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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第19章】荊冠を編む純白
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19−10 機神族の標準(+番外編「冥王様の威厳」)

「あぁ、そうそう。私の方からも、報告と言うか……情報共有がある。まぁ、ルシエルの話にもそれとなく、関連する内容があったな。昨日はベルゼブブと一緒に、例のラボ調査をしてきたのだ。既にもぬけの殻だったが、設備や機器はかなり残っていて……相当に活用し甲斐がありそうだと、ベルゼブブも張り切っていた」

「……ベルゼブブ様が、ですか?」


 ウリエルが「向こう側のメンバーから見捨てられた」と落ち込んでいたのは、ラボが神界側に制圧されていたから、という背景もあってのことだった。しかし、神界側の調査に参加していたとは言え……何故、魔界の大悪魔が張り切る結果になるんだ? これは……あれだろうか? お嫁さんのために頑張ってみようという、旦那心が働いた結果だろうか?


「ベルゼブブは魔法道具を作るのが得意だと、話したことがあったかと思うが……どうも、あいつは他人が作ったものにも興味が湧くみたいでな。残された設備を使って、料理を自動提供する魔法道具が作れないかと、模索することにしたらしい」

「はい?」


 更に続く、ルシフェル様の説明によると。ベルゼブブはハーヴェンの料理の材料が神界持ちであることを判断材料とし、神界側とラボに残された設備を魔力経路で繋いで……材料供給から料理の調理までを、自動で完結させる魔法道具を開発するつもりなのだと言う。そして……。


「……奴の計画では、ゆくゆくは害のない悪魔を人間界に移住させ、こちら側で暮らせるようにしたいとのことだった。なんでも、魔界というのは、不自由な上に窮屈らしくてな。……特にベルゼブブも含め、暴食の悪魔は魔界で欲望を満たすのは少々、難しい部分がある。だから、悪さをしないことと、天使との契約とを最低条件として……まずは手始めに、ラボを拠点にして悪魔達の生活圏を整えたいのだそうだ」


 どうやら、ベルゼブブの心意気は旦那心ではなく、親玉心によるものらしい。そう言えば、ハーヴェンも言っていたっけ。……魔界は材料の流通ルートがないから、料理1つ満足にできなかった、と。そして、そんな不自由を生んだのは、神界側の誤解によるものが大きい。で、あれば……。


「私はその案に賛成です。彼らに窮屈な思いをさせてきたのは、我々でしょうし……きちんと条件が満たされるのであれば、問題ないかと」

「うん、ボクも賛成。魔界観光もいいけど、やっぱ人間界の方がお出かけしやすいもんね。互いに開放的な気分でお喋りした方が、愛を深められると思いまーす」

「……ルシエルはともかく、相変わらずミシェルは目的がズレている気がするが……まぁ、いい。ラミュエルとオーディエルも、異存ないか?」

「異存ありません。私も是非に、ベルゼブブ様の計画を進めていただきたいと思います」

「もちろん、私も賛成です。今までの分も含めて、悪魔さん達にもしっかりと自由を満喫してほしいです」

「そうか。“大天使3人”の総意ともあれば、問題ないな」

「って、ちょっと! なんか1人、数えそびれているじゃないですか、それ! ボクだって真面目に考えた結果ですよ? 別に旦那様ゲットの確率が上がるとか、邪な事は考えていませんって」

「……」


 ご自分でそこまで言ってしまったら、バレバレだと思いますよ、ミシェル様。とは言え、ミシェル様の目的はともかく……人間界の方が交流しやすいのは、間違いないだろう。

 「余程のこと」をしない限り、天使は瘴気に対する耐性を獲得できない。魔界訪問も結局のところ、限られた時間の中で、限られた場所でしかできなかったのだから、交流が十分にできていたとも言い難い。最終目標のラボ調査はなんだかんだで、終息を迎えつつあるが……人間界には、瘴気溜まりになっている場所がまだまだ残っている。彼らにはそちらの調査もお願いするかも知れないし、これを機に人間界の受け入れ拠点を作るのも悪くない。


「大まかな話はこのくらい……か。リルグに関しては、リヴィエルの報告を待つことにしようぞ。では……オーディエルにラミュエル。気をつけて行ってこい。そして、必ず無事に帰還せよ」

「ハッ。お任せください」

「……行って参ります、天使長様。それと……お待たせしてごめんなさいね、ヴァルプスちゃん。早速だけど、ローレライまでの案内をお願いできるかしら?」

「問題ございません、マスター。ターゲットの位置情報フィックスと、飛行に必要な魔力サプライは完了しております。飛行速度の設定はいかが致しますか? 標準モード:マッハ0.8でよろしいでしょうか? そちらの速度であれば、基準となる”塔”のポイントから、36分で目的地に到着できます」


 マッハ0.8? えぇと、それを……時速に換算すると、約860キロと言ったところか? 確か……あぁ、あったあった。精霊帳のページを捲れば、機神族の上級精霊・デュランダルの項目に飛行速度の記載がある。そして、そのデュランダルの飛行速度がまさに、マッハ0.8とされているが。……これは天使にはどう頑張っても、ついていけない速度だろう。何せ……。


「ヴァルプス、マッハ0.8は機神族の最高速度だったかと。天使はその速度で飛ぶことはできませんよ。我々の飛行速度は時速で約70キロ程……そうですね、喩えるなら鳩と同じくらいの速度なのです」

「そうなのですね、ルシエル様。では……仕方ありません。速度は超低速モード:マッハ0.05に設定します」


 超低速モードと言われてしまうと、申し訳ない限りだが。こちらは背中の翼を一生懸命動かすしかできないので、それが精一杯だ。おそらく、その速度について行くことができるのは、竜神・バハムートくらいなものだろう。それ以前に……機神族の標準が音速の時点で、色々とおかしい気がする。


「本当にごめんね、ヴァルプスちゃん……」

「いいえ、大丈夫です、マスター。調査の了承をいただいただけでも、とりあえずは十分です。余剰メモリ領域で収集アプリケーションを起動し、魔力データ累積・解析システムも並行稼働します」


 とりあえずは十分……か。彼女の言葉尻に不穏な空気を感じつつ、ヴァルプスと一緒にローレライへ向かう2人の大天使の背中を見送るが……。彼女達の道中に大きなトラブルがないことを、ただただ祈るのみだ。

【番外編「冥王様の威厳」】


(こんなもん……かなぁ?)


 変な方向にノリノリなリッテルのご要望で、裸の美人画を描いておりますが。色を塗ると、これまた妙に生々しい感じが上乗せされた気がして、自分の絵なのに恥ずかしい。


「パパ、上手ですよぅ!」

「いや〜ん! アチシもパパにセクシーに描いてほしいでしゅ!」

「……そのうち、お前らも描いてやるから。とにかく、今は大人しくしていてくれよ……」

「ほぉ……なかなかにいいではないか、マモン。その絵が出来上がったら、私に寄越すのだ」

「ハイハイ……って、あ? こんな所で何してんだよ、クソ親父……」


 クソガキ共に混じって、魔界の冥王様も知れっと意見をしてくるが。どうも、こいつはこの間の事をまだ懲りていないらしい。なんで、ナチュラルに俺の家に上がり込んでいるんだよ。


「……お前さんがやらかしたこと、もう忘れたのか? あ? それとも、何か? また嫁さんにちょっかい出すつもりじゃねーだろうな?」

「何を言う! 魔界は私のものぞ! 故に、そこに暮らすものは、全て私のものだ! 観念してリッテル嬢を譲らんか」

「だっからさ〜……リッテルはモノじゃねーっつの。譲る、譲らないベースで話をするなし。まぁ、いいか。そう言う事なら……俺とサシで勝負する? 万が一お前さんが勝てたら、リッテルの返事次第ではそれでもいいぞ?」

「な、何っ⁉︎ マモン、それ……本気か?」

「うん、本気も本気。好きな相手がいたら、誠心誠意アピール。天使様相手に、“魔界式・力ずくで奪う”は通用しねーぞ。だが、俺も最初っからお前に交渉させる気はないから、まずは勝負しましょう、ってトコだな。ほれ、どうするんだ? 言っとくが……」

「ママはここで一緒に暮らすです!」

「お前なんかに、渡さないですよぅ!」


 俺が「手加減するつもりはない」と言いかけたところで、果敢にもクソガキ共が冥王様に噛みついてくれちゃったりする。おぉ、おぉ。お前ら、相手が誰か分かっているのか? 恐れ多くも、魔界を支配している(らしい)色ボケクソ親父ですよ〜?


「アダダダダッ! や、やめんか! お前達! 我こそは恐れ多い……」

「このド腐れ龍神!」

「変態! もう、2度と来るなでしゅ!」

「ド腐れ龍神に……変態⁉︎ それは誰の事を申しているのだ⁉︎」

「……お前しかいねーだろ、この場合」

「マモン! そんなことを言っていないで……だ、だから! やめろ! アァッ! そこ、弱いの……」

「……」


 結局、「覚えておれ!」と在り来たりな捨て台詞を吐きつつ、小悪魔4人の波状攻撃に情けなく退散していくクソ親父。……冥王様の威厳、ペラペラ過ぎるにも程がありやしませんか……? スケッチブックの画用紙よりも薄そうだぞ、これは。


「とにかく……お前ら、よくやったぞ。ご褒美にコーヒーとおやつをやろうな。ちょっと待ってろ」

「はいです!」

「パパ! おいら達がいれば、安心なのです!」

「……そうだな」


 しっかし、ヨルムンガルドって……本当に魔界の王なんだろうか……?


(ここまで弱いとなると、ある意味で情けないんだが……。冥王様なら冥王様らしく、実力と威厳は標準装備しておいてくれよ……)


 そもそも、俺はあいつから生まれたんだよな? それがこのザマじゃ……とっても切ないんですけど。

 ……本当に……本当に、ありがとうございました……。

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