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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第20章】霊樹の思惑
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20−23 恩義を受けたのは事実ゆえ

 その刃に切れぬものはなし、その刃に触れられるものもなし。

 それが俺の右手で変な声を上げている、魔刀・十六夜丸(正式名称は一威・月読十六夜と言うらしい)の評判なんだけど。でも、変態プレイを餌に引っ提げて、やる気も十分なはずの十六夜の切れ味が妙に鈍い。いや……これは、十六夜が鈍いのではなく、相手を斬った感触に手応えがないと言うべきか。先ほどから、スカスカと赤と黒のツートンカラーの刀身が滑っていくのが、とにかく気持ち悪い。


「……おい、十六夜。気づいているか?」

(無論。……あれらに悪意はあっても、魂は乗っておらぬようだの。そうなると、我の刃でも歯が立たぬかも知れんぞえ。……我が斬り伏せられるのは、純粋な意味での生き物に限られる。いくら我でも、魔力を両断に伏すことはできぬ)

「あぁ〜……そう言うこと、かぁ。伊達に退治方法が確立されてないなんて、言われている訳じゃねーんだな……」


 しかし、そんな魔禍を霊樹もどきオトメさんは、ズブズブと串刺しにしてチューチューと魔力を啜っている様子。なるほど。魔禍は生き物扱いではなく、どこまでも魔力(要するに特殊な空気)扱いなんだな。例の墓場のご主人様は、被害者さん達に残った魔力を啜っていたようだが。きっと餌が魔禍(魔力純度が高い奴)ともなれば、吸収率も無駄にいいんだろう。……俺が魔禍をあしらっている間もせっせと捕食に勤しんでは、その度に幹を波打たせて姿を変えていく。


「……うん? ここは要するに……オトメさんに魔禍を綺麗さっぱり食わせて、最後にあいつを斬り伏せりゃいいのか?」

(あぁ、それは一理ありますな。であれば、ここはターゲットを魔禍ではなく、あの偽霊樹に絞ればよろしいのでは?)

「やっぱ、そうなる? ……そうだよな。傷を癒すには、いつも以上に魔力が必要だもんな」


 と、言うことで……ターゲット変更。いくら相手をしていても埒が明かない化け物よりは、手応えのある化け物の方が相手のし甲斐もあるってもんで。こちらへ形も曖昧な腕を伸ばしてくる魔禍共の群れを、手応えがないなりにも去なしながら、オトメさんの懐に飛び込む。そうして、渾身の斬撃を叩き込んでみるが……。


「カッテェ! なんだ、これ⁉︎」

(ふむぅ……この感触は、よもや……)

「あ? 何だってんだよ?」

(……抑揚のないつるりとした木肌に、鋼鉄のような樹皮。間違いなかろうて。……これは既に、一端の霊樹と成り果てておるな)

「あぁ、そう……。で? お前の“切れぬものなし”の例外に、その霊樹は含まれているでオッケイ?」

(口惜しいが、そうなるの。……仕方なきかな、ここはあやつを頼る他、ないの。ほれ、出番であろう、酒呑!)


 そうして、十六夜が勝手に「あやつ」……妖刀・カリホちゃん(これまた、正式名称は零式・酒呑刈穂と言うそうな)を呼び出すけど。……すみません。色々と策を巡らせてくれるのは嬉しいんだけど……さ。俺としては、扱いづらい得物が2振りも揃った時点で、別の意味で気が重い。


(気安く小生を呼ぶでないわ、この変態が!)

(おほ? 裏切り者に変態などと、言われとうないの。我を変態扱いして良いのは、若だけぞ)

(それこそ、こちらのセリフよ、悪魔に絆された裏切り者が! 我らが主人はクシヒメ様のみであったろうに!)

(じゃが、クシヒメ様は既に亡き。その上で、彼女のうつつに目通り頂くには若を頼る他、ないと思うがの? それに、望月に聞いた話によれば……ヌシ、若に泣きついて手入れをしてもらったのであろ? ほんに、まっこと情けないのぅ……! 恩義を受けながらの減らず口は、無様なだけぞ? 立場を弁えておけ、このナマクラが!)

(な、ナマクラ⁉︎ なんぞ! お主こそ、あれを斬り伏せられぬから小生を呼んだのであろうに! 月読こそ、減らず口は慎めぃ!)


 しかも、顔(鞘?)を合わせるなり、俺の左腰でギャーギャー喧嘩し始めたし。とりあえず、ここが戦場だってこと……思い出してくれないかな。


「……お前ら、今は喧嘩している場合じゃねーだろ。とにかく黙れや。木っ端微塵にへし折られたくなかったら、素直にいう事を聞け」

(あっ、申し訳ございませぬ、若。我は精一杯お仕え致しますので、そんなに怒らないでおくんなまし)

(……し、仕方ない。……恩義を受けたのは事実ゆえ、ここは小生も力を貸してやろうぞ)


 脅し混じりで得物を諌めつつ。まずは、十六夜で周囲を薙ぐ。きっと、きちんとお手入れされていなかったんだろう。見ればオトメさんの膝下には生まれたてのクセに、既に真っ赤な苗木が産声を上げていやがる。しかも、ちっさい割には食欲は旺盛みたいで……苗木ちゃんには十六夜でダメージが入るとは言え、伐採した瞬間に親木のママにワラワラと芽を伸ばす様は、ちょいと不気味だ。


「やっぱ、十六夜じゃ大したダメージにはならんか。……ハイハイ、お次は……」

(ふん! 承知しておるわ。サッサと小生を振らんか!)

(……全く、ここぞとばかりに、無様に威張りおってからに。我らの若に、偉そうな口を叩くでなし)


 俺は別に偉そうでも、なんでもいいけどな。きちんと力を貸してくれりゃ、文句もねーし。


(……これで喧嘩がなければ、言うことなしなんだけどなぁ……)


 とにかく、今は両手から響いてくる口喧嘩は流すことにしよう。今回の目的はオトメさんを傷つけて、魔禍を綺麗さっぱり食べてもらうこと。そんでもって、彼女のお食事が完了した所でカリホちゃんで伐採する。なのだけど……。


(随分と食べこぼしがありそうだな……。一応は魔禍も押さえ込まにゃならんか。えぇと……)


 この至近距離を考えると、ピンポイントでライトニングフィールドを発動しても、ジャーノン達を巻き込みそうだな。まぁ、ダメージが入らない魔法だし、食らっても死にゃしないかも知れないが。味方を巻き込むのは、スマート&ビューティフルな勝利を目指す俺の美学にちょいと反する。


(うん……折角だ。ここは1つ、防御魔法をお願いするか……)


 例の名簿によれば、リヴィエルは地属性だったハズ。ここは相性の悪い水属性のミカエリスよりも、彼女にお願いした方がいいだろう。


「リヴィエル!」

「はっ、はい!」

「悪い、ちょいと防御魔法を頼む! できれば、対魔法系で地属性のヤツ!」

「承知しました! 堅牢な鋼鉄の決意を知れ、我は純潔の庇護者なり……クリスタルウォール、ファイブキャスト!」


 流石、優秀な上級天使様だな。きっと、空気をしっかりと察してくれたんだろう。理由を深く聞くこともなく、アッサリと上級魔法を展開しやがった。よしよし……これなら、こっちも心置きなくぶっ放せそうだ。


「金色の雲海、永遠の悲哀に身を預けん。黒雲の交わりを持って破滅を知れ……ライトニングフィールド、セブンキャスト!」

「えっ……! 最上位魔法を7連発ですか……?」

「す、すごい……!」

「リヴィア達の魔法も素晴らしいと思っていましたが……これは、凄い! まさか一面を雷で埋め尽くすなんて……!」


 いやいや、お集まりの皆様方。俺の真骨頂はここからよ。この程度で驚かれちゃ、困るぜ。


「からの……宵の淀みより生まれし深淵を汝らの身に纏わせん。時空を隔絶せよ、エンドサークル……セブンキャスト! ハイハイ、いきますよ……っと。汝の痛み、汝の苦しみ、全てを新たなる苦痛で凌駕せん! 身に宿し、罪の記憶に永劫の枷を戴け……オーバーキャスト・エンドレスペイン!」


 エンドレスペインは有り体に言えば、ライトニングフィールド付きのエンドサークルなんだけど。いわゆる永久継続構築込みの異種多段構築魔法なもんだから、これまた俺が死ぬか、「もういいよ」と言うまで効果が持続したりする。ライトニングフィールドが無駄にダメージが入らない魔法だからこそ、中途半端に死ねないもんだから……自分で使っといて何だが、却ってタチが悪いと思う。


(本当は、どーしても許せない奴を心ゆくまでビリビリさせるための、お仕置き魔法なんだけど。ま、相手が相手だし……この程度は許容範囲だろ)


 それに、肝心の魔禍さん達は動きは鈍りつつも、ちーっとも苦しんでる様子もねーし。でも、これで得体の知れない化け物を外に出しちまう心配はなくなったな。

 エンドサークルは拘束魔法の一種ではあるが、サークル(魔法陣)上のエンド(境界の端)を空間ごと区切る魔法でもあるため、俺の眼下で大きな1つの円になっている空間と、リヴィエルの防御魔法の向こう側の空間とは魔力ごと隔絶された状態になる。

 いくら魔禍が魔力の亜種とは言え、一定の遮断効果がある魔法陣を跨いで逃げることはできない。エンドサークルの空間はよく小瓶に喩えられるが、実際にはガラスではなく、空気は通しても魔力を通さない特殊フィルターを作り上げる魔法だったりする。そんな事情なもんだから、魔術師系の相手を閉じ込めるのにも効果的。ちょっと構築概念が複雑みたいだが、初級魔法とあって魔力消費量は少ないし。……結構、使い勝手がいいんだよな、この拘束魔法。


(なるほどな。これで、魔禍共は霊樹もどきから逃げられなくなったのぅ。……同じ空間に餌と捕食者を詰め込むとは、若はほんに意地悪だの。ほほほ……我は特別なご褒美が断然、楽しみになってしもうた……!)


 はい、そういう事ですね。後半はしっかりと聞き流すとして、十六夜がしてやったりと言ってくれちゃった内容は概ね、正しい。


「ま、術者は自由自在に解除もできるし、逃げ口も開けられるんだけどな。……とは言え、敵前逃亡なんて格好悪い真似はしねーよ。こうなったら、最後の1匹まで残らずお召し上がりいただけるよう、お給仕しましょうかね。カリホちゃんも、ここまで来たら覚悟を決めろ」

(言われずとも。……どうせ、手放して貰えんのだろうし。……別に今となっては、それでも構わん)

「あ?」

(いや……何でもない。ほれ、小僧! 小生を有り難く、振るえばよかろう!)


 本当に……最初から最後まで、上から目線なのな、お前は。ハイハイ、分かってますよ。2800年ものの小僧は誠心誠意、地獄の果てまでお食事に付き合って差し上げますって。

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