19−55 キル・カリホでおじゃる!
陸奥刈穂を含むクソ親父の刀には、使い手の血液(正確には鉄分)を啜ることによって自己修復される機能が備わっている。俺自身は生贄の憂き目に遭っていないもんだから、持ち主がどんな感じでチューチューされるのかは知らないけど……される側は痛いんだろうなと、つい考えてしまう。
「……ところで、1つ確認だが」
「なんだ、悪魔」
「その態度、めちゃくちゃ気に入らないな……まぁ、いい。鞘や柄糸の様子からするに、お前さんの手入れは相当におざなりになっていたと思うが。随分と刃は綺麗なままじゃねーか。……刃毀れしている様子もねーし」
「だから、どうしたと言うのだ?」
「……要するに、だ。お前さんのお綺麗な刃は、ビルさんの血を相当に吸った結果だよな? だから、こんなにビルさんは脆いんだよな? ……空元気もいい加減にしておけよ。持ち主がこの状況で、どっからどうやって、底力を捻り出すつもりなんだ? 今のお前に”本気を出す”なんて芸当ができないのも、お見通しだ」
さっきのやったら軽い感覚からするに、今のビルさんは骨までしゃぶり尽くされている状態なのだと思う。
骨にも血液は通っているし、そもそも骨髄で血液は作られる……らしい。だから、重度の貧血になった人間は骨も不健康である可能性が高い。おそらく、ティデルの時は魔力の補給でカバーできていた部分があったのだろうが……ビルさんは純粋に、鉄分をかなり持っていかれていると思われる。
「持ち主を粗末に扱うから、そうなるんだよ。きちんと話つけて、稽古をしてやって、手入れもして下さい……って、素直に頼めばいいのに。お前さんほどの得物なら、そのくらいの条件は飲んででも使ってやろうって奴だって、いたんじゃないの?」
「……黙れ」
「あ?」
「黙れと言っている、この……穢らわしい悪魔が! 小生の持ち主はこの世でただ1人! 古代の女神・クシヒメ様のみぞ! 他の虫けらなぞ、眼中にないわ!」
「ふ〜ん……そうなんだ? で? その虫けらの中に、俺も含まれているでオッケイ?」
「無論ぞ!」
「あぁ、そう。……そういうこと、言っちゃうんだ? せーっかく、女神様に会わせてやろうと思ったのに。やっぱ、やーめた」
「はっ? な、何を申しておるのだ? クシヒメ様が貴様なんぞと知り合いな訳が……」
……何と言いますか。意外と浅はかだな、こいつ。この程度で、なーに狼狽えてんだよ。
「えぇと、どっから話せば良いかな……あっ、そうだ。お前さん、エルノアちゃんって、知ってる? ……んな、ワケないか。場末の魔法道具が竜族のお姫様と知り合いなはず……」
「お、お前……どうして、その名を存じておる⁉︎」
「なんだ、お前さんもエルノアちゃんを知ってるのか? だったら、話が早いな。あの子にくっ付いていたクシヒメさんの魂の一部が、今は知り合いに宿っていてな。実は、ちょいとご様子を見に行ってきたんだけど」
「な、なんと……!」
エルノアちゃんの名前を出した瞬間……コロリと態度を変えたぞ、こいつ。さっきまでの偉そうな態度から一変、ゴツいビルさんのまんまでウルウルし始めた。ゔっ、こいつは……絵面的には最悪なんですけど。
「ま、そんな事はどうでもいい。……今までのオイタのお仕置きもしてやらにゃ、ならんしな。ここまでコケにされて、俺もこのまま収めるつもりもねーし。……覚悟はできてんだろうなぁ? あぁ⁉︎」
ビルさんは助からない。そして、ビルさんを別の意味で「廃人」にした陸奥刈穂の奴は悔い改めることもなく、クシヒメさん以外の「虫けら」はガンチューにありませんと吐かしやがった。
「……風切り、どうする? こいつ……伸していいか? なぁなぁ、伸していいやつ? 伸す? 伸す?」
(無論じゃ、主様。麻呂を三下などと申してからに……! 場末の魔法道具が、身の程知らずもいいトコロでおじゃる! 主様、やってしまうのじゃ! キル・カリホでおじゃる!)
ハイハイ。乗り気なのは、とっても素敵だけど。キルだなんて、元巫女様が物騒なことを言っちゃ、ダメだろ? 殺すだなんて、ハッキリ言うものじゃありません。リッテルのデストロイといい勝負だぞ、それ。
「つー事で……お仕置き、決行でーす。ほれ、ボサっとしてないで、もうちょっと相手をしてくれよ? ……風切りも小馬鹿にされて、怒ってるみたいだし。心配しなくても、木っ端微塵にへし折ってやるからさ……!」
「やはり、悪魔との対話は成り立たぬか。……ふん! 調子に乗るのなよ、小僧ッ!」
いや……俺、これで2800年くらい生きてるんですけど。いくら何でも、小僧はないんでない? 小僧は。
「……風切り、アレをいくぞ」
(承知じゃ。ここは1つ、実力の差を見せてつけておじゃれ!)
風切りの得意げなお言葉をいただきつつ……まずは力任せの攻撃を躱して、距離を取る。相手を無駄に苦しめることなく、一発で仕留めたいところだが。俺とビルさんとでは結構な体格差があるため、ちょいと小技を使わないと「一思いに」斬り伏せることは難しい。
(はぁぁ……背が低いってのは、こういう時に不利だよなぁ……。ここは、魔法で仕留める……は、やめとこ。興が削がれる)
折角の真剣勝負ですからね。ここでバリバリ〜! だなんて、丸焼きにするのもつまらない。
しかし、相手の首を狙おうにも風切りのリーチでは到底、届きそうもない。かと言って、同じ中庭にホーテンさん達もいる手前……風刃が予想外に流れるかもしれないことを考えると、中距離以上の居合いは使わない方がいいだろう。さっきの腕前を見る限り、鎬で風刃の流れを変えるテクニックはあるっぽいし。
「ほれほれ、こっちだ、こっち。……全く、トロくてあくびが出ちまうぜ」
「えぇい、ちょこまかと鬱陶しい……!」
相手を翻弄するのが、俺の得意技なもんでして。これまた程よく煽りつつ、ちょいちょい近距離の居合いで足元を整えてやることで、ビルさんの進行ルートをコントロールしてみる。きっと、自分に向けられた攻撃でなければ、避ける必要もないという判断なのだろうが……さりげない風切りのアシストに、道筋まで掌握されているとは、考えまい。
「フンっ……く、これも当たらんか⁉︎」
「そんな弱っちい風刃、当たっても擦り傷にもなんねーし」
「……ならば、これで終いにしてくれる!」
ようやく、突撃してくる気になったか。そうそう、そう来なくっちゃ。
それでなくても、ビルさんの体は既に「使い物にならない」。であれば、いよいよ犠牲にしても構わないとでも思ったんだろう。防御を捨てた怒号と一緒に、刃を振りかぶるビルさんの攻撃に備えて、こっちは腰を落とす。そうして襲いくる、縦一閃。凄まじい威圧感と一緒に、「ブンッ!」といかにもな効果音が俺の頭上に振り落とされた。
「……なっ……⁉︎」
しかし、勇ましいのは効果音だけで、肝心の獲物(もちろん、俺です)を捉えることもできず、ビルさんの攻撃が虚しい空振りに終わったところを……バックステップからすかさず、前方へ軽く跳躍。屈んでいる状態のビルさんの左肩から首元にかけて、ズバリと斬撃のトドメをくれてやる。
なんだけど……あぁ、あぁ。なんつー酷い有様だよ。ビルさんは体を真っ二つにされても、血を一滴も流さないまま、サラサラと灰になって崩れ落ちる。……血を一滴も流させないなんて、どこまでしゃぶり尽くしたんだか……。
【作者の独り言】
ビルさんの名前は某映画から来ていまして。
マモン様のモデル(かけ離れていますが)から、無理やり流れを引っ張りました。
えぇ、えぇ。これがやりたくて、ビルさんにしたのですし。
そう言えば……最近、映画館に行ってないなぁ。




