20−60 お悩みのドツボ
「マモン様、それはそうと……結論を急ぐようで申し訳ないのですが、ダンタリオンの魔法でローレライの正常化は叶えられそうなのでしょうか?」
先程の様子からしても、何かと自分の都合を優先しがちなダンタリオンよりは、話の終着点を見失っていないマモンに話を向けるのは、妥当な判断だろう。ルシエルが真祖様の方に話しかけるのも、納得というものだ。それでなくても……うん。ダンタリオン、明らかに戦闘不能だし。
「正直なところ、効果に関しては未知数だ。生まれたての苗木でさえ、やっとこさ落ち着かせられたんだから、本格的な霊樹相手となると……ちょっと、不安が残るな」
「そう、ですか……」
「そういう現実にぶち当たったのもあって、こいつと魔法概念を詰めようと俺も来てたんだけど。……面目ないことに、生贄問題で揉めててさ。そんで、さっきのお仕置きショーが展開されてたって、オチなんだけど」
「ですから! 私の構築自体は完璧なのです! あとは生贄の魔力さえ、高品質であれば……」
お? ダンタリオンが復活したぞ。意外と、立ち直りが早いな。
「理屈は分かるが、道理が通らん。……相手が悪人だろうが、出来損ないだろうが。何をやってもいいってワケじゃないぞ。ギリギリ、出来損ないで妥協しようって状況なのに」
「そんな事、私だって分かっていますよ。これで……生前は下らない良心の呵責のせいで、処刑される憂き目に遭ったのですから」
「……そう、だったな。しかし、お前……良心を下らないと、切り捨てるなし。俺以上に悪魔してんじゃねーよ」
「何を今更……君が悪魔らしからぬのは、随分前から分かりきっていた事でしょうに。今の私はきっちり悪魔ですが、君は昔っから悪魔らしさは薄いですよね」
「えっ? そうだったの……? 俺、昔から悪魔っぽくなかったのか? 最近のハナシじゃなくて……?」
意外と、ダンタリオンの指摘が堪えるらしい。マモンがワナワナと震えたかと思うと、神妙な面持ちで頭を抱え始めた。いや、それはそんなに悩むことではないと思う。予てから「高潔で真面目」だとされていた時点で、最初から悪魔っぽさは控えめだと思うし。それにしても、昔のマモンを知っているダンタリオンにさえ、この言われようとなると……例の荒くれ時代は真祖様の歩みの中でも、珍しい時期だったのだろう。
(な、なぁ……ハーヴェン)
(うん……なんだ、ルシエル)
(これは……慰めた方がいいのか?)
(いや、それはリッテルの役目……あぁ、いや。ここでしっかりと慰めておいた方がいいか……)
リッテルが絡むと、微妙に悪化しそうだし。
「マモン、えっと……」
「……言われれば、確かに……俺、色々とナメられがちかも……。配下に敬意を払われるというよりは、懐かれている感じだし……。迷い込んできた奴らも、俺よりもゴブリンヘッドとかの方に怯えているし……!」
強欲の真祖様、お悩みのドツボにハマり始めたな。これは緊急で慰めないと、変に長引きそうな気がする。
「なぁ、マモン。悪魔らしくないのは俺も一緒だから、そんなに落ち込まなくてもいいと思うぞ。実際には、みんなに慕われているんだし。別に悪魔っぽくなくても、いいじゃないか」
「お前はそっちの姿だと、どこをどう見ても悪魔だから、そんな事を言えるんだろうが。見た目で得してんじゃねーし!」
いや、そう言われましても。こっちの姿を「見た目で得してる」って……絶対に違うと思うぞ。
「じゃぁ……この姿だったら、そんなに悪魔っぽくないだろ? それに、えぇと……」
「別に悪魔らしくなくても、いいではありませんか。マモン様は皆に尊敬されていますし……現に、私達天使もあなた様に頼りっぱなしですし。リッテルも自慢の旦那様だと、申していましたよ」
ルシエル、ナイスアシスト。そうそう。怯えられてはいないかもしれないけど、尊敬はされていると思う。……少なくとも、ウチの親玉よりも遥かに頼りになるし。
「でも……陸奥刈穂からは小僧呼ばわりされるし、ハーヴェンさんちのちびっ子達にも兄ちゃん呼ばわり……あっ、いや。……今は怪盗紳士だったっけか……。いよいよ……自分が本当に何なのか、分からなくなってきた……」
あっ。これは不味い。マモンの奴、更に余計な事を思い出したな……。しかし、「兄ちゃん」から「パパ」へクラスチェンジ、そんでもって「怪盗紳士」への華麗な変身の流れはウチのモフモフズが発端だから……今度は申し訳ない気分が募る。
「全く、マモンは変なところで繊細なのですから……。いいですか? 一応、言っておきますけど。私とて、君を認めていない訳ではありませんよ。これでも、君の事はそれなりに尊敬もしてますし、数少ない友人だとも思っていますし。それに、無理して怖がられる必要もないでしょう。……君は悪魔にしては、真面目過ぎるのです。わざわざ性に合わない悪魔らしさを演出せずとも、敬意を集めることはできるのですから、君らしくそのままでいいのでは?」
今度は流石に空気を読んだらしい。更に続くダンタリオンの意外なお言葉に、目を丸くするマモン。……やっぱり、長年連れ添ったナンバー2は違うな。自分で親玉の精神を凹ませといて、きっちりフォローもしてくるんだから。
(これはこれで、アリな関係なのかもな……)
そうしてお悩みの沼から、ようやく這い上がれたらしい。若干まだ涙目なのが、気になるが……話を戻すつもりと見えて、マモンが話の続きをし始める。
「……えっと、悪い。変な方に迷走しちまって。で……魔法の有用性について、だったな」
「はい……できれば、難しい解説は一旦は置いて頂き、要旨だけを教えていただけると助かるのですけど……」
「いや、マスター、待ってください。魔法は構築を抑えてこそ、ですよ! 私が編み出した魔法の概念をすっ飛ばすなんて……」
「ハイハイ、それは後で俺がしっかり聞いてやりますから。大天使様は何かと、ご多忙なんだよ。……どーせ、お前は話をまとめるのが下手だし、俺の方から説明するから黙っとけ」
「くっ……! やはり、私の崇高な論説について来れるのは、君くらいなものですか……」
しかも、この絶妙な信頼感ときたもんだ。常々この調子なのかは知らないが、マモンとダンタリオンはソリが悪いと見せかけて、なかなかに互いのことをよく分かっているみたいだな。……伊達に2000年も一緒にいた訳ではない、って事なんだろう。
……しかし、マモンは本当に表情が豊かになったよなぁ。昔は人前で涙目になるなんて、絶対になかったろうに。この辺はダンタリオンというよりは、リッテルの影響な気がする。
「という事で……続きはリルグで説明した方がいいかもな。生贄の話はこいつとしていても、まとまらんし。お二人さん、この後空いてる?」
「私は構いませんよ。ハーヴェンはどう?」
「うん、大丈夫。今日は一日空けるつもりで、出てきたし」
抜かりなく夕食の準備もしてあるし、バッチリなんだな。今日はとことん、嫁さんにお付き合いしちゃう。
「で……一応、ハーヴェンにはリルグの基準点を共有しておこうかな」
「あっ、そうだな。今後のことを考えると、俺もリルグ行きのポータルが使えた方がいいよな」
「そんじゃ、早速。うん……それはそうと、お前さんは素直で助かるよ」
「えっ?」
ちょっと悲しそうな顔をしながら、マモンがリルグのポインテッドポータルの楔を連携してくるけれど。さっきの言葉は、明らかに誰かと俺とを比較してのものに思える。……一体、誰が素直じゃなかったと言うのだろう?




