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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第20章】霊樹の思惑
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20−11 掛け値なしの信頼

 メッセージに重要フラグを立てられてまで、会議に召集された理由はただ1つ。ローレライの状況について、話し合わなければならないからだろう。昼ごろまでには仕事を片付けるようにとのお達しもあり……自室で精霊データのチェックをした後、いざ行かんとエントランスへ赴いてみたものの。モノの見事に、セイント少女達と化石女神様に包囲される。この状況もお見通しだし、織り込み済みだが……未だに釈然としない。


「ルシエル、発見!」

「ねーねー、今日のおやつは、なーに?」

「……オレンジパウンドケーキのようですね。ハーヴェン曰く、どこから食べてもゾッコン爽やかフレーバー……とのことでして。これでもかと言うくらいに、オレンジ塗れの一品となっています」

「おぉ〜!」

「今日はオレンジ! オレンジ!」


 そうして仕方なしに、しっかりとカット済みのおやつを配ってみれば。不味い要素なんて欠片も見当たらないケーキは、彼女達にとっても満足のいく逸品だったらしい。それはそうだろう。特に上面にトッピングされたシロップ漬けは、3種類の柑橘を使ったスペシャルなものとのことで……ハーヴェンが趣向を凝らしたお菓子が、美味しくないはずがない。


「ご満足いただけました? 私は会議がありますので、これで……」

「うむ、今日もご苦労だった! 次の配達も頼むぞ!」


 ……ご苦労だった、って。いつから、私はおやつの配達人になったのだろう……。化石女神様の偉そうな労いの言葉には、妙に脱力させられる。……もう、いいや。反論するだけ、労力の無駄というものだ。


「……って、おや?」


 しかし、現状を半ば諦めかけている私の神経に、誰かの合図が介入してくるのを確かに感じる。この感じは、もしかして……。


「どうしたの、ルシエル」

「え、えぇ……どうやら、契約している精霊に呼ばれているようです。しかも、相手は……バハムート⁇」


 バハムート(ゲルニカ)から合図があるとなると……きっと、エルノア絡みのことに違いない。であれば、すぐでも彼の合図に応えた方がいい気がするが……。


「どうしようかな。……今日の会議は、いくら何でも欠席するわけには……」

「行ってあげて」

「えっ?」

「精霊さんの所に、行ってあげて欲しいの。大丈夫。姉様への説明、私がしておくから」

「ウリエル……?」


 重要な選択肢が2つも急浮上して、悩んでいる私にウリエルが思いがけない申し出をしてくる。しかしながら、言い方は非常に悪いが……エルノアのことは精霊個人の問題であり、世界全体に影響を及ぼしかねないローレライの問題の方が遥かに重要度が高い。であれば……個人的な問題の方は、少しの猶予をお願いする他にないだろう。


「ですが、ウリエル。今回の会議は、大天使階級の出席は必須でしょう。ですから、一旦バハムートには少し待って欲しいと、伝えようかと……」

「精霊さんの方も急ぎかも知れないよ? 大天使はルシエル以外にもいるんだし、大丈夫だと思う。でも、その精霊さんのマスターはルシエルだけじゃない。だったら、精霊さんとのご縁は大事にしないと、いけないの。よく分からないけど……誰かに、そう言われた気がするの」


 言われてみれば、それも一理ある。大天使は私だけではないのだし、正直なところ、私が議論に参加したところで建設的な意見を出せるとも思えない。一方で、ウリエルの言う通り……今の状況でゲルニカの呼びかけに応えられるのは、私だけ。全幅契約持ちの精霊の即時対応は、担当天使のみにしかできない業務なのだ。


「……そう、ですか。でしたら、ルシフェル様へのご説明をお願いしても?」

「うん、任せて!」


 そうして、彼女が見せる笑顔は……今の今まで、私でさえも見た事がない表情だった。あれ程までに常に憧れ、暇さえあれば注視して来たというのに……私は、彼女がここまでの輝かしい表情ができることを知らない。


(……そうか、ウリエルはどこかで覚えてもいるんだ。ハミュエル様と約束したことを……)


 様子を見る限り、ガブちゃんとラフちゃんとは異なり、彼女はどうも転生を挟んでいないように思える。外観はミカと呼ばれていた時に近いし、そして……ミカの外観はハミュエル様の肉体を利用していたために、寧ろ彼女の方にこそそっくりなのだ。しかも、今の反応である。だとすると、ウリエルは転生させられたのではなく、何らかの手心を加えられた可能性が高い。


(これは……あぁ、なるほど。コンバートソウルを使ったのか。肉体は保ったまま、よしなに魂の書き換えをしたのだな)


 幼児退行した見た目はミカが化けていた時の姿を踏襲しているだけかも知れない。それに、その方が他のちびっ子達とも馴染みやすいという判断になったのだろう。それでいながら、他の3名(若干1名は女神様なのだが)とは異なり、ウリエルはガブちゃんとラフちゃんよりは、中身は大人びている。

 「誰かに、そう言われた気がする」。そんな風に、いつかの思い出を引っ張り出してくるのを見ても……記憶を丸ごと転生でリセットされているとは考えにくい。そうなると、記憶の書き換えを疑うべきだろうが……ディルトメモリでは中途半端に思い出を残すことはできないし、そもそも書き換えられる記憶は「術者も知っている内容」であることが前提となる。当人同士しか知らないやり取りにまで、魔法効果を適用することは不可能だ。


(しかもこの記憶の残り具合は、入念に記憶の剪定をされた結果だろう。どこまでルシフェル様の意図が含まれているのかは、知らないが……コンバートソウルを使わせているとなると、彼女のお願いが効いているのは間違いなさそうだ)


 一方のコンバートソウルはその名の通り、魂の書き換えを可能にする魔法だ。持ち主のある魂への介入は、存在そのものを書き換えることにもなりかねないため、効果としても禁呪級の魔法だと思うが。厳密に言えば、コンバートソウルは一般的な魔法ではないとするべきだろう。

 なにせ、この秘術を使えるのはマナツリー……延いては、マナの女神のみとされている。現在の化石女神に、コンバートソウルの行使能力があるのかは、甚だ疑問だが。いずれにしても、マナツリーはこの固有魔法を使って善良な魂に対して意図的な優遇措置を発生させたり、天使の候補になりそうな者には転生前に目印を付けていたらしい。

 この秘術の存在は最近になって、マナツリーから明かされた事ではあるのだが……いわゆる「聖痕」はコンバートソウルによる目印が発現したものになるそうで、聖痕が表面化するタイミングは個々の魔力状況によって異なる。生まれつき聖痕を持つ者もいれば、後付けで聖痕が顕れる者もいるが……人間だった時の血筋や周囲の魔力状況などの外的要因によって、発現するタイミングもバラバラだ。


(いや……この際、コンバートソウルのことはどうでもいいか。今はとにかく、ゲルニカに応じるのが先だ。ここは始まりの天使様のご厚意に甘える事にしよう)


 秘術のあらましに想いを馳せても、ただただ無味乾燥なだけ。何1つ、面白いことはない。それならば、始まりの天使達の姉妹愛に想いを馳せた方が、遥かにロマンチックだ。

 ルシフェル様が天使長である前に、始まりの天使の長姉なのは紛れもない事実。生前から、兄弟というもの知らないに私には今ひとつ、実感が湧かないが。小さくも、頼もしい限りで胸を張るウリエルの姿を目の当たりにすれば。あれ程までに危険視していた相手だと言うのに、信用できそうだと安心してしまうのだから、情けない。この掛け値なしの信頼が、家族とやらの絆なのだろうと考えた方が素敵だし、健全だと思う。私はロマンチックなんて、ガラじゃないけれど。たまにはこういう温かさに触れるのも、悪くない。

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