21−37 成長だと喜ぶべきなのか、堕落だと嘆くべきなのか
インターバル、ってわけじゃないんだろうけど。向こうさんにもそれなりに準備期間が必要なのか、蠢くばかりでまだ本格的に攻撃してくる様子はない。であれば、今のうちに奴を叩くのも手だとは思うんだが。……そこにはやっぱり、「相手が霊樹だから」っていう理由が幅を利かせてくるみたいで、スパッとヤッコさんを斬り伏せるのは最終手段なのは、変わらない。
なんと言いますか。……妙に退屈と言うか、まどろっこしいと言うか。シンプルにお片づけできないのが、俺にしてみればとっても歯がゆいんですけど。
(ま……俺が無意味にモンモンしたところで、天使ちゃん達の決定を覆す理由にはならんか。……ここは我慢、我慢……っと)
しかし……我ながら、健気にも程があると思う。悪魔なのに、嫁さん達の顔を立てるために我慢するとか。これは成長だと喜ぶべきなのか、堕落だと嘆くべきなのか。俺には今ひとつ、よく分からない。
「で? 準備は進んでいるって事で、オーケイ?」
「うん、大丈夫だと思うよ〜。ほら、ダンタリオンちゃんもやる気満々だし。生贄も十分に集められたみたいだし。ここまでくれば、準備万端って感じ?」
俺の内部事情はさておいて……一応は親玉として、配下のご様子も忘れずに見に来ましたよ、っと。だけど、当人と兄貴は大忙しも大忙しなもんだから。なんだかんだで、新作魔法のお手伝いをしていたベルゼブブから、代わりにご説明をいただいていたりする。
(ま、ベルゼブブも魔法はガッチリ詳しいし、とりあえずはこいつの説明を信頼する……で良さそうか? でも、なぁ……)
ダンタリオンが絶好調だろうが、やる気満々だろうが。魔法の出来には関係ないのが、辛いトコロ。「前回の失敗」の様子を見ていても、俺としてはダンタリオンが調子をブッこいている方が不安だったりする。
確かに、生贄(魂の怨嗟)の分量は問題ないんだろう。だけど、今回は対象が本チャン……化け物になりすましているとは言え、元は正真正銘の霊樹だった相手だ。リルグの霊樹もどきとは、規模も次元も根本的に違う。
(その上、問題はそれだけっじゃないっぽいな……)
ダンタリオンと兄貴が気づいているのかどうかは、知らないけど。あんなに高く舞い上がったグラディウスに、どうやって魔法を打ち込むつもりなんだろう。
魔法は展開先の照準が合わなければ、満足に効果を発揮できないことも多い。意外に思われるかもしれないが、魔法を使いこなすには頭の出来と同レベルで、ターゲットとの距離感を咄嗟に把握できるだけの感覚の鋭さも求められる。正確な位置を把握できない場合、魔法の失敗で他の相手にもご迷惑をおかけする事になるから……空間把握能力を磨くことも、とっても重要だったりして。
で……インドア派のダンタリオンに、そんな視点はないだろう……が俺の予想。あいつは魔法を使うのも、好きではあるんだろうが。主な趣旨は何となく、研究に伴う実験の意味合いが強いように思える。そんでもって、その辺は多分……兄貴も変わらない気がする。あいつらの魔法はどこまでも、研究のお題であって、実戦投入が最終目標じゃない。
うん。……魔法研究部の存在意義、やっぱ危ういぞ。ここは1つ、俺から問題提起してみるか。
「あの、さ。ダンタリオン、ちょっといい?」
「なんですか。また、マモンですか? わざわざこんな所にまで邪魔しにくるなんて、ご苦労様ですね」
「邪魔しに来た訳じゃねーし……。つーか、いつもいつもお前の邪魔しているつもりはないんだが……?」
今、忙しいんですけど……って、顔に書いてあるのも分かるんだけどな? いつもながらに、俺こそをちゃんと敬ってくれないかな。俺のヘソ、更に曲がりそうなんですけど。
「お前の不敬は今に始まった事じゃないし、まぁ、いいか……。ところで、さ。……あんなに高い所で飛んでるあいつに、どうやって魔法をお見舞いするか、考えてる?」
「えっ……?」
俺の当然の指摘に、硬直するダンタリオン。この様子だと……なーんも、考えてなさそうだな。
「あぁ、それなら問題ありませんよ。打ち込み用のアンカー、用意してきてますし」
「あ?」
しかし、まごつくばかりのポンコツ悪魔を尻目に、兄貴がしれっとそんなことをおっしゃる。……打ち込み用のアンカー? それって、何か? 怨嗟を押し込んだお人形に仕掛けでもしてあるんだろうか?
「バビロンから、是非に連れて行った方がいいと……彼を託されていましてね。聞けば、あれはバビロンが飛び立つ前のグラディウスの底で拾ったんだとか。で……どうも彼、あのグラディウスを制御している術者の悪あがきで生まれたみたいですよ?」
「彼……って、えぇと、その爬虫類もどきの事か? それにしちゃ、ちょいと見ないうちに随分とご立派になったな……?」
「ホント、ホント。バルちゃん、立派になったよねぇ……!」
そうして、俺の隣からベルゼブブも感嘆の声を上げるけど。あっ。そう言や、こいつ……バルちゃんって言うんだっけ。
そんなバルちゃんを、見上げれば。ルルシアナ邸でお会いした時よりも、更に竜族チックな風貌に磨きがかかっている気がする。ほんの少し前までは、ちっこい体でパタパタ飛び回るしか能がなかったはずなのに。……今のこいつはどこをどう見ても、シルエットは竜族そのもの。デカさこそ、ゲルニカさん達には及ばないものの、口からズババババ……って、炎を吐かれても驚かない気がするな。
「は〜い、お兄さん達も、お久しぶりですぅ! バルちゃん、ちょっと頑張ろうとやってきました!」
「あ、あぁ……?」
……見た目はゴツくても、中身は胡散臭い爬虫類のまんまなんだな。なんか、拍子抜けしちまうんだけど。
「顔合わせ、済みましたか? 感動の再会はさておき……バルドル。今のあなたであれば、お人形ごとグラディウスに届けられる……で間違いないんでしょうね?」
「もちろんですよ〜! そもそも、僕はそのために残されたようなもんですし。ちゃぁんと、お役目も果たして見せますぅ!」
きっと、バビロンに言い含められていた部分もあるんだろう。意外と素直に、バルドルがコクコクと兄貴のお言葉にもしっかりと応じる。だけど……「そのために残された」って、どういう意味だろう?
「それはそうと、ダンタリオン。お前さんの計画の杜撰さも、しっかりとこちらの爬虫類サマがフォローしてくれるんだと。ヨカッタデスネー?」
「も、もちろん……わ、私だって、照準合わせの問題くらいは、きっ、きちんと……」
「シドロモドロになってる時点で、ノープランが丸見えだっつの。……ったく、こんな調子じゃ、先が思いやられるな〜。なぁ、ミカエリス。お前もそう思わない?」
「う〜ん……どうなんでしょうね? でも、確かにボスが言う通り、ダンタリオン様は意外と抜けてるからなぁ……」
「あっ! ミカエリス君まで、そんな事を……!」
弟子にまで「間抜け」だとやんわり指摘されて、ダンタリオンがプンスカと怒り始めるけど。そんな彼らの様子に、ミカエリスの後ろでリヴィエルがクスクスと笑っている。そして……そのリヴィエルをこれまた嬉しそうに見守るミカエリス。
……なるほど。恋愛に関しても、お弟子さんの方が成長をしでかしているっぽいな。これまた、ヨカッタデスネー。




