10、初レベルアップ
アンブロシアの檻の地下一階は結構広い。
いくつもの四角い部屋がドアで繋がる単純な構造ではあるが、その部屋数はおそらく二十を超えているだろう。
なぜそれが分かるのかと言うと、今俺はレベルを上げるためにスケルトン狩りを行っていたからだ。
前に何度も地下一階に来た事で、ここで出るモンスターはスケルトン一体だけだと分かっている。基本的に、一つの部屋にスケルトンが一体いるのだ。
スケルトンが確実に三体いる赤いドアの特別な部屋。そこへ行く前にレベルを1くらいあげたくて、俺は次々新たな部屋へと踏み込みスケルトンを駆逐していた。
もちろんスケルトンが居ない部屋もあるので、倒した数はそこまででもない。ざっと十体程だろう。
その過程で、いくつかスケルトンがアイテムをドロップしてくれた。ロングソードや、おそらく体力を回復できる回復薬。それと赤い宝石がついた指輪。
ロングソードは魔法効果がついてない通常品で、回復薬はとりあえず確保するだけしておいた。
問題があったのは赤い宝石の指輪だ。
初めて指輪を見たので、きっと何らかの魔法効果がついていると思い、俺は早速指にはめてみたのだ。
すると、突然体に奇妙な倦怠感を抱いた。なんとなく、持っている剣が重くなった気もする。
『あ……どうやらその指輪は呪われていたようですね』
「呪い!?」
考えてみれば、ここは魔王の呪いによって生まれた迷宮。呪われた装備があっても変ではない。というか当然と言うべきか。
『おそらく力が下がる指輪だと思います』
「それでなんか体がだるくなったのか」
こんな指輪、外して捨ててやろう。
そう思って指輪を引っ張るが、皮膚にくっついたように取れなかった。力を入れると指ごともげそうだ。
「と、取れないんだけど……」
『呪われてますからね……解呪しなければ外れませんよ』
「マジですか……」
『一応私の元に戻ってくれば解呪できると思いますので、安心してください』
良かった。一生このままということはないのか。
しかし俺に悪影響を与える呪われた装備があることは覚えておかないといけない。鑑定スキルとやらで呪われているかどうかわかるなら、優先的に取得しないとだな。
気を取り直して、俺は再度スケルトン狩りを行った。
そして追加で四体。合計十五体ものスケルトンを倒した時、突然脳内で声が流れた。
『おめでとうございます。リック様はレベルアップし、レベルが2になりました』
アルティナの声に似ているが、わずかに違う。これはサインと呼ばれるアナウンスらしく、スキルを覚えたりレベルが上がると勝手に脳内に流れるらしい。
ようやくレベルが上がった。これで俺は強くなったのだろうか?
「アルティナ。レベルが上がったんだけど、どれくらい強くなったか確認することはできるのか?」
アルティナに聞くと、すぐに返答が帰ってきた。
『はい、レベル上昇に伴うステータス補正を確認できますよ。確認の仕方は作成の時と同じ要領で、空中に手の平を向けて、現在のレベルを表示せよ、と念じるのです。するとマナでできた文字が浮かび上がります』
早速やってみることに。
手を空中に向け、念じればいいんだな。
よし、レベルを表示してくれ。
「おお、本当に出た」
念じると、紫色の文字が目の前に浮かび上がってきた。これがレベルによって変化した強さなのか。
そこに書かれていた文字を纏めると、こうだ。
攻撃補正10パーセント。
防御結界補正10パーセント。
……これだけ。
なんか、もっと分かりやすく筋力とか攻撃力とか、そんな感じで表示されるわけではないらしい。
「これってさ、どういうこと?」
ちょっと良くわらかないので、素直に聞いてみた。確認は大事だ。
『まず、レベルとはあくまでもリック様が持つ本来の能力に補正を与えるものだとご理解ください。レベルが上がったからといって、リック様の身体能力があがるというわけではないのです』
「そう……なんだ」
俺はてっきり、レベルが上がるとすごく速く動けたり、筋力が上がって重い物が持てたり、体が硬くなって頑強になるのだと考えていた。でも違うらしい。
『レベルとは、いわば女神の加護。本来持つ強さを補正し、更に強力にするような加護なのです。今リック様に与えられているのは攻撃補正と防御結界の補正だけのようですね。攻撃補正はリック様が攻撃した際の威力を増やし、防御結界補正は防御結界で軽減するダメージを減らす効果があります。他にも色々な補正があるのですが、現時点ではこれくらいしかないようですね』
「……もしかして俺ってそんなに才能ない?」
もともと村人だからな。レベルなんて大層な物を手に入れても、そこまで強くなれないのかもしれない。
『いえいえ、そんな事はありませんよ。これから多くのモンスターと戦いを繰り広げれば、自然とリック様の体も鍛えられ、レベル補正と合わせてより強くなれることでしょう。それに私が授けられるレベル関係のスキルを覚えれば、更に様々な補正が受け取れるはずです』
……そうだな。俺はしょせんただの村人。気張らずゆっくり強くなっていこう。
とにかく、レベルが2になったことで、先ほどよりは確実に強くなってるはずだ。
今の俺ならスケルトン三体も倒せる。と思う。
ようやく決意が固まった俺は、気合を入れてあの赤いドアの部屋を目指すのだった。




