21−10 渡る魔界は変人ばかり
そろそろ本陣に突入か? 絶え間なく出てくる敵さんも斬り伏せながら、いよいよグラディウス本体の近くまでやってきましたマモン様ですよ、っと。しかし、本丸に近づけば近づく程、相手の手先も増量した上に濃厚になるもんだから……どうしたもんかなと首を捻る。ここはバッサリ、元凶ごとカリホちゃんで一刀両断したいところだけど。向こうさんは大物霊樹だし、吐き出している魔力が特殊とかで……このまま伐採していいなんて、単純なハナシじゃないみたいだしなぁ。
(しかし……何だろう、変な胸騒ぎがする。えーと……)
ハイハイ、嫁さんは問題なく無事だ。でもって、配下も今のところ大丈夫っぽい。
そうして辺りを見渡しても、相変わらずの戦場が続くだけ。刀を振り振り、敵さんを遠慮なくバッサバッサと刻むのも飽きてきたな……と思い始めた頃。俺の背中を突如、得体の知れない虫唾が走る。……うん、なんだか、物凄く嫌な予感がする。
(……気のせい……か?)
しかし、気のせいにしては……あまりにリアルだったんだよ、さっきの「イヤーな予感」。なんか、こう……直接背中を掻きむしられたように、ゾワゾワすると言うか……。
「アァッ⁉︎ テメーら、アタシに何させようってんだヨ⁉︎」
「……⁉︎」
って、今のは何だ⁉︎ 間違いなく、リッテルの声だよな? えっ? リッテル、突然何を暴言吐いてるの⁉︎ もしかして……何かお気に障る事したのか、俺⁉︎
「今の、私の声だった気が……?」
「はっ? いや、紛れもなくお前の声だったぞ?」
「そ、そうよね……だけど、私は何も言って……」
「突然、こんなトコロにしょっ引くんじゃねーよ‼︎ このクソッタレが‼︎」
「……えっ?」
……リッテルさん、もしかして副音声サービスでも始めたんですか? キレッキレの罵り言葉に、十六夜が興奮し始めちゃったんですけど……?
(おほ⁉︎ とうとう、奥方もサディズムに目覚めたのかえ⁉︎)
いや。多分、そうじゃない。頼むから、そうじゃない……であってくれ。
「しーっ! リッちゃん。いい子だから、もう少し大人しく……」
「うっせぇよ、クッソジジイ!」
「な、なんと……! 生みの親に対して、この暴言……! ふむ、悪魔としては上出来ですかな? ふふ……なかなかにいい仕上がりです」
「……あ?」
今……リッちゃんって、言ったか? しかも……あそこにいるの、ダイダロスだよな?
「……おい、ダイダロス。お前……それ、どうしたんだよ?」
「えっ……ウワァァッ⁉︎ も、も、もしかして……そちらにいらっしゃるの、マモン様ですか⁉︎」
「……どこをどう見ても、俺はマモンですけど? 随分と面白いご冗談……いや、今のはタダの寝言か? だったら、寝言はきちんと寝て言えるように……お前さんは本格的に永眠させれば、オッケーだな……!」
この野郎……! 性懲りもなく、ふざけた奴を侍らせやがって。ここは、徹底的にお仕置きを……って、こんな状況じゃ、無理か。
「あぁぁぁ! もう! さっきからブンブンブンブン、うっせぇわ! テメーらは大人しく、墜落しとけ‼︎」
敵の皆様は俺にご執心なのか、なかなかに世間話すら許してもらえない。だけどな、俺は今……猛烈に怒っているんだ。ここは1つ、憂さ晴らしに付き合ってもらおう。
こんな時でさえ鬱陶しく飛び回る敵さん達を雷鳴と風切りとを使って、強制的に黙らせる。そうして、八つ当たりも兼ねて撃沈させたところで……ハイ、事情聴取と参りましょうか?
「ハイハイ、お待たせしましたね、っと。お前さん、さ。……誓約書の内容、忘れたわけじゃないよな?」
「い、いや……これには深い事情が……」
「ほぉ? 俺を敵に回す覚悟もできちゃうくらいに、深ーい事情なのか、それは?」
「えーと、その……!」
「パパが怒っているでしゅ……!」
「あっ。ダイダロス様、死にましたね。これは」
「間違いなく、死刑ですよぅ!」
クソガキ共からも死刑確定な呟きが出たところで、元から青かった顔を更にブルーにして、ガタガタと震え始めるダイダロス。あまりに情けない体たらくに……きっと、本人がうまく弁明できないと状況を汲んだのだろう。普段はリヴァイアタンにくっついているはずのベールゼフォーが口を挟む。
「ゲコ……すみません、マモン様。ザーハ様へのお仕置きは後でしていただくとして、今はリッちゃんファイナルをリヴァイアタン様にお届けする方が先でゲコ」
あっ、こいつ的にもお仕置きはアリなんだ? そんじゃ……もうちょい、話だけは聞いてやるか。
「だとすると……何か? それの制作はリヴァイアタンの指示か?」
「いいえ……そうではないゲコ。ただ、リッちゃんファイナルに頑張ってもらいたい事案が発生したので、連れて来たんです」
「あぁ⁉︎ だから、アタシに何をさせよってんだヨ⁉︎ この、ゲロ野郎!」
「……」
その前に……ちょっと待って、リッちゃんとやら。お願いだから、嫁さんと同じ可愛いお顔で汚い言葉を吐かないでください。リッテルが何気に涙目なんですけど。
「……リッテル、俺ん所に来いよ。暴言を吐いたのはお前じゃないのが分かったし、とりあえずハグしてやっから」
「はい……! グスッ……あなたにだけでも理解してもらえれば、私は大丈夫よ……!」
メソメソしながらちゃっかり俺の脇に収まるリッテルを、とにかくヨシヨシと慰める。大体さー……俺だって嫌だぞ、こんな状況。自分そっくりの誰かさんを勝手に作られた挙句に、いいようにされているなんて。
「まぁ、とにかく話は聞いてやる。だけど……嫁さんを泣かせたとあらば、何が何でも許さねーからな?」
「ヒィッ! で、ですが、私はヨルムンガルド様の命令で……」
「ザーハ様、言い訳はみっともないでゲコ。ヨルムンガルド様の命令以前に、楽しそうにリッちゃんを改良してたじゃないですか。……これは自業自得ゲコ」
「スッ、スケダラ! こんな所で余計な事を言うでない!」
「いや、いい機会だと思うし、あっしからもお灸をお願いしたいゲコ。この際ですから、マモン様にキッチリお仕置きしてもらって、迷惑な発明は辞めるゲコ」
「ぐぬぬぬぬ……!」
そう言や、リヴァイアタンも言ってたっけな。……領内に「ガラクタ」が増えすぎて困っているんだ、って。多分、ダイダロスの「創作活動」が微妙なのは、羨望の悪魔の共通認識なんだろう。中には有用な発明品もあるっぽいが……同僚から「迷惑」だなんて言われている時点で、相当に嫌がられていると見える。
「とにかく……リッちゃん、申し訳ないのだけど、リヴァイアタン様が待ってるゲコ。何をしてもらうかは、ボスに直接聞いてほしいゲコ」
「ボス……あぁ! あのチャラい王子様か?」
「ま、まぁ……リッちゃんにしてみれば、そうなるゲコかね。リヴァイアタン様から、どーしてもリッちゃんに手伝って欲しいって、言われているゲコ。だから……」
「何だ。だったら、先にそう言えや! アタシは王子様のためなら、頑張ってもいいぜ?」
……はい。何がどうなっているのか、よく分かりませんが。リッちゃんはリヴァイアタンには懐いているっぽい。しかし、リッちゃんとやらは魔法道具(クソ親父用のヨシヨシ人形)だったよな? ここまでの自我を、どこから調達しているんだろう?
(これは……あれか? 十六夜達と同じ仕組みで……あぁ、いや。この感じだと、そうじゃなさそうだな。……少なくとも、魂を搭載しているわけではなさそうだ)
もう、いいや。根掘り葉掘り聞くのは、この激戦を終えてからにしよう。そんでもって、お仕置きの本腰を入れるのも後回しにしよう。
「……リッテル。心配しなくても、俺がハナシとカタはキッチリ着けてやるからな」
「はい……そうね。私にはあなたがいるもの。……これ以上、何も心配しないことにするわ……」
「うん、本当にゴメンな。……魔界は変なやつばっかりで」
渡る魔界は変人ばかり。彼らの奇行が欲望に忠実なせいかどうかは、知らんけど。……悪魔は悪趣味がデフォルトなのが、真祖としてはとっても切ないです。




