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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第20章】霊樹の思惑
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20−8 きっちりヤバそうな相手

 残念ながら、「旧カンバラ展」とやらは終了してしまったとのことで、展示物は通常営業に戻っているらしい。それでも、やっぱりプロの画家が描いた絵っていうのは、一味も二味も違うもんで。なんて言うか、こう……厚みというか、奥行きというか。額縁の中に1つの世界が存在しているかのように、その場の空気も違って見える。それなのに……。


「……お前ら、ギブアップが早すぎだろ。つーか、絶対に俺に抱きつくのが目的だよな?」

「えぇ〜? そんなこと、ないですよぅ?」

「僕達、アートには興味ないです。おやつが欲しいです」

「あぁ〜ん……アチシはこうして抱っこされているだけで、満足でしゅよ?」


 そうもハッキリ、興味がないとか言うなし。失礼だろうが。


(なんと、情けない……強欲の真祖ともあろう者が、下級悪魔に振り回されるなぞと……)

「あぁ? そんなクチを利けた立場か、この野郎。生意気な事を言ってると、もう1度身ぐるみ剥がすぞ、クソ刈穂が」

(ふガッ……? しょ、小生に向かって、クソとはなんぞ、クソとは!)

「あー、あー、失礼しましたね〜……っと。脂ギッシュ、汗ダクダクのクソッタレなフレグランスを纏っていたのは、どちら様でしたっけ?」

(フグググ……! 覚えておれ、小童が!)


 テメーもウルセェよ、このタコ助が。しかも、ちょっと年上だからって、いちいち子供扱いするんじゃねーよ。俺だって見た目が若すぎるのを、死ぬ程気にしてるんだぞ?


「それはともかく……リッテル」

「えぇ。気づいています。……見られている、わよね」


 色んな意味で、な。だが、俺が気にしているのはリッテルに集中するジェラシーやキュリアシティ(ちょっと格好良く言ってみましたよ)じゃなくて、だな。俺達の様子を明らかに見張っているような視線の方だ。


「うふふ……まぁ、仕方ないわよね? 私達みたいな美男美女のカップルともなれば、注目の的なのは間違いなしです★」

「……あぁ、そう(自分で美男美女とか、言うか? フツー)」


 あぁぁぁ〜、そうでしたか〜。嫁さん、なーんも気づいていませんでしたー。

 それはそうと、勘違いで大きな胸を堂々と張るなし。余計に目立つだろ。


(こりゃ、俺が1人で頑張らないといけないパターンか……?)


 グスッ。漏れるのは、ため息と涙ばかりかな。嫁さんは相変わらずあっけらかんとしていて、調査の緊張感も、仕事の使命感も、どこかに捨ててきていらっしゃる。


(パパ……頑張るです!)

(おいら、手伝うですよ!)

(う、うん……ありがとな。俺、頑張るよ)

(きっと、見張りが気になるのでしゅよね?)

(あの人、さっきから、こっち見てるです!)

(……お前らの方が、よっぽど役に立つな)


 抱っこしているクソガキ共とゴニョゴニョと作戦会議をしていると、向こうさんも痺れを切らしたらしい。いかにも「ボディガードです」な風貌の男達を引き連れて、キリッとしたスーツ姿の女がこっちにやってくる。……もしかして、あのお方がヨフィさんでござんすかね?


「あなた様がルルシアナ・パスをお持ちだという、お客様でしょうか?」

「あっ、うん。多分、そうだろな」

「まぁまぁ、ご挨拶が遅れまして申し訳ございません。私めはここの館長で……」

「ヨフィさん、だっけか? ……あんたの事はホーテンさんからも、カリホちゃんからも聞いてる。しかし、こんな所で油を売ってていいのか? お前さん達のボスがおっ死んでるってのに」

「あら……左様でしたの? 私はてっきり、ビル様は裏切られたのだとばかり、思っておりましたが……」


 そうして、ギロリと俺の左腰を睨むヨフィさん。やっぱり、気づいていやがったな? 俺が仕方なしに下げている、紫鞘の存在に。しかし……こいつは、きっちりヤバそうな相手っぽい。得体の底が知れない以前に、キナ臭い香りがプンプンする。


「……だってさ、カリホちゃん。お前さん、しっかり裏切り者認定されてっぞ?」

(この状況では仕方なかろう。言っておくが、小生はお前の軍門に降ったつもりはないぞ!)


 ここでそういう強がりは要らん。空気を読まないのも、大概にしておけよ。


「……まぁ、いい。ご本人に裏切ったつもりはないそうだが、かと言って、お前さんにこのままご返却も……ちょっと、なぁ。それに、今はただアート鑑賞に来ているだけだから、邪魔しないでくれる?」

「そうでしたの? これはこれは、大変失礼いたしました。でしたら、機会を改めてお話をさせていただきたいのですけど……本日の夕刻に、ホーテン様のお屋敷へお邪魔してもよろしくて?」

「いや、俺の屋敷でもない以上、来てようござんすとは勝手に言えないな。それに、俺には善良な市民の皆さんを巻き込む趣味はないもんで。……できれば、こっちがそちらさんにお邪魔したいんだが」


 ホーテンさんの無邪気なはしゃぎっぷりを思い出すに、どんちゃん騒ぎをもう一発……も、アッサリ受け入れられそうだから、末恐ろしい。だが、できるだけ危険の芽は摘んでおくに越した事ない訳で。ヨフィさんの返事次第では、それも仕方ないと割り切るしかないんだろうが……切った張ったの瀬戸際で、別方向の緊張感を保つのは疲れる。囃され方加減では、妙に脱力するし。


「ふふ……その余裕は流石、ホーテン様にも認められた大商人、と言ったところですか? 大胆不敵、傲岸不遜……それでいて、この上なく魅力的。貴方様のご要望、しかと受け止めましたわ。今宵はしっかりと、おもてなしの準備をしてお待ちしております。……今から、とても楽しみです」


 あぁ? もしかして……俺のタダの心配は、余裕ぶっこいた態度に見えたってことか? しかも、妙に熱っぽい視線を送られると……これはこれで、寒気がするんだが。つーか……嫁さんの前で、わざわざ「いかにもな表情」はしないでくれないかな。だって……。


「……あなた、帰りましょ」

「いや、まだ全部回ってないし……」

「いいから! ホーテンさんからプレミアムなパスを頂いたのですから、また来ればいいじゃない!」

「えぇ〜……?」


 俺、帰りたくない。まだ、帰りたくないよぅ……。半分も回ってないし、最後までアートを堪能したいんですけど……。


「……この程度でご機嫌斜めですの? 相変わらずリッテル様はワガママで、自分勝手ですのね?」

「そうね。それは認めるわ。でも、グリちゃんはワガママな私でも、きちんと受け入れてくれた大切な旦那様なの。グリちゃんの愛は、誰にも渡さないんだからぁッ……!」


 さも、昔からリッテルを知ってます……って感じのヨフィさんの物言いに、違和感を覚えるが。それはそうと……俺の愛って、なんですかね? いや……確かに、散々振り回されても「アイラヴユー(死語っぽい)」な状況は変わりませんけど。堂々と小っ恥ずかしいことを言わないんでほしいんだ。


(……ゔっ……ナニ、この微妙な罰ゲーム……)


 腕いっぱいのクソガキ共の生ぬるい視線に、腕に絡みつく愛情いっぱいな嫁さんの圧力。そして、周りの皆さんの好奇心大盛りの視線。美男はともかく、美女に注がれる視線はホットすぎるもんだから……ちょっとした小競り合いでも注目度も抜群らしい。

 ……えーと。すみません、皆さん。折角ですから、芸術鑑賞に勤しんではいかがでしょう? 俺は是非に、そうしたいんですけど……ちっとは放っておいてくれませんかね?

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