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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第20章】霊樹の思惑
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20−34 旦那様の基本性能(+番外編「枕の使い心地はいかが?」)

「ただいま〜」


 なーんて、自分の家でもないのに微妙な気がするけれど。仕方なしに一時的にご厄介になっている、ご隠居様のお屋敷にジャーノンと帰宅してみる。「ただいま」に対して、出迎えてくれる声はないが……それも仕方ないか。夜もとっぷり更けてるし、この空気からするに……。


「……あっ。もうみんな、寝てるか……?」

「そうかも知れませんね。……すみません、マモン様。こんな時間にまでお付き合いいただきまして……」

「別にいいよ? 夜更かしは悪魔の基本性能だしな。何も気にすることはねーぞ」


 ミカエリスとダンタリオンは魔界へ、リヴィエルとオーディエルは神界へ。それぞれの世界に帰らせたところで、余った俺達はポインテッドポータルで無事にカーヴェラに帰還したのだけど。……やっぱり、お出迎えの声がないのはちょっと寂しい。


「……あなた?」


 寂しいとか思いつつ、廊下を進むと……途中でリッテルがヒョコッと顔を出す。暗闇でも目立つ真っ白な肌に、大きなグリーンの瞳。まだまだパッチリ開いている眼差しを見る限り、寝ていた訳ではないらしい。


「あ? なんだ、リッテル……起きてたのか? 先に休んでて、良かったのに」

「まぁ! そんな薄情なことができますか! お仕事から帰ってきた旦那様を癒すのは、嫁の最優先任務です!」

「さ、最優先任務……?」


 充てがわれたらしい部屋から、静々と出てきたと思ったら。間髪入れずにそんな事をおっしゃって、抱きついてくるリッテル。うん……嫁さんの抱擁は嬉しいんだけど、今はちょっと人目も考えてくれないかな。


「ふふ……相変わらず、マモン様ご夫妻は睦まじいご様子で何よりです。これは邪魔も無粋というもの。ですので……私はこの辺で自室に引き上げるとしましょう」

「う、うん……なんだか悪いな、ジャーノン。……変な気を遣わせて」

「いいえ? お陰様で、こうして無事に帰って来られたのです。恩人に対して、最大限の配慮とおもてなしをするのも、スジでしょう」

「そうか……? スジ、ねぇ……」


 だけど、なーんかご配慮ついでに誤解されている気がするんだよな。なんとなく。


「おやすみなさいませ、マモン様にリッテル様」

「えぇ、ありがとうございます。おやすみなさい、ジャーノンさん」

「今日は色々とお疲れさんだったな。お前さんもゆっくり休めよ〜」


 そうして、妙な誤解を残した(と思われる)笑顔のジャーノンを廊下の先に見送ると、いよいよ嫁さんが嬉しそうに頬を寄せてくる。そんでもって……。


「うふふ……あなた、お疲れ様でした」


 耳元で小さく囁くと同時に、チュッと頬に口づけをいただいて。楽しそうにスリスリとされれば……抱き上げずにいられないのは、悲しいかな。これまた、旦那様の基本性能だったりする。


「まぁ、いいか。……嫁さんを抱き枕にしながら眠るのも、悪くないな」

「そうでしょう? もちろん、存分に抱きしめてくださいね」

「ハイハイ……分かっていますって」


 なんだかんだで、嫁さんの体温と体重を感じられれば、安心するのだから……俺も大概だと思う。きっと、眠いのを堪えて待っていてくれたのだろう。見れば、同じように何かに安心したらしいリッテルが、腕の中でうつらうつらと船を漕いでいた。

 旦那様を癒すのが、嫁の最優先任務……か。別に任務じゃなくても、いいし。こうして一緒にいられるだけで……俺としては、十分なんだけどな。

【番外編「枕の使い心地はいかが?」】


 人間というものは歳を取ると、如何せん早寝になるものらしい。そんなお年寄りの例に漏れず、マダム・カトレアの夜も非常に早くやってくる。気ままな一人暮らしのため、早起きしても誰に迷惑をかけるでもなし。そんなずっと続いてきた孤独には慣れてしまったと、カトレア自身もとうに割り切っている。

 しかし……その日の夜は、何かが違う。


(……なんでしょう……この、じんわりと広がる温かさは……!)


 ここ最近は寝付けない夜が増えていたというのに、今宵の入眠は非常にジェントルかつ、スムーズだ。新しい枕に頭を預ければ、すぐさまトロリと彼女を包み込むような睡魔が大慌てでやってくる。

 そして、そのままグッスリと眠りに落ちるカトレア。


「あぁぁぁ……! もう、朝……ですか? ま、まだ……もう少し……!」


 素敵な夢だった。邪魔をする朝の日差しが恨めしく感じるくらいに、素敵な夢だった。

 内容こそ、鮮明に覚えていないが……昨晩の夢が何よりも心地よく、何よりも最上の癒しを与えてくれたことだけは、ハッキリ感覚として残っている。


「……これも、この魔法の枕のおかげ……なのかしら……!」


 それはまさに、未体験の夢心地。ホーテンの簡単な説明に、「起きるのも億劫になるくらいに、クセになる」とあったが……まさか、本当だったなんて。胡散臭いと勘ぐって、悪い事をしたとカトレアは誰に向けるとはなしに、微笑む。


「……しかし、気をつけなければなりませんか? 確か、この枕は……」


 安眠どころか、永眠間違いなし。

 ヘタをすると、そのキャッチフレーズが現実になりそうだと、カトレアはやっぱり肩を揺らしてしまう。いずれにしても、素敵な眠りだったことには違いない。

 こうしてホーテン推奨の「悪魔の枕」は、無事にカトレアのお気に入りにもなったのだった。

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