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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第19章】荊冠を編む純白
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19−54 中身はスカスカ

 ガッチリとガタイのいい見た目通りに、ビルさん(陸奥刈穂)のフットワークは重ためだ。見慣れたサタンに比べれば、大きさも筋肉も色々と物足りないが。人間の割には、鍛えられている方だと思う反面……重量もそれなりのはずだと予測してみる。


(しかし……本当にこいつ、剣技を磨くのに時間をかけていたのか?)


 手入れがおざなりになっていた言い訳に、技を磨くことを挙げていたカリホちゃんだったが。確かに、本人の戦闘センスはいいんだろうけど……妙に、戦い方がお体にマッチしていないというか。


「……そんな事を考えている場合じゃないか。風切り、頼むぞ!」

(お任せあれ! 主様、麻呂を存分に振るうておじゃれ)


 ティデルの時と違って、ビルさんとやらに忖度する必要はない。しかし、前回よりも相手の腕が落ちているともなれば……うん、本気を出すのも馬鹿馬鹿しいな。適当に煽って、流れを掴んじまうか。


「ほれほれ、どうした! この程度で、腰落としてんじゃねーぞ!」

「くっ……! なんぞ、これしき……!」


 相手を適度に挑発しつつ、腰を落とした防御体勢を指摘してやることで……敢えて浮かせるように、誘導する。そうして、風切りの得意技でもある居合い切りを一閃。ビルさんの足元をズバッと崩してやったところで、一気に間合いを詰めて……。


「ハハッ! お前さん、本当に間抜けだな! 今度はボディがガラ空きだぜ!」

「いっ、いつの間に……!」


 えぇと、ですね。俺自身はパワータイプではなく、身軽さがウリの戦闘スタイルなもんですから。明らかに力自慢っぽいビルさんの攻撃をマトモに受けるのは、ちょいと分が悪い。まぁ、真っ向から斬り合うのも一興だけど。ここは無理せず、小技で相手を崩した方がスマートというモンで。ヒット&アウェイで行かせてもらいまーす。


(今の感覚だと……結構、骨に響いたか? 折れてないとは思うけど……)


 そうして、素早くビルさんの懐に潜り込んで、風切りの峰で強か腹と右腕とに打撃を与えてみるけれど。手心を加えた攻撃でさえ、効果は抜群らしい。……しかし、思った以上に被ダメがデカいみたいだな。これは、ひょっとすると……とっくに手遅れなパターンか?


(主様……今のは、峰打ちでおじゃるか? 何を遠慮されておる)

「う〜ん……別に遠慮している訳じゃないんだけど。弱い相手に本気を出すなんて、格好悪いだろ」

(あぁ、今のは遠慮ではなく、手抜きなのでおじゃるな?)

「もうちょい、マシな言い方はないのかと思うが……まぁ、有り体に言えば、そういうこった。この程度の相手に、全力を出す必要もねーし」


 しかし……手加減しているとは言え、ビルさんの体が不自然なくらいに脆い気がする。峰打ちでもそれなりの効果があるのか、片膝を着いて悔しそうにしているのを見ていると、相当に堪えている様子。右腕がダラりんと垂れてるし、利き腕でカリホちゃんを振るうのは、しばらく無理だろう。


「きゃ〜! あなたはやっぱり、クールで強いんだから! もぅ、痺れちゃう!」

「……リッテル、いたのか……。と言うか、そんなに甲高い声を出すな。ご近所迷惑だろ」


 俺がこちらを睨んでいるビルさんを、繁々と観察していると。いつの間にやら、駆けつけていたらしいリッテルが興奮気味で叫び出した。しかも……。


「……あのぅ。ホーテンさんも何、してるんですかね? そんな所で、優雅にお茶を嗜まれている場合では……」

「いや、この大一番を見逃す手はなかろうて! そんな勿体ないことはできん!」

「さ、左様ですか……?」


 嫁さんの声に恐る恐る、振り向けば。俺の視界には明らかに場違いな光景が広がっていた。

 リッテルの足元にはクソガキ共が勢揃いしていて、ちゃっかりお菓子までいただいている図々しさに……パパはとっても頭が痛いんだが。しかも、メイドさんまで揃って甲斐甲斐しくお茶をご準備されているのを見るに、ここで全員まとめて、ご見学されるおつもりらしい。


「チネッテに、クレア。茶はもういいぞ。お前達も折角だから、マモン殿の戦いっぷりを観戦するといい!」

「はい! あぁ……こんなにも間近で決闘を見られるなんて、ドキドキしますね!」

「えぇ。なんて荒々しく、熾烈な戦いなのでしょう……!」

「皆様もご一緒に、主人の活躍を刮目するのです! ほらほら! みんなもパパをしっかり応援しましょうね」

「パパ! 頑張るでしゅ〜!」

「パパ、格好いいですよぅ!」

「パパの方が絶対に若々しいです!」


 いやいやいや、待て待て! 俺はショーファイトをお見せしているつもりはないんだが! 大体……若々しいは余計だ、こん畜生!


「……悪いな、カリホさん。妙に場が白けちまって」

「白ける……だと? フン! 最初から、小生は白けておるわ!」

「あっ、そうなんだ? ……まぁ、それもそうか。その程度の腕前で本気でしたって言われても、興醒めだもんな〜」

「……!」


 ……何と言いますか。ギャラリーの興奮加減もご立派だが、カリホちゃんの沸点の低さもご大層なもんだと思う。この程度の嫌味で、そんなに怒んなよ。冷静さを欠いたら、勝てるもんも勝てなくなるぞ。


(俺も昔は泥臭く必死になったこともあったけど……最近はそんな事もなくなったなぁ)


 俺が本気を出したのは今まで、2回だけ……でもって、負けたのも、その2回だけ。ルシファーに玉座を譲れと言われた時と、ハーヴェンに悪戯を嗜められた時……くらいなもんで。勝負には負けたくなかったし、メンツもあったしで、相当にがむしゃらにもなったけど。……今思えば、もうちょいクールに振る舞うべきだったと思う。


(でも、ま。それがあったお陰で、リッテルと出会えたんだし……今更、落ち込むことでもないか)


 最近、ウチの嫁さんは暴走気味だけどな。無遠慮に、ガッツリ俺を振り回してくるけどな。でも、最愛の嫁さんであることに、変わりはないんだな。


「で? どうすんだ? ……まだやんのか?」

「むっ、無論ぞ! ここから小生は本気を出すつもりなのだ!」

「あっそ。そんなんだったら、最初から本気出しておけよ。……こっちは退屈で敵わん」


 しかし、これは……タダの強がりだろうな……。普通だったら、利き腕を使用不可にされる前に、本気を出すだろう。でも、カリホちゃんはそれをしようとしない……いや、できないと言った方が正しいか。今のビルさんには、ティデルと同じ方法を取れない事も、何とな〜く分かったりする。


(……目方はまだ保っているように見えて……中身はスカスカなのかも知れないな……)


 大体、色々と鈍いんだよ、鈍すぎる。フットワークが重いのは、純粋に体がデカいせいだとばかり、思っていたが。……これはそんな生易しい状態ではないだろう。多分……こいつは骨まで、逝っていやがる。一応はワンチャンあるかなと思って、様子も見ていたけど。ここまでくると……ビルさんはもう、助からないな。

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