20−15 ビバノンノン体操
ダンタリオンのお相手を済ませて、帰るついでにベルゼブブの所にも寄ってみるものの。……そう言や、リニューアル後の屋敷に邪魔するのは、初めてだ。見れば見るほど、普通の洋館を前に、あのケバケバしい色使いと、趣味も最悪なインテリアが懐かしい……訳もなく。俺は非常に見心地が良くなったその姿に、ただただ感動を覚えていた。
「お頭〜、お帰りなさいませ〜」
「会いたかったでしゅよぅ!」
「おぅ、ただいま。お前らも元気……そう、だな……?」
「えぇ、そりゃもう!」
「毎日のように、天使様達に可愛がってもらってます」
いや、もちろん……子分達が天使の皆様に怯える事なく、馴染んだのはいい事だ。しかも、ウコバク達も満更ではないと見えて、表情も明るい。だけど……。
「お前ら、ちょっと見ない間にぽっちゃりしたな……。と言うか、悪魔は食べ過ぎで太るもんだったっけ……?」
「えっ? そうですか?」
「俺達……太りました?」
天使や悪魔、そして精霊の消化器官は人間のものとは役割が違う。人間の場合は食事はエネルギーとして消化されるが、俺達の場合は魔力として変換される。そして、いわゆる脂肪として「カロリー」が蓄えられる事はほとんどない。もちろん、肉体を形作っている原理は人間と一緒の部分もあるから、食事は体作りの基本……と、言いたいところだけど。食事よりかは魔力さえあれば、身体的な回復はどうにかなってしまう。
天使様達は回復魔法があるせいか、傷の回復は魔力頼みの限りではないようだが。精霊と悪魔はそれぞれのホームグラウンドに帰れば、傷を癒せるのが強みだったりする。
(しかし、この子達は怪我とは無縁の生活を送っているからなぁ……。最近は喧嘩もなさそうだし、魔法を使う機会も、魔力を消費する機会もないわけか……)
そんな中、明らかに太ましくなった子分達の腹をつまむものの。うん、こりゃ……完全に脂肪だろうな。きっと、魔力を使う用事がない上に、天使様達からたんまりと餌付けでもされていたんだろう。ヒスイヒメだけは女の子の意地なのか、体型もきちんと維持しているが……他の子達はどこをどう摘んでも、モフモフじゃなくてプニプニになっている。
「あっれ〜? ハーヴェン、帰ってきてたのーん?」
「あ、あぁ……ちょっと、話があって寄ったんだが……。その前に、ベルゼブブ。子分達のコレ……気づいてたか?」
「うん? 何を?」
「……ルリサブロー、ちょっと腹貸して」
「はぅ……」
1番体格のいいルリサブローを抱っこして、ベルゼブブの前でも腹をプニプニしてみれば。当のルリサブローは変な声を上げながら、悦に入っている。そんな彼を、他の子達が羨ましそうに見上げているが……いや、ここは羨ましがるところじゃないと思うんだな。
「……あっ、確かに……ちょっとぽっちゃりしてるかもねぇ。最近の天使ちゃん達は、何かとウコバクをモフりたがるし。でも、今はウコバクも6人しかいないでしょ? だから……少しでも、推しのウコバクに振り向いてもらおうと、みんな高級干し魚を用意してくれるんだよ。ほら、人気ウコバクを独占するには、チャージ料は必須でしょぉん?」
「そ、そうなのか……?」
推しのウコバク……? 人気ウコバクを独占……? モフ提供のサービスは健全かもしれないが、親玉の考え方が微妙に不健全だと感じるのは、俺だけか?
「因みにね。この中で1番人気はヒスイヒメなんだって」
「えっ、そうなの? 1番食ってなさそうに見えるけど……」
「私は皆様に健康的なモコモコを提供するために、努力しております。スムースな毛皮を際立たせるには、ボディラインのキープは必須ですわ」
「おぉう……」
これぞまさしく、プロ根性……と言いたいところだが。でも、ヒスイヒメがやっていることを他の子も実践すれば、体型を戻せるんじゃないかな。
「因みに、ヒスイヒメはどんな努力をしているんだ?」
「はい! まずはモコモコ維持のために、毎日マモン様の所でお風呂を借りております。最近は天使様がご用意くださっている、キューティクルケア効果のある石鹸で、隈なく全身を洗いつつ……マッサージしていますの!」
「そ、そうか……」
だとすると、これはマッサージが効果的……と考えるべきか?
「いや、マッサージだけで痩せられたら、苦労はないよな……」
「ふふふふ〜ん。ハーヴェン、違うよ、違う。ヒスイヒメのボディラインは、とある美容体操でキープされているんだよ」
「美容体操?」
「そうなんです! リッテル様考案の美容運動……その名も、ビバノンノン体操ですッ!」
「ビバノンノン体操……?」
俺がなんだかヘンテコリンな語呂に首を傾げていると、すぐさま実演してくれるヒスイヒメだけど……。
「まずは……ビバノンノン体操・第一! ベルゼブブ様、お願いします!」
「はいよん。ミュージック・スタートん!」
どこから持ち出したのかは知らないが。ベルゼブブがヒスイヒメのオーダー通りに、小さめの蓄音器で何かの音楽を流し始める。しかし、これは……一体、何の体操なんだ⁇
「ほらほら、みんなも一緒に体操しましょ!」
「え、えぇ〜?」
「だって、それ……」
結構、キツイんだもん……と他の子達が言う通り、意外とアップテンポな曲調に乗るのは、なかなかにハードな気がする。しかも……ちょこちょこ混ざっている、体操の「指令」はかなり無茶振りな気がするけど……!
【気合よ! 気合を入れるのよ!】
「うん?」
【はい、次はスクワットよ! ゆっくり腰を落として……まぁ! 何よ、中途半端な腰の落とし方は! やる気はあるのかしら⁉︎ 遊びに来たんじゃないんでしょ⁉︎】
「これ……本当に美容運動なのか……?」
これは……明らかにリッテルの声だぞ? あのリッテルの可愛い声で、結構アグレッシブな叱咤が飛んでくるんだけど。その激しさと、ギャップも相まって……何コレ、超怖い! コレは絶対に美容運動じゃないって! どっちかって言うと、ハードな筋トレだよ! しかも……ヒスイヒメもヒスイヒメで、きっちり器用にスクワットしているじゃないの。短い足でもしっかり踏ん張って……健気に、一生懸命……!
【いいわよ、いいわよ、その調子! ほら、諦めちゃダメよ! ダイナマイトボディ目指して、一緒に頑張りましょ! 私に付いてきなさい!】
「は、はいッ! リッテル教官!」
おぉう……。リッテル……こんな所で、教官やってたんだ……。
【うふふ、お疲れ様! よく頑張ったわね。それじゃ、最後は一緒に……】
【「ヴィクトリィィィィッ!」】
「……」
うん。やり切った笑顔、とっても素敵だぞ、ヒスイヒメ。最後の決め台詞と一緒に、ポーズも格好良く決まったな。だけど、これは……全体的にホニャッとしている、ウコバクのダイエット手段にはならないだろうな……。




