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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第19章】荊冠を編む純白
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19−30 絶対に納得できない理由

「こんの、調子に乗るなよ……ッ!」


 尻尾だけで、何度も攻撃をやり過ごしてみたけれど。強面のお兄さん達は、ちっとも諦めようとしない。だけど、彼らの傲慢さには、妙な違和感があるというか。この人達がこんなにも横暴になるのには……何か、よっぽどの理由があるんだろうか。


「あの……お兄さん達。このお店の親方さんは、お店を譲ることを了承しているのですか?」

「あぁ⁉︎ そんなの関係ないだろう、お前には! ビル兄が買うって言ったら、その時点でルルシアナのモンなんだよ!」

「そうだ、そうだ!」

「……なんて、無茶苦茶な……」


 彼らの理屈では、ビルさん(陸奥刈穂さん?)が欲しいと言ったら、この街のものは全部ルルシアナの物になる……と言う事らしい。だけど、それはどう考えても、ただの横暴でしかなくて。……勝手にそんな事をしたら、お役所に怒られないんだろうか。


「ぼ、坊ちゃん。もう、いいですぜ……この店は今から、ルルシアナの物です」

「えっ? ……どういう事ですか、親方さん。だって、お店が理不尽に乗っ取られようとしているんですよ? だったら……」

「ルルシアナに逆らったら、この街ではやってけないんです。……ワシだって、家族が大切ですから」


 そうか。そういうこと、なんだ。

 この街ではお役所の言う事を守るよりも、ルルシアナの言う事を聞く事が優先されるんだ。例え、明確な決まりがなくても。……彼らに従っておかなければ、自分だけじゃなくて、家族も酷い目に遭わされる。だから、従うしかない……と言うことなんだろう。だけど……こんなにも絶対に納得できない理由で、どうしてお店まで諦めなきゃいけないのだろうか。


(……悔しいけど……今、ここで僕がこのお店を守っても……)


 だからと言って、僕が意地を張ってみてもその場凌ぎにしかならないし……このお店を守れたとしても、他のお店にも矛先が向くかも知れない。このまま大人しく引き下がるしか……ないんだろうか。


「しかし、よぅ……それだけじゃぁ、困るんだよなぁ? ねぇ、兄貴?」

「そうだなぁ。何せ、俺達のお仕事の邪魔をしたんだ。迷惑料はちゃんと貰わないと。だろう? 親方さんよ?」

「は、はい……?」


 だけど、お兄さん達はお店を奪い取っただけじゃ、満足しないみたいで……。形勢逆転とばかりに、ニヤニヤしながら僕の方を見ている。そして、明らかに卑怯で理不尽な要求を繰り広げてきた。


「こんなちっぽけなお店1つじゃぁ、とても足らんなぁ、迷惑料。だから、その坊主を寄越しな」

「は、はい?」

「ちょ、ちょっと待って下さいよ! この子はこの店には、関係ありません! 今日はたまたま、あっしを見送ってくれただけで……」

「うるせぇんだよ、いちいち! この街にあるモンは全部、ルルシアナのモンだ! 余所者だろうが、何だろうが関係ねぇ!」


 どうしよう。僕がいたせいで……更にややこしい事になっちゃったみたいだ。しかも、何故かヤジェフさんは僕を行かせまいと、一生懸命頼み込んでくれている。でも……。


「あぁ、じゃかぁしいッ! 職人みたいだから、助けてやろうと思ったのに……まぁ、いいか。……1人くらい、いなくなっても」

「へぇっ……?」


 こいつが何だか、分かるか……と、1番偉いらしいお兄さんが懐から黒光りしている何かを取り出して、ヤジェフおじさんに向け出した。もしかして、あれは……!


「こいつはなぁ……俺様の所で作った、拳銃でな。だけど、もうちっと性能を上げるには、細かい手作業が必要なんだよ。だから、お前らを取り立ててやろうと思ったのに。まぁ、いい。ルルシアナに逆らう奴がどうなるか……ここでキッチリ、教えてやるぜッ!」


 お兄さんの手元から、すかさず発砲音が木霊する。でも、脱皮を乗り越えたおかげか、以前よりも魔法の簡略化も上手にできるようになっているみたいだ。……咄嗟に発動した魔法はちょっと不完全な状態だけど。それでも、拳銃の弾を防ぐ事くらいはできる。


「その屈強なる大地の外皮を纏え、我が守護とせんッ! ガイアアーマー!」


 それにしても……あぁ、やっちゃった。いくら、精霊だと名乗っていたとは言え……魔法を街中で使うのはダメだって、言われていたのに。


「こ、こいつは……」

「魔法……か? すげぇ!」


 そうだよね。普通の人だったら、魔法を目の前で見るのは……きっと、初めてなんだろうな。ちょっと間抜けな感じで、お兄さん達が口々に「凄い、凄い」と興奮し出したけど。え〜と……この様子だと、ちょっと魔法を見せつければ諦めてもらえるのかな? だったら……!


「……今のは防御魔法ですけど、次は攻撃魔法をお見舞いしますよ。そんなちっぽけな拳銃程度で、僕に勝てると思わないでください」

「攻撃魔法……?」

「兄貴……なんか、不味くないっすか? このガキ、次は攻撃するって言ってますぜ?」

「く、くそッ……!」


 このまま脅せば、諦めてくれるかも。僕だって、無意味に連れて行かれるつもりはないし……何より、お兄さん達に「この街には自分達よりも強い相手がいる」と分かってもらえれば、横暴な真似も減るかもしれない。


「……お前達。何をそんなにグズグズしているのです。……ビル様が首を長くして、お待ちだと言うのに……」

「ヨ、ヨフィの姐さん!」

「いや、その……このガキが俺達の邪魔をしまして!」

「子供……? あら、なんて事でしょうね。……こんなところに、生粋の精霊がいるなんて。しかも……あなた、竜族かしら? ……珍しい鱗の色ね」


 だけど、僕ができるだけ穏便に(手段はちょっと乱暴だけど)済ませようと考えているところに、彼らが言っていたヨフィさんがやってくる。きっと、お兄さん達の帰りが遅いから心配して様子を見に来たのかも知れない。そんなヨフィさんは僕のことをどこか嬉しそうに見つめながら……見た目は綺麗で穏やかなのに、底知れずゾッとするような笑顔をし始めた。


(なんだろう……このお姉さん、普通じゃない気がする……!)


「姐さん、どうしますかい? あいつ、タダの精霊落ちじゃないみたいで……」

「でしょうね。これだけの魔力を感じさせる時点で、現役の精霊であることは間違い無いでしょう。しかも……相当上位の竜族だと思われます。……仕方ありませんね。ここは一旦、引きましょうか。あぁ、ですけど……ゲルハルト」

「は、はいッ!」

「鍛冶屋の買収は済んだのですか? まさか、店先で暴れてコトをし損じたとは、言わせませんよ?」

「あっ、その……えぇと……」


 とっても冷静なヨフィさんの鋭い指摘を受けて、1番偉そうに見えたゲルハルトさんが慌て始めた。明らかにゲルハルトさんの方がヨフィさんよりも大きくて強そうに見えるのに、どうしてここまで慌てて……。


(いや、違う。ゲルハルトさんは慌てているんじゃない。……怯えているんだ)


 しどろもどろでオドオドと言い訳を並べるゲルハルトさんのお話を聞いて、最後にヨフィさんが「では、仕方ありませんね」と温和な様子で彼さえも許したように見えたけど。でも……きっと、そうじゃない。ヨフィさんは多分、ゲルハルトさんを許していない気がする。


(大丈夫かな……。ゲルハルトさん、酷い事をされないといいのだけど……)


 ヤジェフおじさんのお店を守れたことにホッとする以上に、ヨフィさんの得体の知れなさに震えが止まらない。それに……何となく、だけれど。まだ、これで終わりじゃない気がする。この街で……一体、何が起ころうとしているのだろう。

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