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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第21章】鋼鉄女神が夢見る先に
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21−4 かつての自分が求めた答え

 激戦というのは、まさに目の前の光景みたいなモノを言うのだろう。息つく間もない機神族もどきの閃光による波状攻撃に、総力戦とばかりに全力で応じる天使と悪魔。いつの間にか肩の上からルシエルがいなくなったかと思えば、彼女は彼女で光魔法で各種回復と補助魔法でサポートに徹している様子。

 しかも、天使達の呼び出しに応じたのだろう。周囲は天使と悪魔だけではなく、ギガントグリフォンを始めとする魔獣族や、雰囲気からしても上級精霊と思われる妖精族達も勢揃いしていて、しっかりと背後に臨む人間の街を守っている。


(しかも……あぁ、攻撃はマモンに任せておけば、大丈夫みたいだな……)


 伊達に魔界最強と謳われてないな、ありゃ。マモンは器用に4振りの刀を操りながら、バッサバッサとまるで紙切れを刻むように、機神族と思しき相手を滑らかに斬り捨てている。最前線に関しては、明らかに俺の出る幕はなさそうだ。それに……。


「……久しぶり、とでも言うべきかな? 色も形も様変わりしているが……お前、あのプランシー……だよな?」

「えぇ、紛れもなく私は“あのプランシー”ですよ。まさか、最初にあなたに出くわすとは……思いもしませんでした」


 周囲にラディウス天使達を侍らせながら、器用に嘴をニヤリと歪めるプランシー。……なるほど、彼はしっかりと「女神様」とやらに受け入れてもらったんだろう。形は烏そのままなのに、羽の色だけは神々しい純白に生え変わっている。


(なんとなくだが、魔力もかなり上がっている……いや、違うな。この場合、ローレライ仕様にチューンナップされているとした方がしっくりくるな)


 今のプランシーは、俺が知っているプランシーとは別物。しかも……きっと俺からしてみたら、良くない方向に悔い改めちまったんだろう。このひりつくような威圧感は……。


「……器用にハイエレメントまで衣替えか。プランシー……お前、一体何になっちまったんだ? 人間でもない、精霊でもない。ましてや……悪魔ですらない。お前は……一体、何になろうとしているんだ?」

「それは既に、私自身にも分からないのですよ。かと言って……これが最善の姿かと聞かれれば。……断固として否と答えられるくらいには、自分に失望していますよ」


 なんて、悲しい答えだろう。結局、「憂さ晴らし」をしてみても……スッキリするどころか、しっかり後悔しているじゃないか。だったら、何もかもを捨てて……逃げ出した方が、余程良かったようにさえ、思える。タルルトでの窮状を知っていれば、かつての彼を「無責任だ」と非難する者もいないだろう。


「……そんなんだったら、最初から無理するなよ……。最悪の選択をするくらいだったら、トットと逃げちまえば良かったんだよ! これがお前の言っていた、“かつての自分が求めた答え”なのか⁉︎」

「えぇ、そうですよ。この結末が……私の求めていた答えになってしまうのでしょう。だって……仕方はないでしょう? 悪魔になった時……いや、孤児院の“お仕置き部屋”を閉ざした時からでしょうかね? 私は黒い感情に飲み込まれないよう、抵抗してきました。……子供達に手を挙げそうになる衝動にも、子供達を憎んでしまいそうになる焦燥にも。ですが……どうして、自分ばかり我慢しなければならないのかという疑問が、晴れる事はありませんでした」


 激戦の中にあって、悠長にしんみりしている場合じゃないのも、分かっている。だけど、自分達の周囲だけ時間ごと切り離されたように……俺の目にはまるで、プランシー以外の全てがぼやけたように映る。何だろうな。今は……プランシーの話に集中するべきだと、妙な使命感が頭の中で騒ぐ。


(熱ッ⁉︎ ……今、指輪が熱くなったような?)


 だけど、俺が集中するのを邪魔するように、左薬指に熱が走る。あれ? この感じ……もしかして、俺がウリエルに攫われた時と同じ反応か? だとすると、え〜と……?


「毎日神に祈りを捧げても。町の人達にも援助をお願いしても。手を差し伸べてくれる者はごく僅か。しかも……最も親身に私達を助けてくれたのは、他ならぬ悪魔だったのですから。……私の信仰がいかに馬鹿馬鹿しいかも、思い知りましたよ」


(って、今はプランシーの話に付き合う方が先……だよな、きっと)


 彼の言う「他ならぬ悪魔」は俺のこと……だろうな。しかし……語り口調からするに、俺が悪魔だったという現実は彼の信仰に相当の影を落としていたように聞こえる。

 そんな事に気づいたのは一瞬でも、やるせなさはしっかり残っている。気づいたのは、僅かな違和感でも……気づいてしまったからには、無視できない。そうしてズンズン、ズンズン……見境なく積もっていく悔しさも、もどかしさも、発散する事さえできずに。プランシーは「善人」であろうと努力したが故に、自分の心を犠牲にしてきてしまった。……それも、とっくに振り切れていた限界を迎えるまで。


「お前の苦労も苦境も、誰も否定したりしないさ。それに今更、そんな事を尤もらしく皮肉るなよ。俺はただ……」

「あぁ、勿論存じてますよ。ハーヴェン様の善意は混じり気がないことも、悪魔らしくないと皆から言われていたことも。だけど……あなたは自分がいかにお人好しであり、誰かを助けられる余力があることを自覚していないのが、本当に頂けない。そもそも、あなたは奇特過ぎるのです。本来、皆が皆……神も含めて、大抵は自分のことしか考えていないのですから」


 そうして続く、神父様の恨み節によれば。プランシーは俺の嫁さん由来の余力と余裕が羨ましかった……と言うことらしい。彼の目には、俺の「余裕」は明らかな格差として映ってしまっていた。そして……。


「……格差に気づいた時が、歯車が狂い出した瞬間だったって事か? だったら、これは俺が原因って事になるのか……?」


 俺がしてきたことは、彼らを助けると見せかけて……老神父の直向きさを、チクチクと刺激してしまっていたのだろう。もちろん、俺はただ「料理を喜んでくれそうな相手」を見繕っただけだし、詰まるところ、かつての禍根の記憶に取り憑かれていたに過ぎない。俺はあくまで「子供達の空腹を満たしたい」という悪魔としての本能に従っただけだけど……それがいかに無神経な振る舞いだったかなんて、考えてもみなかった。

 ……そう、だよな。言われてみれば、確かに……俺は人間界にやってきてから、金銭的な苦労も、生活の心配も、一切したことがなかった。それがどれ程までに「特殊な状態か」に気づけなかったなんて、間抜けにも程がある。……「今の人間界は色々とおかしい状態」なのだって、よく知っていたのに。


「……そんな事でハーヴェンを恨むのはお門違いだぞ、コンラッド」

「ルシエル……?」

「遅くなってすまない、ハーヴェン。……妙な魔法が展開されているようだったから、駆けつけてみたんだ」

「妙な……魔法?」


 あれ……? 確かにさっきまではプランシー以外の空間がぼやけていたような……?


「……もしかして、この変な時間の流れは、魔法の効果だったのか……?」

「いや、魔法というよりは……魔法道具の効果に近いものだろう。……ラミュエル様も同じ空気をカーヴェラで感じられたそうでな。コンラッドの周囲の空気は……ヴァルプスが攫われた時に、契約に干渉してきた雰囲気と似ているそうだ」


 うん? って事は……何か? 俺……もしかして、今まさに向こうさんに絡め取られようとしていた……のか?


(あぁ、なるほど。……俺がすんなり絡め取られずに済んだのは……)


 ベルゼブブの悪趣味のおかげ、か。まさか、もう1度こいつに助けられるなんて、思いもしなかった。


「久しぶりですね……なんて挨拶は、いらないか? いくら相手がかつて契約を結んでいた精霊だろうと……私とハーヴェンの間に割って入ろうなんて、身の程知らずもいいところだな……? こうなったら、まどろっこしい事は抜きだ! 徹底的に、この場で悔い改めさせてくれるッ‼︎」


 しかし、既のところで籠絡の危機は乗り越えたものの……ルシエルの怒髪天加減がヤバい。やってくるなり、翼が全部逆立ち状態だし。嫁さんのお顔……天使の微笑みじゃなくて、むしろ悪魔の形相だし。


「ル、ルシエル! ちょ、ちょい待ち、ちょっと待って! そんなに耳元で怒鳴らないで! そんでもって、突然やってきてそれはないだろう⁉︎ あと、耳たぶはもっと優しく握って!」

「ハーヴェンもうるさいぞ! これが力まずにいられるか⁉︎」


 おぉう……なんて、理不尽な……!

 嫁さんのお怒りボルテージはカンカンと沸騰中、既に爆発寸前。いつもの指定席(俺の肩の上)にお尻を落ち着けたと思ったら、間髪入れずに耳たぶを握りしめてくる。助けに来てくれたのは、とっても有難いんだけど……。もうちょい、耳たぶには手加減してくれると嬉しいんだな……。

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