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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第19章】荊冠を編む純白
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19−15 身近な戦力

(リッテル、いるかしら? アーニャからのお願いは多分、届いていると思うけど……)


 今日はお医者様の仕事はないし……と、ザフィールは久々に神界に戻ってきていた。もちろん、神界に戻ってきたのは人間界側で非番だったからではない。アーニャの懸念事項に関して、彼女の契約主でもあるリッテルと打ち合わせをするためだ。


「リッテル、いる?」

「あら、ザフィ様。お久しぶりです」

「あはは、お久しぶり。こっちで会うのは、やっぱりなんだか緊張しちゃうわね」


 ザフィールが調和の大天使の部屋を訪れれば。調和部門に部門替えになった下級天使2名が、リッテルと一緒に書類の山相手に奮闘しているのが目に入る。どうやら、彼女達は何かと忙しいルシエルの代わりに、精霊のデータや、人間界の歴史データを整理しているらしい。


「ごめんなさいね、ジュエルにアリエル。ちょっと、ザフィール様とお話ししてもいいかしら?」

「もちろんいいですよ、リッテル」

「私達は気にせず、恋の噂話に悪魔さん達のお話にと、花を咲かせてください!」

「うふふ、ありがとう。では、お言葉に甘えて」


 同じ下級天使であるはずだが、調和部門ではリッテルの方が先輩。ジュエルとアリエルと呼ばれた2人の天使の快諾を得て、朗らかにザフィールにソファを勧めるリッテルだったが。一方のザフィールは彼女達の和気藹々とした雰囲気に、なるほどと唸る。


(……流石、ルシエル様は人を見る目もあるみたいね。この人選はきっと……)


 間違いなく、リッテルを守るためのものに違いない。きっと、ルシエルは本人が不在であろうともリッテルに「嫌な思いをさせないため」に、生前の年代が近い同階級の相手を選んだのだろう。

 それでなくても、リッテルは「塔」をダウンさせたペナルティにより、永久に昇進のチャンスも捥がれた最下級天使。神界では常時最下位という、非常に弱い立場にある。だからこそ、調和の大天使は要員本人の気概や能力以上に、リッテルとの相性を最優先に考慮したのだ。自身も「恥さらし」と呼ばれて、神界で辛い思いをしてきた経験を下敷きにして……リッテルを素直に「調和部門の先輩」として接する人員を選り抜いてみせた。


 今でこそ、神界の序列も相当に柔和になっているが。未だに、天使が真っ先に階級を気にする傾向は根強く残っている。しかも、リッテルは何かと嫉妬の対象になり易い。絶世の美女と名高い美貌に、魔界最強と謳われる真祖の旦那様。下級天使の身には余る、明らかな「厚遇」に……ホットな噂の油タネにされるのは、火を見るより明らかだ。


(ここは、いよっ! ルシエル様、憎いねぇ! って、言うべきかしら。まぁ、浮つき加減はちょっと微妙だけど。……この程度だったら、ミシェル様に比べれば可愛いものでしょうし)


 そうして、今度は自身が所属している転生部門の大天使を想像しては、ハハと乾いた笑いを溢さずにはいられないザフィール。そんな彼女の向かい側に、リッテルがちょっぴり不安そうな様子で腰掛けるが……彼女の表情からしても、ザフィールのご用向きもある程度、予想できていると見て良さそうだ。


「ところで、ザフィ様。もしかして、ご用件って……」

「その様子だと、連絡も行ってそうね。本格的にジャーノンさんが持ち込んだ心配事を、警戒しなければならなくなったみたい。アーニャの話だと、ジャーノンさんが遭遇したのは例の刀……陸奥刈穂である可能性が高いのよ」


 だが、ジャーノンは主人思いでありながらも、一切合切を主人に喋る程に軽率な人物でもなかった。自身はそれこそ彼の主人……ドン・ホーテンの命令でリルグへ「定期視察」に行かなければならない。だが、かつての古巣が「訳の分からない魔法道具」に占領されているなんて白状したら、タダの人間でしかないホーテンを大いに不安にさせ、心配させるだけだろう。なので、ジャーノンは自分の留守中にどうやってホーテンを守ろうかと考えた結果……恋人であり、最も身近な戦力を頼ることにしたのだ。


「そう、でしたか。でしたら……ここはやっぱり、主人にも相談しようと思います。ホーテンさんとは私達も顔見知りですし、それに……」

「それに?」

「うふふ。彼ならきっと、ソフトに実情を明かしつつ、上手に説明してくれると思います。主人はとっても頭がいいもので。私ができないこともすんなりできてしまいますし、頭を使う事も任せるに限ります」

「あっ、そうなるんだ。……なるほどねぇ……」


 リッテルがマモンをしっかりと「主人」と呼んでいることに、ジュエルとアリエルが小さく「きゃー」と言っては、顔を抑えているが。一方のザフィールはリッテルのいい意味での「狡猾さ」に、内心で舌を巻いていた。

 おそらく、リッテルは自分が「あまり賢くない」事を自覚しているのだろう。軽はずみに上位者の精霊に対して「契約替え」を申し出たのも、然り。腹いせに「塔」をダウンさせたのも、然り。これらの失態は、想像力と判断力とが足りないが故の愚行でしかない。だが、今のリッテルはただのお馬鹿さんでもなかった。失敗を経て、分からないことや出来ないことは、誰かを頼る柔軟さも獲得している。そして……。


(リッテルに可愛く「お願い」って頼まれたら、まぁまぁ……大抵の男は断れないわな)


 それを抜きにしても、マモンはリッテルにとにかく甘い。彼女のお願いであればすんなり聞いてくれるし、多少のワガママも受け入れている様子。聞いたところによれば、魔界でも「お嫁さんの尻に敷かれている」と、散々な言われようらしい。常々その調子なら、今回もリッテル経由で強欲の真祖様のご協力を得られそうだと……ザフィールはリッテルの色良い返事以上に、マモンの身の上にちょっと同情しては、やっぱり乾いた笑いを漏らしてしまうのだった。

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