20−27 行き着く先はお仕置きプレイ
そろそろ、大詰めか。
黄昏時のオレンジから、夜のブラックに衣替えし始めた空を見上げてから、すかさず見下ろす地上は地獄絵図。生物としての魂はないが、それなりの意思は残しているらしい魔禍が次々に串刺しにされて、怨嗟の呻き声を上げつつも、目の前の赤鬼さんに食い物にされていく。しかも、赤鬼ママは食欲旺盛で、食い意地が張っているときたもんだ。自分に甘えようと健気に幹によじ登るオトメちゃんベイビーな苗木さえも、ガブリと栄養食とばかりに食い荒らせば。ゴクリゴクリと、幹が不気味に波打って……本体のママは太く、逞しく肥えていく。
「……魔禍の数もだいぶ減ってきたな。もうちっと粘ったら……最後の仕上げといきましょうかね?」
(ふむ、確かにそろそろ頃合いか。しかし、小僧は意外と腕が立つのだな。……てっきり、月読の実力に甘えているものばかりと、思っておった)
「甘える、だぁ? んな訳、あるか。十六夜だって、いくらサービスをしていても、俺の腕が微妙だったら見限っているだろうさ。……お前らは揃いも揃って、実力主義者だからな。持ち主にタダで力を貸してくれないトコロが、ますます面倒クセェ」
(おほほほ……努力せずに力を求めるは、愚者の極み。我らは、そんな振るわれ甲斐のない相手に力を貸すのは、ごめんじゃてな。そういう意味でも、我は若の素直さは嫌いではないの。ま、我は頑張り屋の若に罵っていただければ、他を求めるつもりはないが?)
「……頼むから、羞恥プレイの優先順位こそを下げてくれませんかね? 俺としては、それが1番素直にご奉仕したくない努力なんですけど」
結局、行き着く先はお仕置きプレイな十六夜に付き合うのも、そこそこに。カリホちゃんでテキトーに剪定してやれば、赤鬼さんは邪魔するなと生意気にも枝の猛攻撃で応戦してくる。
「ハイハイ、立派な霊樹を夢見て生長するのはいいんだけど。お前さんみたいに邪悪な霊樹はあいにくと、お呼びでないんでな。夢見がちなのは、お名前だけにしておけ!」
差し向けられる鋭い枝の矢を、これまた夢見がちな十六夜で根こそぎ撃ち落とす。そうされている間にも、忘れずにカリホちゃんでチョキチョキと無秩序に徒長したお姿を整えてやれば。それはそれは、見事に……。
「華麗に大変身、には程遠いか。……俺には庭師の才能はないのかもなぁ……」
ま、ちょいと不恰好になっちまったけど。これから伐採する相手を美しく整える必要もないか。
「ほれほれ、あいつが最後みたいだぞ! トットと食っちまえよ! ちゃんと、こんがり焼いて差し上げますから……雷神の怒りを知れ! その身に轟の罰を下さん、サンダーライトニング!」
魔法陣の隅っこ、要するに端の端で蹲っている魔禍に向けて、天罰を1発お見舞いしてみると。腹ペコオトメちゃんは、面白い程にそそくさと枝を伸ばしては、最後の晩餐を平らげる。さてさて……ここまで来たら、最後の仕上げをぶちかますだけだな。
「カリホちゃん、頼むぞ!」
(ふん、言われずとも! 小生の実力、しかと刮目するが良い!)
言葉はひん曲がっているが、態度は素直なカリホちゃんを鞘に収め、一時集中。クソ親父の刀は魔法道具だけあって、魔力や瘴気との親和性も飛び抜けている。だからこそ、こうして持ち主が魔力を流してやることで、攻撃力なんかを高める事ができるんだが。
ホント、つくづく悪魔に都合よくできてるよな、こいつら。持ち主を選ぶ傲慢さといい、瘴気での性能底上げといい。……フィールドが魔界だったら、向かう所敵なしかも知れない。
「そんじゃ、遠慮なく……行くぜッ!」
きっちりと、ぶっとい本体を切断できるレベルの魔力を練り込んで、カリホちゃん渾身の一撃を解き放つ。鞘から抜いた瞬間、手元が震えるくらいの魔力の重みに、ちょいと振りざまが遅れたが。相手は蠢くことはできても、動く事ができない霊樹なもんだから、多少のズレは許容範囲だろう。
「おぉ、おぉ、スッゲェな、お前さん。あんなに太い丸太も、一発で行くなんてな。俺はてっきり、追加攻撃が必要だと思ってたけど……」
(だから、小生を誰だと思っておる! 最強の巫女、鬼伏せ・酒呑ぞ! 神殺しなぞ、朝飯前だ!)
「ほぉほぉ、そいつは頼もしいこったな。何れにしても、任務完了……と、言いたい所だが。まだ根っこは残っていやがんな」
(どうやら、そのようじゃな。どうするのかえ、若。根を残しておいたら、またいずれ芽吹くぞ?)
だよな〜、そうですよね〜……。スッパリと逝った丸太は、切られたと同時にサラサラと風化し始めているが。足元の方はまだまだ、しぶとくご健在らしい。植物ってのは、本当に偉大すぎて嫌になっちまうな。生命力の図太さも半端ない。
「どのくらい根深く潜っているのかなぁ……?」
もう必要のないお仕置き魔法を全解除して、どれどれと切り株に降りてみる。そして、カリホちゃんでもういっちょと、斬撃を垂直に食らわせてみるけれど。
「……うわぁ……かなーり深いぞ、こいつは。どうしたもんかねぇ……」
直径5メートルくらいの真っ赤な切り株に、カリホちゃん自慢の斬撃が深く深く、潜っていくが。どうも、最後まで寸断できなかった様子で、目視で見える範囲で切り傷が止まっている。う〜んと……傷跡は5、6メートルくらいありそうなんだけど。それでも、真っ二つにできないか。
「こいつは、綺麗サッパリ引っこ抜けそうもないな。だけど、本体がオトメキンモクセイだってことを考えると、放置は不味いだろうし……」
「どうしたのですか、マモン。そんなに悩んで」
「あっ、丁度いい所に来やがったな。いや、さ。こいつの後始末をどーしようかと思ってて……何か、いいアイディアないかな?」
きっと、俺が魔法を解いた安心感もあったのだろう。見れば、こちら側にカツカツと歩み寄ってくるアケーディアと……残りのメンバーもよっこらせと、大樹の切り株に登ってくるのが見える。そうして、足元の傷跡を示しながら、悩み事の中身を説明すれば。アケーディアが意外と親身に話を聞いてくれる……はずもなかった。
「おや、ここまでの実験対象を処分だなんて、勿体ない。少し調べてみたいですし……研究対象として、残しておいてくれませんかね?」
「ねぇ、俺の話、聞いてた? 聞いてくれてたの? これをこのまま残すとか、あり得なくない?」
頼むよ、兄貴。とにかく、色んな意味でしっかりしてくれよ。
これだけ大暴れしたオトメさんを残すなんて、あり得ないからな? さっき、これ以上のオイタは許しませんよって、言ったの……忘れちゃったのか?




