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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第3章】夢の結婚生活?
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3−29 ぺったんこはやめてやってくれよ

 魔界の霊樹・ヨルムツリーのあまりに「らしくない」奇妙な習性を聞かされて、ちょいと脱力しちまったが。ベルゼブブに確認したいことは、当然ながらそれじゃない。そうして、忘れずに重要な質問を親玉に投げてみる。


「あ、そうだ。でさ、もうちょい話を聞いてもいい?」

「うん?」

「最近、他の大悪魔のところも含めてなんだけど……新入りの目立つ悪魔とか、来てないか?」

「新入り、ねぇ……。あぁ、そう言えば。サタンがそんな事、言ってたかも」

「サタンの所か……」


 となると……取り憑かれた欲望は怒りの類か。なんだかいよいよ、予想が合っていそうな気がして、我ながら怖い。


「でもさ、その子、ちょっとヤバいみたいよ?」

「ヤバい?」

「理性が吹き飛んでいるみたいでね。まるで獣のように暴れているってさ。だから……今は辛うじて、首と両手足を鎖で繋いで制御しているらしい」

「……」

「あぁ、そうそう。それと。その子、右手の指が擦り切れていたってさ。だから、1本指がないらしい」


 指が擦り切れている……か。

 悪魔は魔界で怪我をする分には、手足くらいは時間をかければある程度は再生する。しかし、それが再生しないということは……魔界に来る前か、闇堕ち途中の時にできた傷という事だ。だとすると、俺が知っている相手かどうかはさて置き……アーチェッタの悪魔文字の主である可能性は高い。


「……そうか。もしかしたら……俺、そいつのことを知っているかもしれない」

「本当……? なんか、心当たりあるの?」

「あぁ。実は、嫁さんの仕事の関係で、人間界の教会が悪さしている案件に首を突っ込んでてな。でさ、割合新しい施設のとある場所に、ヨルム語が刻まれているのが見つかったんだ。しかも、中身がどう見ても恨み言でな……」

「恨み言? それで、それで?」


 どうやら物々しい内容に興味を示したらしいベルゼブブに、アーチェッタでの出来事と……俺が考えていることを伝える。ついでに、それが刻まれていた場所の素材についても心当たりがないか、尋ねてみた。


「う〜ん。そうなると、その子がそこで闇堕ちした可能性は高そうだねぇ。サタンにも聞いてみるけど、その子の名前、見当つきそう?」

「多分、プランシー……コンラッド・プランシー、だと思う。もともと、孤児院で子供達の面倒を見ていた神父だ」

「そう……なるほど。ハーヴェンは子供達絡みで、彼のことを知っているんだ。……分かった。とりあえず、サタンに会う機会があったら、伝えてみるよ。それでなくてもその子、凶暴だけど魔力レベルはそこそこ高いみたいでね〜。サタンの方もなんとか、自分の配下に加えたくてしょうがないみたいなんだ。ほら、あいつ憤怒の悪魔のくせに、意外と見栄っ張りだろ? だから、ハーヴェンが追憶の試練をクリアしてパワーアップしたのが、メチャクチャ悔しかったみたいでね〜。まぁ、その辺はアスモデウスの入知恵もあるみたいだけど……」

「……なんだか、俺のせいで面倒に巻き込んじまってすまないな」

「ん? 別に構わないよ? 僕は今日、ケーキで大満足だし。あ……半分は取っておこうっと」


 ベルゼブブは器用にカウチの横にある冷蔵箱の扉を足で開けると、ケーキの箱にそっと一息かける。すると、まるで……生き物のようにケーキの箱が大人しく冷蔵箱に吸い込まれていく。それを心なしか名残惜しそうに見送って、また器用に足で冷蔵箱の扉を閉めた。


「で、文字が刻まれていた素材について、だけど」

「あぁ」

「何色だった?」

「色……? 白、それこそ曇りもない真っ白……純白って感じの色だったけど?」

「そう。色が白で悪魔文字を刻めて硬い素材……う〜ん。この辺はルシファーに聞いたほうかいいかな……」

「ルシファーに……か?」

「色からしても、魔界にある素材じゃなさそうなんだよねぇ。で、話の中に出てきた天使の武器が通用しなくて、ヨルム語が刻めるってことは……光属性にある程度、耐性がある素材なんじゃないかな?」

「おぉ、なるほど」

「多分、そいつの出どころは神界だと思うけど。だってその武器……結構、ヤバいんでしょ?」

「あぁ、かなりヤバい。嫁さんのハイネストプリズムウォール、っていう最上級の防御魔法でも防げなかった」

「え……ナニナニ? ルシエルちゃん、そんな魔法まで使えるの? だってあの子……四翼だったじゃない」


 ベルゼブブは長齢な分、そういうところの知識も結構あるから……突っ込んで欲しくないところまで気づいてくるのがまた、厄介だ。だが、その前に……妙に神界の事情にも詳しい気がするが。何か、理由があるんだろうか。


「嫁さんは色々と、特例が付き纏う女だからな〜」

「まぁ、そうだよね〜。それでなかったら、ハーヴェンがここまで入れあげたりしないよね」

「……入れあげてて、悪かったな」

「ま、ともかく。そんな武器ですら傷つかなかったなんて、よっぽど頑丈なのか、魔力を吸う素材なのか……はたまた、その両方とか?」

「なるほど……魔力を吸う性質、か。考えてもみなかった」

「とは言え、僕もそれ以上はちょっと分からないし……かつては神界に居たはずのルシファーなら知っているかも。まぁ、ルシファーは傲慢の悪魔だから、ちょっと気難しいけど。意外と、姉御肌で困っている相手は助けちゃうタイプだし。僕としてはあのツンツンした感じ、たまらないんだよね〜」

「……結局、お前が会いたいだけじゃねぇかよ。まぁ、いいや。とにかく……今日は色々と教えてくれて、ありがとうな。とりあえず、クロヒメはこのまま連れていくのと……帰りに、子分達にお土産を配っていっていいか?」

「お土産? なに……ウコバクにもお土産、用意してくれてるの?」

「あ。これはどっちかっていうと、それこそ嫁さんから……かな? コンタローがルシエルの用意した小魚を飛び上がって喜んだのに、気を良くしたみたいで。今日はみんなの分も持たせてくれたんだ」

「ヘェ〜。なんだかんだで、ルシエルちゃんはいいお嫁さんだよね〜。それで夜のお相手もしてくれるんなら、言うことなしじゃん。……ぺったんこだけど」

「……頼むから、ぺったんこはやめてやってくれよ」


 結局、ルシエルが「ぺったんこ」という認識を覆してやることができずに、ちょっと申し訳ない気分になる。確かに、彼女はグラマラスなタイプじゃないけど……ないならないなりに、俺としては可愛いんだけどなぁ……。まぁ、悪魔は異常に「ボンッ! キュッ! ボンッ‼︎」みたいな分かりやすいのが好きな傾向があるから、ベルゼブブがそこをしつこく気にするのは、仕方ないのかもしれない。

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