催眠アプリを手に入れた! これでエロライフをぐへへへへ「今からお前達には殺し合いをしてもらう」…ぐへっ? 3話
「それは、二人で去来川の元へ行けってことですか?」
「いや。夢田君、君だけだ。水留君の能力は本来無敵だ。彼も警戒している」
石田明の誘いに、夢田は迷いを見せる。たしかに能力者の仲間は増えた方がいい。しかし……。
「まだ信用できない。あなたが味方だと証明してください」
「いいけど、どうやって?」
「この画面を見てください」
夢田は《俺に嘘がつけなくなる》と入力したアプリの画面を用意する。
「勿論。それで信用してもらえるなら」
あっさりと、石田は催眠にかかった。履歴を確認すれば、確かに「石田明」の名前が先頭にある。
「本当にあなたはタイムリープできるんですか?」
「そうだよ。私はここから数ゲーム先まで何が起こるか知っている」
「本当に去来川は超能力者なんですか?」
「うん。そして君に会いたがっている」
「……彼の能力は?」
「それは本人に聞いてくれ。直接ね。あまり時間を取ると次のゲームが始まる。残りの質問は歩きながら答えよう。ついてきてくれ」
背中を向けた彼に続い、夢田は旧部室の外に出た。
「っ……誰だ」
扉の直ぐ側に、スマホを片手に持った一人の女子生徒が立っていた。長い髪を金に染め、耳のピアスが小さく光っている。
「去来川君の妹だよ」
不意に、石田は彼女と口付けをした。
「「!?」」
「そして俺の恋人でもある」
照れた様子もなく、彼女はスマホに視線を戻す。
「……なんです? 俺達への当てつけですか?」
「なぜ俺が去来川から信頼されているかを示したかっただけ、だよ。昔から去来川兄妹との付き合いは長い」
それだけ言って、石田の体は足早に歩き始める。ついていこうと夢田が踏み出したとき、背中から声がかけられた。
「兄は正義感が強いとアタシは認識している」
ちらりと去来川の妹の視線が夢田を向いた。
「気をつけたほうがいい」
「……わかった」
どうやらここからは、綺麗な夢田を演じなければいけないらしかった。
◇
「次のゲームは何だ? いつ始まる?」
「王国ゲーム。鬼ごっこと王様ゲームを合わせたものらしい。始まるのは今から約十五分後かな」
「どこで去来川は待ってるんだ?」
「体育館裏の倉庫さ。ゲームが始まるとき、人がいないところのほうが有利だと」
いくつか質問をしているうちに、二人はその古びた倉庫の前へ着いた。
「こんなところに呼び出して、まさか俺を騙そうってわけじゃないよな」
「騙すつもりはない、よ。俺は本気で君に協力してもらいたいと思っている。……夢田を連れてきた。入るよ」
ノックしてから、石田は所々塗装が剥げている鉄の扉を開けた。
彼は部屋の真ん中に置かれたパイプ椅子から立ち上がる。
「……さっきぶりだ。夢田くん」
「おっす。超能力者仲間の夢田です」
「そうらしいね。まさか僕たちの他にいるとは」
(そういえば二人でこうやって話すのは初めてだな)
クラスの人気者と日陰者。お互いの存在を多少意識はしていたが、交わることは今までなかった。
「さっきのゲームは君が?」
「俺、というかほとんど水留の力だ」
「達磨の方は多分君だろ。正直助かった。僕の能力はあの二つのゲームでは何の役にも立たなかったから」
「まああれはな……」
去来川の能力は? と聞き出す前に、先に質問をされた。
「催眠能力だったか。悪用しようとは思わないのか?」
来た、ここだと夢田は拳を握る。
「正直に言おう、最初は思った。魔が差したとでも言うべきか。だが怖くなってしまった。俺は自分が善人ではないこと、そして臆病なことを自覚した。それ以来この能力は使えなかった。そんなとき、このデスゲームが始まった」
夢田はスマホを取り出して、真っ暗な画面を見つめる。反射しているのは自身の顔。
「俺の力が人のために使える。正義のために。だが俺の力だけじゃ駄目だった。前回のゲームは水留がいたから皆を救うことができた」
去来川の目を正面から見ながら、夢田は手を差し出す。
「俺以外の能力が必要だ。俺のちっぽけな正義のために、この手を取ってはくれないか」
ふっ、と去来川は笑みを溢す。
「正直、夢田がそんなに熱い男だとは思わなかった。いいよ。このふざけたデスゲームに打ち勝とう」
二人は固く手を繋ぐ。その握手に、夢田は内心でほくそ笑んだ。
(ちょろいな。後は去来川の能力が何なのかだが……)
ふと見れば、去来川はなにかに集中するように目を閉じていた。
(……握手が長いな)
「夢田。僕は正義という言葉が嫌いだ」
「──は?」
「なぜならその言葉を使う人間は、この世に正義があると信じ込んでいる馬鹿か、言葉巧みに騙そうとする悪人しかいないからだ」
夢田はその手を振りほどく。しかし、もう遅かった。
「教えてやろう。僕の能力はサイコメトリー。手で触れた人や物の持つ過去を読み取ることができる。今、君の過去を見た。今朝の黒川さん達にしたことや、それ以外も全部。……ずいぶんと好き勝手やっているみたいじゃないか。石田さんの言ったとおりだった。君は最低最悪の下衆野郎だ」
してやられた。そう毒づく。
逃げようとした次の瞬間、彼は両手を拘束されていた。まるで時間でも止められたみたいに。
「僕は君を信用できない。協力はできないし、野放しにすることも出来ない」
背後にいる誰かの腕が首に巻かれる。夢田は倉庫内にあった鏡の反射で、後ろの人物を目視した。
「水、留……?」
頸動脈が絞められる。薄くなる意識の中で、水留の声が夢田の耳にかすかに聞こえた。
「安心してよ。私は殺さずに意識だけ落とすのが得意だからね」
◇
『──それでは、「王国ゲーム」を開始します』
そんなアナウンスに、夢田の意識は覚醒した。
「……くそっ、ガチガチに縛りやがって」
場所は変わらず倉庫の中である。扉を見たところ鍵もかかっていた。
(石田明……履歴に名前があるということは、催眠自体にはかかっているはず。どうやって「嘘をつけない」催眠を掻い潜った)
そしてさらに疑問なのは、水留の裏切りである。
(水留も最初からグルだったのか……?)
「シクシク……」
「……ん?」
情けないすすり泣きが聞こえた。見れば、夢田の他にもう一人縛られている女子がいる。見覚えのある、長い金髪とピアスの──。
「──お前、去来川の妹か!?」
「ち、違うよ! み、水留孝だよ! なんか体が入れ替わってるんだ!」
「どういうことだ」
彼が言うには、去来川の妹とキスをした瞬間、入れ替わった上で縛られていたらしい。
(去来川の妹も超能力者だったということか。キスをしたら魂が入れ替わるとかそういう……)
「いや待て。なぜキスをした」
「え、ほら。可愛かったから、二人が出ていった後時を止めて」
「襲ったのかこのヤリチンが!」
「お、襲ってない! 体を触る前に唇を頂こうと」
「お前にとってそれは未遂なのか。もう手遅れだな」
「しょうがないだろ! 生意気なギャルはわからせてやるんだ」
「それはまあしょうがないか」
なわけないだろう。もうこの二人は手遅れである。
(つまり、だ。旧部室を出るとき、石田は去来川妹とキスをして入れ替わっていたわけだ。俺を倉庫まで連れて行ったのは、中身が去来川妹だった。それならば嘘を付く事もできる)
「お、女の子の体って、すごいね、ふふ。身をよじってるだけでも柔らかい」
夢田は、気色悪い笑みを浮かべている金髪少女(水留)から目をそらした。
◇
「能力のためとはいえ、一日で三回もキスするなんて……」
「まあまあ、一回は自分の体と、一回は意識を失った水留君となんだから、実質キスは私とだけだって」
「それだけでも十分嫌なんだけど」
気にするふうでもなく笑う石田に、水留の体に入った去来川翼の妹、去来川咲希は一歩引いた。
「わかってたことだけど、咲希ちゃんは演技が下手だね。石田明の一人称は俺じゃなくて私だから。気づかれなくてよかった」
「うるさい」
「まあ何にせよ、これで君は時間停止の能力を得ることができた。それに翼君も、夢田君の正体を知ることができて良かっただろう?」
彼は眉をひそめながら頷く。
「まあ、感謝しています。そしてあなたがタイムリーパーだということも信じますよ」
「ありがとう。もう少し態度を柔らかくしてくれるとさらにありがたいけど」
「今日突然声をかけてきた人間にそこまで信はおけませんよ。なにより、僕はあなたを信じていない」
去来川翼が石田明の手を握るが、彼は穏やかな笑みを浮かべたまま動じない。
「……あなたの過去は潔白だ。清々しいほど真面目な人生を歩んでいる」
「それはどうも?」
「だが僕のサイコメトリーじゃ、あなたがタイムリープした過去を見ることができない。つまりあなたがタイムリープした世界線で、何をやっても僕からは見えないということだ」
どうせ何かしてるんだろう? と言わんばかりに去来川翼は彼を見上げた。
「……疑わしきは罰せず、だろう? それに君は結局、タイムリープ能力が味方にいることの実利を取る。そういう人間だ」
去来川翼は手を離した。石田の笑みは変わらない。
「そして忠告しておく。私のタイムリープ能力で何度やり直し、夢田君たちを無力化しようとしても、どういうわけか彼らは二日後まで封じ込めることはできない。私の能力と時間停止を得てようやくイーブンと思っていい。彼の頭脳は天才的だよ」
それを聞いて、去来川咲希はスマホを弄りながら尋ねた。
「じゃあなんであの二人を縛るだけなの? アタシはあんな下衆共、殺しちゃえばいいと思うけど」
割と正論であった。
「それは駄目だよ。意図的に殺すのは絶対にNO」
「なぜ?」
「理由は二つ。一つは、夢田君を本気にさせてしまうから。彼は今は女の子だけを生かそうとしている。だが殺そうとすると、本気になって意識のハードルが下がる。どんな手段でも使うようになる」
去来川咲希は首を傾げた。石田は両手を上げて首を振る。
「生かす女の子以外の生徒を積極的に消費してくるんだ。つまり催眠して死兵にする。デスゲームで死ぬ人数より彼に殺される人数のほうが多くなる。それは避けたい」
「ふーん。もう一つは?」
「翼君が闇堕ちするから。一人殺した時点で歯止めが効かなくなる。生かすべき人間とそうでない人間の線引きを始める。そして最終的には自分を犠牲にする」
「それはダメ!」
咲希は小さく叫んだ。石田明がニヤリと笑う。
「そう。だから殺しはダメ」
(まあ、自分を犠牲にする前に私が「生かすべきでない人間」に分類されちゃうんだけどね。それを避けるためにも、彼の手は綺麗なままにしておきたい)
石田明は胡乱な目で彼を見る去来川翼に、ふっと笑いかけた。
「とにかく、目下は次のゲームだ。私達の超能力で、王国を創り上げよう」
◇
「……つまり、夢田くんの過去を見て、決裂したんだ」
「ああ。最低最悪の下衆野郎だとさ。チクショウ、正論だ!」
「まあ、外道のためのエロライフ同盟だからね、僕ら」
二人は身を捩りながら会話をする。しかし自力で拘束を解くのは不可能に思えた。
「水留、時間停止は使えないか?」
「う、うん。もうどう時間を止めていたのかもわからない」
「能力は体に依存するんだな。今は去来川達が時間停止の能力を保っていて、水留が使えるのは入れ替わりということか。まあ今時間止めても解決にはならんが」
何よりまずいのは、感触からするに夢田のポケットにスマホが入っていないことだ。催眠アプリがなければ、夢田はただの一般男子生徒である。
「リスクはあるが……とにかく叫びまくって周りの人に気づいてもらうしかないか」
「あ、いやいや待ってください。スマホなら私が持っていますから」
突然倉庫の中に聞こえた女性の声に二人は視線を回すが、人影はなかった。
そして気づく。宙にスマホが浮いていることに。
「……俺のスマホだ。なぜ」
「彼らに盗られる前に抜き取っておきました。なぜかそうしたほうがいい気がしたので」
見せつけるように空中で揺れるスマホ。それがスーッと夢田の前に近づいてくる。
「超能力者か」
「はい。白井透香といいます。私は体を透明にすることができます。ちなみに服は透過しません」
「なるほど……。なるほど? つまりなんだ。君は今……」
「全裸です」
「中々な能力だな」
「はい。私はとても楽しいです。どこでも全裸になれるので」
「ん? うん?」
情報量が多く、夢田がフリーズする。
「私は露出狂です。変態のためのエロライフ同盟だと聞きました。私も変態です。同盟に入れてください」
「悪いが俺達は今騙されたばっかでな。我ながら警戒心が高いぞ」
「変態の証明をすればいいのですか?」
「ん? うん? 君もしかして結構変な子だな?」
別に夢田は彼女が変態でないことに対して警戒しているわけではない。
「私は今開脚をして、あなたの顔の前にしゃがんでいます」
「……ほう?」
夢田は身を捩りながらぐっと首を伸ばす。まだ何かに触れた感触はない。
「ああ、あと5cm、4cm……」
「はぁ……はぁ……」
「もう少しです。頑張れ頑張れ」
「くっ」
「夢田くん、はたから見るとやばいやつだよ」
「やめろ水留。金髪美少女の姿で俺を蔑むな」
パンッと手を叩く音が響いた。
「はい。ここまでです。とにかく、スマホと拘束を解いてほしければ、私を同盟に入れてください」
「……解けるのか?」
「なぜかハサミを持ってきたほうがいい気がしたので」
「色々疑問はあるがわかった。頼む」
縄を切られながら、夢田は思考を巡らせる。
「白井さんは、なんでここにいるんだ? 鍵が掛かっていたはずだが」
「去来川さんでしたっけ? 彼らがここに来る前からいました」
「なぜ?」
「なんだかこの倉庫で露出したい気分になったので。シリアスな場面で私だけ全裸というのはとても興奮しました」
「……本来誰もいないのに?」
「あれ、そういえばそうですね」
(石田はこの事態を想定していなかったのか? 透明人間の白井さんを認識できなかったから? いや、それなら前のループから場所を変えればいいだけだ)
夢田の拘束が解け、自由になる。体をほぐし、一つ伸びをした。
(白井さんの行動はあまりにも不自然だ。誰かが誘導している。石田に対して先手を打つことができる誰か。例えば二人の思考を盗聴することができたなら……)
………………彼の勘は鋭かった。
(テレパシー能力者。俺の思考も覗いているのか?)
彼は僅かな情報だけで、「私」の存在を看破した。
そう。テレパシーによって、私は石田明の思考を読み、タイムリープに対して手を打つことができる。虫の知らせのように多少誰かの行動を誘導することもできる。
エロライフ同盟に興味はないが……私、七海歌織は君の下僕であり、君のために「最善」を尽くし続ける。しかし、仮に繰り返されるループの中で一度でも私の存在に気づけば、石田は対応してくるだろう。
だからバレるわけにはいかない。タイムリーパーの対策は私が行おう。そこから先は夢田がなんとかするしかない。
私はもうしばらく「傍観者」に徹することにしよう。私に今できることは、語り部くらいなものだから。




