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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第3章】夢の結婚生活?
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3−22 別の奇跡

 ひとしきりお茶と談笑の時間を過ごし、空の向こうが黄昏色になった頃。まず長老様とマハが帰るとのことで、中庭で彼らを見送ることにした。


「長老様。本日は色々と、ありがとうございました。僕……頂いた名前に恥じない立派なドラゴンになれる様、頑張ります」

「うむうむ。その心意気があれば、きっと色々な事を乗り越えられるじゃろ。そうじゃ、ワシの所にもそのうち遊びにおいで。エメラルダもきっと、喜ぶと思うしの」


 地属性同士のやりとりが繰り広げられる一方で……こちらは妙に熱がこもったお別れの挨拶が展開されている。


「では、ハーヴェン殿‼︎ マイモフモフの手配を是非に、頼む!」

「あぁ……そうだな、5日後に一度こっちに候補を連れて来るから。それまで、待っててくれるか?」

「もちろんだ! あぁ〜……今から楽しみで仕方ない! しばらく、眠れなさそうだ‼︎」

「お、おぅ……」


 結局あの後、コンタローを抱きかかえたまま離そうとしなかったマハから……既のところでコンタローが返却される。

 帰る時刻がきたのだろう、長老様は純白の鱗に覆われたガッチリとした四肢が特徴的なドラゴンに、そしてマハは黄金の鱗を纏った8枚の翼を持つしなやかなドラゴンの姿を顕し……めいめいに夕焼け色を含んだ空の彼方へ、飛び立っていく。

 ようやくマハから解放されたコンタローとしては……ナデナデされて満足なのだろうが、妙な熱意に少し疲れた様子。それでも、しっかりとハーヴェンに追加の抱っこを要求していた。


「アゥ……おいら、今日は随分……いろんな人にモフモフされたでヤンす……。ちょっと、疲れたでヤンすよ。……なので、お頭、抱っこしてほしいでヤンす……」

「仕方ないな……ほれ、これでいいか?」

「はぅぅ。やっぱり……お頭の抱っこは最高でヤンす〜」


 うっとりとした様子で、ハーヴェンの腕に身を預けるコンタロー。何だろう……どことなく、悔しい。


「さて、俺達も帰るか。久々に全員揃っての食事になりそうだし、今夜は楽しくなりそうだな?」

「そうだな。では、ゲルニカ様、テュカチア様。私達も自分達の世界に戻ります。おそらく、今後とも色々とご迷惑をおかけするかも知れませんが……ご助力いただけると、幸いです」

「何も気にされることはありません。それでなくとも、この屋敷は普段、私とテュカチアしかいないのです。遠慮が必要な相手も、気兼ねしなければいけない相手もいませんよ。お気軽に遊びに来てください」

「そうですわ。お茶をお菓子をご用意して、いつでもお待ちしておりますわ」

「それと、引き続き……エルノアをよろしくお願いいたします。……あと、そうだ。ギノ君にお祝いの品を1つ、贈るとしようかな。……聞けば、人間界は少々物騒なところもあるという。この贈り物は君であれば、きっと使いこなせるだろうし、1振り持って行きなさい」

「……?」


 そう言いながら……ゲルニカは小さく呪文を呟くと、手元にレイピアを呼び出したらしい。そして呼び出したレイピアを、そのままギノに手渡す。


「父さま、これは……?」

「闇属性を宿す、アンサラーという剣だ。呼応の意味を持つ魔剣でね。きっと……力が必要な時の一助になるだろう」

「ありがとうございます。わぁ、意外と軽いんですね……」


 ギノが嬉しそうに、手渡された鞘から剣を早速抜いてみせる。刀身まで漆黒に染まったそれは、しなやかな柔軟性があり、軽やかな印象を受ける。反面、いかにも禍々しい威圧感も醸し出しており……魔剣という表現に、なるほどと思わせる雰囲気を持っていた。


「おぉ、ギノ! それ、メチャクチャ格好いいじゃん! 良かったな〜」

「ハイ!」


 既に寝息を立てている小悪魔を抱っこしながら、ハーヴェンがギノの剣を褒める。そうして初めて、自分の武器を持ったという高揚感に……ギノの尻尾が嬉しそうにパタパタと振られていた。

 そうか……ギノは尻尾で感情表現をできるくらいに、精霊になってしまったのか。成り行きだったとは言え、始まりは忌々しい研究とやらだったはず。結局は見事に精霊……しかも竜族が誕生したことに、私は改めて戦慄を覚えていた。


「ルシエル? ……大丈夫?」


 そんな私の不安を見透かしたのだろう。エルノアが心配そうに私を見つめている。


「あぁ、ごめん。大丈夫だよ。始まりはともかく……ギノは無事、生き延びることができたんだ。今はそれを、何よりも喜ぶべきだよね」

「うん。私もそう思う!」


 きっかけはどうあれ、本人の努力が結実してギノは生き残ったのだ。それはきっと「研究」とやらの成果では、決してないだろう。

 本人の頑張りと、それを支える暖かい環境。その2つが揃って初めて成立する、デミエレメントの昇華。ギノの生存はきっと……彼らの思惑とは別の奇跡に支えられていたのだと、私は密かに思い直していた。

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