21−19 ボッコボコの、メッタメタ
「ルシエル! プランシーを見つけたのか⁉︎」
「グスッ……! ハ、ハーヴェン、いい所に! コンラッドかどうかは分からないが……あいつから、聖剣とやらの魔力反応があった! だから……」
手元のパネル(触角丸出し)に若干涙目になりながら、ルシエルがターゲットのラディウス天使達をクイと顎で示す。そうして、俺がやってきたことに安心してくれたのか……そそくさとパネルをしまい込んでは、左肩に陣取ってきた。……もちろん、お耳を握りしめる所業も忘れていない。
「とにかく、ハーヴェン! マジックディスペルを試して欲しいんだけど……」
「あいよ。任せておけって! 常しえの鳴動を響かせ、仮初めの現世を誑かせ! ありし物を虚無に帰せ……マジックディスペル!」
得体の知れない魔法効果には、まずマジックディスペルで打ち消しを狙ってみる。とは言え、魔法道具による魔法効果には通用しない事も多いから、この場合の使い所としては微妙かも知れない。
魔法道具の構築度合いや、魔法効果そのものの種類にもよるけれど……構築がきっちりしている魔法道具であればある程、マジックディスペルの成功率は下がる傾向がある。魔法道具による魔法効果は「魔力の前払い」込みで得られるものだからな。想定外(主に使用者の魔力不足)を踏まえて、どんな状況でも使えるようにしてあるのが普通だ。きちんと作られた魔法道具というのは、そういう想定も込みで構築されているもんだから……おいそれと解除魔法で打ち砕かれないようになっているのも、セオリーだったりする。もちろん、前払い分をケチれば、魔法効果の寿命や効力は目減りするけれど。……そんないい加減な作りをしている魔法道具が、こんな大一番に持ち込まれているとも思えない。
(しかも、ターゲットがロンギヌス由来の光属性の塊でもある以上、魔法効果の解除も望み薄だろうな……)
しかし、望み薄どころか……意外にも効果を発揮したマジックディスペルが剥がしたのは、ラディウス天使達にかかっていたちょっとした補助魔法だったようで。魔法効果解除と同時に、何故かラディウス天使達がパワーアップしているように見えるんだけど……?
「……ルシエル、済まない。どうも……想定外のメッキが剥がれたっぽい」
「あ、あぁ……コレはもしかして、してやられたか……?」
多分、プランシーは俺がマジックディスペルを利用することを想定して、ラディウス天使達にあらかじめ「化けの皮」を被せておいたのだろう。まさか……敢えて味方に弱体化系統の魔法を施しておくなんて。
「この角は悪魔的な趣味なのかなぁ? どこをどう見ても、天使には見えないな……」
「そうだな。天使を象っているのも、不服だが……悪魔を気取っているのも、不愉快だ。何れにしても、こいつは囮だろうな」
目の前でメキメキと文字通り頭角を表し始めたラディウス天使は、今まで相手をしてきた奴らとは別格の空気を纏っている。体躯は俺と同じくらいのサイズだが、腕が8本もある上に……各腕にラディウス砲も標準装備でバッチリ。アハハ……こいつは冗談抜きで、プランシーにしてやられたみたいだぞ……?
「大天使にはある程度の魔力検知能力が備わっているのを、コンラッドも知っていたのだろうが……ここまで入念に魔力情報をコピーしておく時点で、こちらの魔法道具も想定していたと考えるべきか? それにしても、本当に……あぁッ! 無性に腹が立つ! こうも裏を掻かれるなんて!」
「ドウドウ、ルシエル。とにかく……今はそのアンガーな気持ち、あいつにぶつけた方がいいんじゃない?」
怒りは俺の耳たぶじゃなくて、アレに丸ごとぶつけちゃって下さい。世界の平和のためにも、俺の耳たぶの平和のためにも。
「それもそうだな……! こうなったらロンギヌスじゃなくて、拳で分からせてくれようか……?」
「えっ……?」
だけど怒りをぶちまけるにしても……ルシエルが口走った手段が更に物騒なのに、慄く俺。
拳で分からせる……? ルシエルさん……それ、本気⁉︎ 本気なの⁉︎ 武器もなく、本当に素手で……?
「シャラぁぁぁぁッ‼︎ 大天使を舐めんなよ、このガラクタがッ!」
「ヒィッ⁉︎」
俺が困惑しているのも、露知らず。左肩が軽くなったかと思えば、間髪入れずに嫁さんの怒声がこだまする。そうして「ボキッ!」とか、「メコッ!」とか……聞くに耐えない恐ろしい音を響かせて、ラディウス天使(悪魔風味)が見事に凹むんだ。それはそれは、もう……ボッコボコの、メッタメタに……!
(怖い、怖い、怖い! 今日のルシエルさん、スペシャルに怖い! 俺、この場から超逃げたいッ!)
大体、いつも思うんだけど……どこから、そんな馬鹿力を捻出しているんだよ⁉︎ いや、さ⁉︎ 俺もルシエルさんの左ストレートで結構な回数、ぶっ飛ばされてるけど⁉︎ 今のそれは、いつもの比じゃないぞ⁉︎ もしかして……普段は本気ですらなかったって事⁉︎
(えぇ〜と……ここは多分、俺に求められているのは援護射撃じゃなくて、癒しのフカフカ毛布役だろうな……)
だって、ルシエルさんだけでラディウス天使がスクラップになっていくんだもん。ラディウス砲を器用にロンギヌスで防ぎながら、今度は見事な左アッパーが炸裂してるんだもん。俺には流れ弾一筋さえ、飛んでこないんだもん。……完璧に戦力外だぞ、俺。
「フーッ、フーッ……! ふん! 図体がデカイ割には大した事ないな! それにしても……何だ、最初から素手で戦えばよかったのか」
「そ、そうかもな……?」
案の定、フーフー言いながら俺の元に戻ってくると……ちょっと休ませろとばかりに、今度は腕の中にピットインする嫁さん。ちんまりと見事な収まり具合も、可愛い甘え具合も想定内だし……理不尽なまでに凶暴なのも、通常運転だけど。でも……さ? 拳1つでここまで見事に機神族をスクラップにするなんて、旦那の俺でも想定外だからな?
***
どうやら上手く撒けたようですね。
ルシエルが機神族相手に、獅子奮迅の暴挙をしでかしている頃。既にプランシーは聖剣の術中に囚われたままのヤーティを伴い、グラディウスへの帰還を果たしていた。きっと、自分が帰ってきたことも察知したのだろう。妙に焦げ臭い匂いが充満する居城を、再び守り始めて機神族達がサッと道を開けるのに……女神様の「お達し」が効いているのだろうと、プランシーは尚も面白くない気分にさせられる。
(いずれにしても……私のお役目は達成と言うところでしょうか。ヤーティ様には申し訳ありませんが……これも女神様の思し召し。本当に……下らない箱庭作りの一環です)
しかしながら、メタモルフォーゼを解いた瞬間……鋭利な刃まみれの翼に戻ってしまっては、ヤーティを「傷物」にしてしまうだろう事も気づいて、嘴にそっと咥える。見れば……ヤーティは可哀想に、聖剣の幻術に囚われたままうなされているらしい。しかも、自身が素材の提供者ともなれば……ヤーティと聖剣の相性は残酷なまでに良好だった。
(……まさか、こうも簡単に魔界の重鎮が陥落するとは……。やはり、女神様は悪趣味なほどに偉大ですな)
彼女とヤーティとにどんな接点があったのかは、プランシーには知る由もないが。聖剣経由で彼女が下した判断はどこまでも正しかったろうと、プランシーは改めて身震いする。そう、彼女もプランシーも……よくよくヤーティの特徴を知っていたのだから。
悪魔のクセに規律正しく、慈悲深く。憤怒の領分を持つクセに、冷静で理知的で。そして……ヤーティは誰彼構わず怒りをぶちまけられる程、短絡的でもなければ、薄っぺらい交友を築くタイプでもない。とことん突き詰めれば、彼が相手のためを思って怒りを露わにするのは、サタン相手だけだ。そして、サタンに対して常々厳しかったのは……偏に、先代・スウィフトの遺志を受け継いでいたからに他ならなかった。




