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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第20章】霊樹の思惑
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20−51 血統にまつわる不文律

 ルートエレメントアップの真意側。エメラルダはそう、長老様の魔法を称した。当然ながら、竜族ではない私には竜言語で紡がれる真意の真髄を知る術はない。だが、呪文の言葉は分からずとも……長老様の声色から、彼の決意と温もりとをありありと感じることくらいはできる。


(いよいよ……か)


 長老様が魔法によって作り出したのは、ドラグニールをグルリと囲む一頭の王冠にも見える外皮。しかし……よくよく見れば、蔓状に組まれたそれは、細やかな文様を施された芸術品と言っても差し支えない美しさだ。


「……大主様、いかがですか?」

(あぁ、力が漲ってくる。しかも、以前よりも外界の状況も感知できるようになった。これであれば……加減をしながら、ユグドラシルと融合することができよう)


 エメラルダの質問に、力強く応える霊樹・ドラグニール。彼女の言葉からするに、竜界側は準備が整ったと判断していいのだろう。……契約主を彼女に見立てた時点で、コントロールそのものも掌握できているようだ。


「それは何よりです。では……」

(うむ。そろそろ、竜界そのものを本格的に降ろそうと思う。……それはそうと、新しいエレメントマスター。名をギノと申したな?)

「はっ、はい!」

(そなたには新しい役目を与えなければならん。……地属性のエレメントマスターには、このドラグニールを守護する役割がある。今後はこの神殿をそなたの住処と定めよ。して……何かあったら、すぐに我が膝に戻って来れるよう、これも渡しておこう)


 さざめきと一緒に、ドラグニールの枝から何かがギノの元に届けられる。風に乗ってヒラリヒラリと舞い降りたそれは1枚の葉の様に見えたが、ギノの掌に着地するとすかさず白銀の指輪に姿を変えた。


「あの、これは一体……?」

「まさか……竜琥珀の指輪でしょうか、大主様」

(……ふふ。その通りだ、エメラルダよ。本来は竜王に与えられる指輪であるが……将来の竜女帝の婿ともなれば、今から与えておくのも、一興だろうて)

「えっ……? えぇぇッ⁉︎」


 あぁ、なるほど。霊樹・ドラグニールは人間界に帰還すると同時に、ギノを本格的に「お婿さん」として囲い込むつもりのようだ。……意外と、この霊樹自体もなかなかにクセのある性格をしているみたいだな。流石に自称・面倒な婆様を使者として作り出すだけのことはある。


「その、これってつまり……」

「ギノは私のお婿さんになってくれるってこと⁉︎」

「そ、そんな! 僕、急にそんな事を決められないよ……!」


 当のギノが慌てふためく一方で、エルノアは瞳を輝かせて感激している。側から見ている分には面白いが、ギノにしてみれば……いくら相手が美少女のエルノアとは言え、突拍子もない話だろう。


(こればかりは諦めよ、ギノ。別に悪くなかろう、エルノアも)


 しかも、この強引さである。霊樹の言い分に、妙に焦りも感じられるが……そう言えば、どこかで竜女帝の婿に関する話を聞いていたような気がして、モヤモヤする。えぇと……どこで、どんな話を聞いていたっけ?


「い、いや……そうかも知れませんけれど……いくら何でも、唐突すぎやしませんか?」

(そうか? それでなくても、お前は色々と鈍感すぎる。早々に決めなければ、いつまで経っても悩んでばかりではないか。それに……竜女帝の夫だけは私の方で選ぶことになっておってな。竜女帝の能力は竜族にとって、何を犠牲にしてでも次世代に残さねばならぬ力。……夫側にも当然、相応の資質が求めらる)


 あぁ、そうだ。そう言えば、ハーヴェンからそれとなく、ハミュエル様の告白について教えてもらった中に、そんな話があった気がする。確か、ハーヴェンが聞いた話によれば。基本的に自由恋愛を謳歌しているはずの竜族にあって、竜女帝の婿にだけは特別措置が発生するらしい。

 竜女帝の婿には最高の血筋を持つ者を。竜族は血統が何よりもモノを言う。

 建前の裏に隠された、血統にまつわる不文律。竜女帝・エスペランザとシェルデンとの関係が結果的に破綻してしまったのは……運悪くシェルデンの血統が良すぎたのが、そもそもの原因だった。そして、そこにハミュエル様という禁断の恋愛相手が登場したせいで、竜女帝と竜王の夫婦はすれ違うことになってしまった。


(であれば、この強引さは同じ悲劇を生む原因になりかねないのだろうか……?)


 しかしながら、私のちっぽけな憂慮はただの杞憂かも知れない。考えてみれば、エルノアとギノは互いに特別な相手同士であることは、随分前から変わっていないのだから。

 エルノアにとってギノは、初恋の相手。

 ギノにとってエルノアは、竜族になるキッカケを与えた相手。

 ギノ側は純粋に巻き込まれただけと見ることもできるかも知れないが、そもそも、エルノアとの出会いがなければ……非常に、言い方は悪いが……とっくに死んでしまっていただろう。そう言う意味では、エルノアはギノにとって恩人でもあるという考え方もできる。


(……ふふ。そう思うと……2人の様子が初々しくて、甘酸っぱい気がする)


 ギノの方は、まだまだ決心ができないみたいだが……何だかんだで巻きつく腕を解かない時点で、エルノアを本格的に嫌っているわけではないのだろう。……おそらく、これは単純に振り回されているだけだな。


(オフィーリアもそなた達がつがいになる事を、望んでいたフシもある。……これは長老の願いでもあるのだよ、ギノ)

「ゔ……大主様、ずるいですよ。その言い方は……」


 確かにずるい言い分だ。だが、ギノ……そろそろ、観念し給え。私とて、君が満更でないことはなんとなく、分かっている。


「そっか。爺やもそんな風に思ってくれていたんだ。そんな爺やに私の花嫁姿を見せてあげられないのが、残念だけど……だったら! 結婚式はドラグニール様の前でする!」

「へっ? け、結婚式⁉︎ エル、それこそ気が早すぎるよ……!」

「そんな事ないわ。こういうのは、宣言も早い方がいいの!」

「そ、そうなのかなぁ……」


 ギノの巻き込まれ体質は、やっぱり変わらないみたいだな。見た目は逞しくなり、心もしっかりと成長していると思っていたけれど。ちょっぴり押しに弱くて、優しいのは変わっていない。


(さて……エルノア達はそろそろお帰り。本格的に下降を再開する故……皆にこれから人間界へ更に近づくことを、周知しておくれ)

「はい、承知しました、大主様。それと……爺や、今までありがとう。これからずっと……私達を見守っていてね」

「僕からも、今までありがとうございました。……長老様が見守ってくれていると思えば、これからのことも乗り越えていけると思います。えぇと、結婚は……もう少ししたら、前向きに検討します……」


 ギノの言葉に、エルノアがちょっぴり不満そうな顔をしたけれど。恥ずかしそうに頭をかいているギノにしてみれば、相当に頑張った答えだろうと思う。そうして、私もドラグニールとエメラルダに深く一礼し、エルノア達と一緒にその場を後にする。

 今度は人間界で霊樹・ユグドラシルを見守らねばならないし、ローレライの浄化作業の計画も練らねばならない。ローレライに関しては、ダンタリオンの魔法の進捗も確認しなければならないが。この辺りは旦那にもお願いして、魔界行きに付き合ってもらおう。

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