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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第19章】荊冠を編む純白
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19−4 怒りのエッセンス

 ギノの問いに対して、責任を果たさねばと……教皇様がしっかりと「向こう側で起こったこと」を話してくれるけれど。だけど、それなりに覚悟を決めたつもりでいたとは言え、これはどう頑張っても信じるのが難しい内容だ。ミカさんが語ったプランシーの事実は想像以上に闇が深すぎて、どこをどう落とし込めばいいのか、見当さえつけられない。まさか、あのプランシーが……子供達をその手にかけていたなんて。


「私が聞かされた限りでは……プランシーが悪魔になった本当の原動力は、子供達に対する怒りだったようだな。まぁ、ハインリヒが唆した部分もあったのだろうが。寄越された手紙の内容からしても、彼が孤児院での生活にも役目にも……苦しんでいたことは、1つの事実だろう」


 ミカさんが受け取った手紙には、純粋に生活が苦しいことだけではなく、どうして神は恵まれない彼らに手を差し伸べないのだろうかという、信仰に対する疑念も書かれていたらしい。そして、このまま苦しい毎日が続けば……自分は神さえも信じられなくなってしまうと、苦しげな様子も記されていたそうだ。だけど……実験台を求めていた彼らにしてみれば、非常に「美味しい条件」をプランシーは意図せず示してもいた。

 悪魔を生み出す実験をしようとするならば、対象者が有り余る苦悩を抱えている必要があるし、神様を信じていないか、恨んでいることは大前提だ。だからこそ、ミカさんや向こう側の皆さんは……プランシーを実験台にすることを躊躇なく決めたらしい。しかも、孤児院ともなれば「精霊にするための材料」もおまけで付いてくるのだから……無慈悲なほどに、願ったり叶ったりだったのだろう。


「……こんな事を言ったら、更に怒られてしまうのだろうがな。……当時の我らにしてみれば、お前達の孤児院は丸ごと、利用価値のある材料に思えてならなかったのだよ。悪魔を作ろうにも、精霊を作ろうにも……魔禍を利用するためには、対象の心に不安がある方が都合がいい。何せ、奴らは痛みや苦しみに強く反応するのだからな。手紙を受け取った瞬間、お前達は使えると……興奮したことを、今でも鮮明に覚えているよ」


 スープをグイッと飲み干しながら、さも当然のように乾いた口調で残酷なことを白状するミカさん。その一方で……ギノの方は怒る以上に、疲れ切った様子で諦めたように首を振っている。


「……ギノ、大丈夫か……?」

「は、はい……大丈夫、です……。僕、今度も何も気づけていませんでした……。神父様が、そんなに思い詰めていたなんて……! 僕が、きちんと気づけていたのなら……」


 ……大丈夫じゃないだろうな、これは。この子の自分を必要以上に責めちまう性分は、相変わらずらしい。ロジェの時も「何も気付いてあげられなかった」と、後悔の涙を流していたけれど。今回も真っ先に「どうして何も気づけなかったのだろう」と嘆いては、自責の涙を流している。目の前に、彼らの不幸を担った相手がいるというのに。彼女を責める前に、自分を責め立ててしまうのだから……少なくとも、今のギノには気持ちの整理をする時間がタップリと必要だろう。


「しかし……どうして、神父様は子供達を殺したりしたのでしょうか? あんなにも優しくて、あんなにも真面目な神父様が……」

「あぃ……信じられないでヤンす……。だって、神父様はみんなのために一生懸命、働いてましたよ? そんな事をしておいて平気でいられるなんて、無理でヤンすよ」

「だよなぁ。孤児院でもあんなに楽しそうに、みんなに勉強を教えていたし……」


 巻き込まれる形で、一緒に話を聞いていたモフモフズも信じられないとばかりに、首を傾げている。だけど……俺はなんとなくだが、プランシーが「平気でいられた理由」が分かってしまうのが、却って辛い。おそらくだが、俺達が知っていた側のプランシーは、闇堕ちの時に辛い記憶そのものを封印されるのではなく、切り離した状態で悪魔になったんだろう。

 最初に俺が対峙した時は、ただただ本性側で暴れるだけの存在だったが。ルシエルと契約してからは、憤怒の悪魔にしては不自然なくらいに穏やかだった。だけど……その辛い記憶と一緒に、怒りさえももう片方のプランシーに預けていただけだったのなら……彼が平然と温厚でいられたのも、筋が通る。

 きっと、分離された記憶に対しての「思い出が抜けている」違和感もあまりなかったのだろう。「思い出すべきことがある」焦燥感はあったのかも知れないが……ノーカウント扱いになっている記憶にまで神経が回る程、悪魔は繊細な作りはしていない。……自分の欲望を満たすことを優先するのであれば、辛い記憶や体験は「そもそもない方がいい」ものなのだから。


(だけど……今のプランシーは1人に戻っちまっている。だとすると……)


 プランシーは最期の記憶もきっちりと思い出し、追憶越えをせずとも、ある程度の力を取り戻している。本来であれば、悪魔が本当の力を取り戻すには「追憶の試練」を達成して、全ての記憶を補完する必要があるが……。だけど、今のプランシーは記憶を補完するまでもなく、預けていただけの記憶を「1人に戻る」事で取り戻していた。様子を見ている限り、互いに馴染むのにもちょいと時間がかかりそうだったけど。ミカさんの話からしても、向こう側の記憶こそがプランシーの「悪魔らしさ」を担保していた要因になるのは、間違いない。……理由は簡単。プランシーは憤怒の悪魔だ。そして、向こう側の記憶に怒りのエッセンスを忍ばせていたのだから、俺達が知っている方のプランシー側は紛れもなく、いい意味で「出来損ないの悪魔」だったということになるんだろう。

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