19−46 攻撃力があるのは言葉だけ
カーヴェラってのは、本当に退屈しない街だよな。服屋に、菓子屋に、食事処に、雑貨屋……その他、もろもろ。目抜き通り1本を歩いているだけでも、必要最低限どころか、見つからないものはさそうだって思うくらい。そんなバリエーション豊富な店の顔ぶれに……クールを目指す俺でも、ちょっとはウキウキする。
そんでもって、ホーテンさんの枕の配達先が、いつもお世話になっているブティックだったもんだから……こうして一緒にノコノコ付いてきたけれど。リッテルはもちろんだが、足元でクソガキ共もはしゃいでいやがるのが、何となくくすぐったい。
(……無理もないか。こいつらを人間の街に連れてくるの、初めてだしなぁ……)
通りすがりの菓子屋で買い求めた、いかにも甘ったるそうなクレープを嬉しそうに頬張っては、口の周りをクリームだらけにしているグレムリン達。そんな中、ハンスがいつも通りに余計なお誘いをかけてくる。
「あぁ〜ん……甘くて、美味しいでしゅ……! パパ、一口どうでしゅか?」
「……いや、俺はいい。甘いモノはいらん」
「パパ、欲張りなのに?」
「欲張りだろうが、強欲だろうが、いらんモノはいらん」
「そう、なんですね……」
「パパがいらないなんて……よっぽど、嫌いなんですね」
そんな事を言いながら、驚くと同時に、微妙な顔をし始めるクソガキ共。
あぁ、分かってるよ、分かってる。昔の俺だったら、誰かが「嬉しそうにしている」ってだけで、「嬉しさの原因」を奪わなければ気が済まなかったからな。それで相手が悲しむことになろうが、くたばることになろうが。そんなの関係ないとばかりに、俺は誰かから何かを奪って、欲望だけを満たしてきた。だけど、「親に認められない自分」から目を逸らすこともできずに……結局は寂しさを飲み込んでいたっけ。
「……別にいいだろ。お前らが楽しいんなら、それで。俺はお前らの緩んだ顔を見ているだけで、腹一杯だ」
「そうなのです?」
「パパはおいら達の顔を見て、お腹いっぱいになるです?」
「なんか、微妙に伝わっていない気がするが……まぁ、今はそれでいいや」
何も理解していなさそうなグレムリン達を尻目に、流石に嫁さんはしっかりと何かを理解したらしい。自分もクレープとやらを頬張りながら、器用にクスクスと肩を揺らして見せる。
「……なんだよ」
「うふふ。別に、なんでもありません」
しっかし……俺を理解してくれるのは、いいんだけど。なーんか、妙に揶揄われている気がするんだよな、その笑顔。
「ふむ、着いたな。すまぬな、こんな所まで付き合わせて」
「いや? 別にいいよ。この店には、俺達もよく世話になってるし。何より……嫁さん、今から買い物する気、満々だし」
ハイハイ。いつもながらに、とっても素敵なドレスがショーウィンドウに飾ってありますね。今日はそちらをお買い求めになるつもりですか? プリンセス。
「あぁ、なるほど。……そう言えば、そんな話もあったな。この店の最高級品を買って行った大商人がいたと、カトレアが自慢げに申していたが。まさか、それが魔界の大物だとは思いもせなんだ。……まぁ、いい。ワシもここの店主とは、それなりの腐れ縁があってな。何かにつけ、口煩くて敵わん」
「ほぉ〜……カーヴェラの大物さんにも、敵わない相手がいるんだな」
「悪人と言えど、ワシとて人の子だ。苦手な相手の1人や2人、普通におるぞ」
自分を悪人とおっしゃりつつ、ちょっと不服そうに鼻を鳴らすホーテンさんだけど。でもさ〜……苦手な相手に、一推しの目玉商品(しかも、価格設定は金貨3枚です。結構、お高いです)をお持ちするか? 普通。しかも……。
(ご丁寧にラッピングまでして……。こいつは腐れ縁は腐れ縁でも、焼け木杭なのかもなぁ)
ホーテンさんとこちらのマダム(カトレアさんと言うらしい)の関係性はそれこそ、俺には関係のない事だけど。この浮かれ具合を見るに、そこまで仲が悪いわけじゃないんだろうな、きっと。
「邪魔するぞ」
「あら、ホーテン。今日は何のご用かしら。隠居してお暇なのはいいですけど、私はそこまで暇じゃ……って、あら? そちらは、グリード様と奥様ではありませんか?」
「相変わらず、年増は口が減らん。そんなんだから、行き遅れるんだろうに」
「まぁ! 生い先寂しい男鰥に言われたくないわね」
「ふん! それこそ、生涯独身のお前に言われたくないわ」
互いに、口先だけは攻撃的だけど。様子を見ている限り、攻撃力があるのは言葉だけっぽい。
(おぉ、おぉ……これはこれで、お熱いこって)
憎まれ口もそこそこに。手元の包みを差し出しながら、簡単なあらましと俺達のことを説明するホーテンさんに……疑いもなく包みを受け取っては、興味津々と目を輝かせるカトレアさん。さっきまでの、険悪な雰囲気はどこへやら。カトレアさんはホーテンさんの言うことを疑いもせず、「俺達の事情」までもすんなりと飲み込んでみせる。
「まぁ……そうだったのですか。私はてっきり、旦那様は精霊落ちなのだと思っていましたが……」
「別に、そっちでもいいし。オイタをするつもりはないから、そこは安心してくれて構わないよ。だけど……うん。これからもよしなにお付き合いいただけると、嬉しいな。……特に、嫁さんのご機嫌を保つ意味でも」
だって……ホラ。嫁さん、もうショーウィンドウのドレスを試着してるし。今日のドレスは鮮やかな萌黄色をしていて、形はシンプルだが全体がレースで覆われている。裏地がついているのはいいけれど、相当にピッタリ目な作りをしているせいか……嫁さんのダイナマイトボディがハッキリと主張しているもんだから、妙に目のやり場に困る。
「あなた! どうかしら?」
「……悪いが、そいつは却下だ。他のにしておけ」
「えっ……そ、そう……。もしかして、似合わないのかしら……」
「そうじゃない。……似合いすぎてて、色々と心配しなければならないだろ、それ。……もうちょい、ゆったり目のものを選んでくれよ」
俺が言わんとしていることを、きちんと理解したらしい。リッテルのしょんぼり顔が、パァッと明るくなる。しかも、めげずに他の候補をお願いしているのを見るに……今回も色々と買い込むパターンだな、これは。
「……ったく。まーた、服を増やすつもりかよ……」
「仕方ないでしゅよ、パパ。ママはとっても美人で、スタイル抜群でしゅもの。お洋服を着るのが、楽しいのでしゅ」
「ママがおしゃれなの、いいと思うです!」
「ハイハイ、そうだな。折角だから、お前らも服を選んどけよ。子供のサイズだったら、ピッタリだろうし」
「いいのです?」
「構わん。……孤児院にもお邪魔する予定だし、ちょっとおめかししておいた方がいいだろ」
聞けば、ティデルは今、孤児院でお手伝いをしているとか、なんとか。そんな話もアーニャからあったもんだから、嫁さんの希望もあって……護衛の合間に、ティデルに会いに行こうって話になったんだけど。それとは別に、俺は俺で、シルヴィアの様子も気にかかる。
「ほぅ。マモン殿も孤児院に用事が……と、あぁ。そういう事か。あの孤児院こそが、噂の中心地だものな」
「まぁ、そーいう事です。知り合いが集まっている場所なもんだから、ちょいと挨拶に行きましょうって、事なんだけど。という事で……悪いんだけど、マダム。こいつらにも服を見繕ってやってくれる? 今のままじゃ、ちょいと見窄らしいし」
「もちろんですわ。喜んで、お見繕い致します」
しかし……本当にカーヴェラは退屈しないと同時に、懐もデカい街だよな。こうもアッサリと悪魔のお相手もしてくれるとなると、元々の素地もあったのかも知れないが……街の住人自体が柔軟だと思わざるを得ない。
(と、そうじゃないか。……最初の発見例が良かっただけだな、これは)
街の雰囲気も去ることながら……天使と一緒に降臨したのが、有名な「勇者悪魔」だったから、ここまで悪魔も平和に溶け込めたんだろうなと考え直す。最初に発見されたのが俺だったら、こんなに穏やかに纏まらなかっただろうな……きっと。悪魔としての実力はさておき。ハーヴェンは攻撃力(インパクトとも言う)があるのは、見た目だけだし。ここはお人好しな悪魔勇者様に感謝しておいた方が良さそうだ。




