がそんな些細な事に気を取られた次の瞬間。
クロウラーが跳びあがっていた。ジャンプ攻撃の予備動作を見逃した。
例え攻撃パターンが分かっていても、結局それを見切るのは俺自身。集中力が切れれば、あっさりとミスをする。
終わった……避けられない。
諦めたその瞬間、俺の脳内に声が響く。
『リック様! 頑張ってください!』
アルティナの必死な声援。その声はかすれている。
クロウラーとの激闘のあまり、俺には聞こえていなかった。いや、聞こえていても意識はできなかった。
だけど、アルティナはこの戦闘中ずっと俺を応援してくれていたのではないだろうか。
次の瞬間には俺の頭部が潰れて死んでしまっているかもしれないのに、それでも必死で、俺が勝つと信じて声を張り上げている。
その事に気づいた時、急に体に力が戻った。
もう、回避は間に合わない。
ならば、前に進むだけだ。
俺はクロウラーの跳躍に一瞬遅れながらも、剣を右肩に引きつけて大きく前に進んだ。
そのまま、すれ違う形でクロウラーの肩に剣を叩きつける。
それまで何度攻撃をしても破れなかった甲冑。それがひび割れ、俺の刃先が潜りこむ。
勢いのまま、剣を思いっきり振り抜いた。
交錯し、クロウラーが地面に着地すると同時に、俺は振り向いた。
奴は動かない。メイスを地面に叩きつけたまま、天を仰ぐ。
ほの暗い地下牢だと言うのに、まるで広がる空を仰ぐように。
「おお……魔王様……」
骸骨の騎士クロウラーは、いったいそこに何を見たのか。
俺が剣を刺し入れた部分から赤黒い光を噴出させ、その体が崩壊していった。
そして最後には、黒い煙となって消えていく。
「……勝った……!」
信じられないという思いと共に、勝利の結果を受け入れる。
こんな恐ろしい相手に、俺は初見で勝てたんだ。
深い実感を手に抱きながら、俺はぐっと拳を握りしめた。
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