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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第21章】鋼鉄女神が夢見る先に
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21−2 最高神の眷属

「どうだ、プランシー。これが我が下僕の実力よ」


 グラディウスの最奥。間に合わせにしては、仰々しく整えられた玉座で踏ん反り返るのは……これまた、間に合わせだったはずの機神族に馴染みきった新米の女神。周囲を包む悍ましい空気に誂えた様に、美しくも醜悪な笑みを溢す。


「……なるほど。ラディウスとやらを機神族化させたのですね」

「ふふ……その通りだ。見よ、あの眩い姿を! 最高神の眷属として、この上なく相応しい姿であろう?」


 グランディアの興をこの上なく満たすのは、据えられたパネルが映す激戦の光景。グランディアの言う「下僕」が放った波状攻撃は、どうやら既のところで防がれた様だが……相手は魔力を消費する「生身」である以上、こちら側が圧倒的に有利でもあるだろう。


(さて……こうも顔見知りが揃うと、色んな意味で萎縮してしまいますね。彼らは……今の私を前にして、どんな気分になるのでしょう?)


 パネルに浮かぶ懐かしい顔ぶれを認めては、プランシーは小さくホゥと息を吐く。

 烏の面影を残しながらも、存在をグラディウスに掌握されたプランシーは既に「生身」の悪魔とは言い難い見目形をしている。魂の欠損部分を器用に侵食されて、羽の末端、羽毛1本に至るまで……禍々しい鋒のナイフに差し替えられていた。そんな体でプランシーはありきたりに顎をさすろうとするが……自身の羽がカチンと頬に傷を付けたのを感じては、そそくさと腕を下ろす。

 確かに戦う分には、申し分ない体だ。だが……日常生活の自由ごと削ぎ落とされた姿は、ただただ生き物としては歪な存在でしかない。


「……しかし、悪魔というのは本当に気に食わん奴らだな。またも、私の前に立ちはだかろうとは」

「ふむ? また……ですと?」

「あぁ、何でもない。……こちらの話だ」


 一方、グランディアもパネルに浮かぶ光景に「顔見知り」を見つけては、フスと今一度鼻を鳴らす。かつて、屈辱まみれの大天使だった頃。愚かにも、自分を「花」に喩えて諌めてみせた相手を認めては……彼くらいは残してやってもいいかと、私情を垂らす。

 教祖の付き人には神父がお似合いだが、姫神の付き人には執事が相応しい。彼を側に侍らせるのも、なかなかにオツなものだろう。


「プランシー、折角だ。……お前もあれらに混じって、遊んできたらどうだ?」

「お戯れを。みすみす死にに行くなど、御免ですよ」

「なんだ、情けない。……無論、貴様を見殺しにはせんよ。きちんと、武器と力は与えてやる。お前は、我が配下における記念すべき第1号なのだ。私が与えた異能を武器に……その実力、存分に示して見せろ」


 そうして、悪巧みを抱えたグランディアは躊躇もなく手を翳す。手つきはわざとらしいまでに、優雅だが。彼女の成そうしていることは、果てしなく無様な自己陶酔の一環でしかない。


「な、何を……⁉︎」

「ふふ……我が配下が黒いままでは、格好が付かぬ。……よいよい、お前に預けておいたカレトヴルッフはそのままくれてやろう。……我がラディウス達は個としては最強だが、群としては未熟だ。故に、お前にあれらの統率を任せる。カレトヴルッフが神聖を用いて、あやつらの指揮を執れ。そして……聖剣を用いて、気に入った奴を引き抜いてくるといい」


 彼女の言う異能とは、まさに全身を覆う威容の事だろう。そして、望みもしない更なる力を与えては……口元をますます歪めて、満足げにプランシーを見下ろすグランディア。随分と身勝手な彼女の言い分に、プランシーは腹の底が熱くなるのにも必死に抵抗しながら、仕方なしに頷いて見せる。……確かに今の体と魔力、そして強大な軍勢があれば。天使と悪魔なんぞには負けないかも知れない。本人の不承を構う事など、馬鹿馬鹿しい程に。


「しかし……なるほど。やはり、あの時の力は……」

「そういうこと、だ。……カレトヴルッフにはある程度、契約に干渉する力がある。伊達に私が愛用していた神具をベースにはしておらぬぞ。あぁ、そうそう。……身の回りの世話に丁度いい相手を見つけたので、あれも是非に勧誘してこい」

「あれ……? あぁ、彼はヤーティ様ですね。しかし……相手は憤怒の上級悪魔ですよ? 最下級の機神族とは訳が違うかと……」

「ほぉ? ……それは、私に対する侮辱か?」


 自身の借宿が「最下級の機神族」だと指摘されて、上からの姿勢で睥睨するグランディア。一瞬の斜視だというのに、彼女の眼差しには明らかな不機嫌と、威圧感が滲み出ている。


「大変失礼いたしました。今のは、老ぼれの戯言と聞き流してください」

「……まぁ、いい。とにかく、話し相手がお前だけでは退屈だ。……憤怒のナンバー2ともなれば、暇つぶしに物語を紡がせるのも一興だろう」

「そう、かも知れませんね。ヤーティ様は非常に物知りでいらっしゃいますから。いずれにしても……行ってまいります、女神様」

「あぁ、行ってこい。そして……ククク。我が元に降れば、お前のようになれると、存分に喧伝してこい」

「……」


 果たして、それは効果的な手段なのだろうか? 自分の様になることが……万人の望みだと、この女神は本気で考えているのだろうか? こんな体たらくに成り下がるのであれば、かつての平凡で不公平な世界の方が余程「マシ」だと思うのが、普通の感覚ではなかろうか。

 プランシーはグルグルとそんな事を考えながらも、漆黒から純白に衣替えした手先を見やる。色を変えたところで、悍ましいのには変わりないだろうに。それでも……彼女のカラーに塗りつぶされたことで、喪失感だけは上乗せされている。


(このまま圧勝するのも、つまらん。奴らが苦しむ様を存分に楽しまねば、私は満たされぬ。今こそ……復讐の時ぞ……!)


 しかしながら、自分本位の唯我独尊が故にグランディアにはたった1人の配下の心情さえ、慮る気概はない。彼女にしてみれば、正直なところ……「選んだ住人達」の幸せは二の次なのだ。重要なのは、いかに彼らが自分を崇め、肯定するか。

 自己陶酔も盛りとばかりに、自分の「配下」が傷心を引きずっているなど、露知らず。彼の背中を見送って、グランディアは「理想の世界」にご満悦な様子で思いを馳せる。


 かつて認めてもらえなかった、屈辱を。

 かつて愛されなかった、寂しさを。

 かつて裏切られた、憎悪を。

 全部を全部……ぶつけきってしまえれば、どれほどまでに魂が休まるだろう。


(しかし……はて。この違和感はなんであろうな? ……我が中に何が居座っておると言うのだ……?)


 燻る復讐心に呼応するように、高揚する明らかに自分のものではない、興奮。どれだけ、自身の心中をまさぐろうとも、相手のけわいの末端さえ掴むことができない。折角、「いい気分」だったのに……不意に何者かが、自分の興奮さえも嘲笑った様な気がして。たった1人の玉座で、グランディアは思わず顔を顰め始めていた。

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