表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第18章】取り合うその手に花束を
824/1100

18−53 大天使様のお怒りポイント

 ハミュエルさんの影からおずおずと歩み出て来たのは、幼い姿ながらも、禍々しさもしっかり残した生意気な顔立ちの教皇様。そして、こいつは俺と嫁さんの仲(契約)に割って入ろうとした憎たらしい堕天使様でもある。しかし、俺も腹に積もるものがあったとは言え……嫁さんのお怒り加減が非常によろしくない。……この後の顛末を考えると、不満やら鬱積やらをぶちまける前に、この場から全力で逃げてしまいたい。


「やっぱり……お前がハミュエル様を利用していたんだな……」

「……」


 ドスの効いた声に、逆立った羽。うん、間違いない。こいつは、嫁さん的にはハイレベルのお怒り加減だな。しかし、ルシエルさん。お願いだから、ベストと一緒に脇腹も握り締めないで欲しいんだ。いい加減、痛いんだけど、それ。


「利用して、何が悪い。新しい世界を作る為に、利用できるものは全て利用する。我らにはその権利が……あぁ、いや。もう、やめようか。……いい、分かっている。私とて……ここまで落ちぶれたら、イヤでも身の程を知るというものだ。……どうせ、姉上から情報も行っているのだろう?」

「……そう、だな。お前がウリエルで間違いないか?」

「そうか。……知っておるのだな。私がかつて、どんな存在だったかを。そして、無様に叩き落とされた事も……知っておるのだな」


 今日は随分と、しおらしいじゃないの。嫁さんの必要以上に冷たい声色が、気になるけれども。彼女の威嚇混じりの問いにさえも素直に答えては、肩を落とすミカ様を見つめれば。俺の方はもう、怒る気にもなれない。


 それでなくても、ウリエルと言えば……マモンに魔力の器を強制停止されて、相当に苦労したらしいことも聞かされている。俺もサラッとルシエルから聞いただけだから、細かい経緯はよく知らないが。あの真面目バージョンのマモンを怒らせるような事をしたのが、悪いのだろうと勝手に思っていたりする。それでも……魔法を使えないペナルティは天使だった奴にしてみれば、重すぎるにも程がある。

 それにしても、こいつが妙にマモンを怖がっていたのには、そんな事情があったからなんだな。俺の指輪の呪いを勝手にマモンが作ったものだと勘違いしたのも、魔力の器を強制停止させられたトラウマがあったからなんだろう。


「なるほど。……お前はかつての大天使だったのか、名もなき堕天使よ」

「そういう事だ、ハミュエル。と、言っても……とある魔法の影響で、瑣末な記憶はほとんど失っておるがな。……残っている記憶と言えば、強欲の悪魔に負けたことと、天使長・ルシフェルに粛清されたこと。それと……生前に出会った悪魔の口車に乗ったこと、くらいか。……ハッ。自分で申していても、馬鹿馬鹿し過ぎて反吐が出そうだ。……最強の大天使・ウリエルは今や、落ちぶれに落ちぶれて、霊樹の餌にされるのが関の山。……これのどこに、かつてこの手にあった栄光を見つけられようぞ」


 ……何だろうな。こいつは随分と、精神的に追い込まれているな。ラボとやらで出会った時はまだまだ、小憎たらしい感じも残していたもんだから、嘘までついて怖がらせたりもしたけど。今となっては……ちょっと、可哀想なことをしちまったかも知れない。


「最初からそんな栄光なんて、ありはしない。天使は絶対に正しい存在でも、正義の象徴でもない。……今のお前の状況は、自分自身の勘違いの結果によるものだ。……同情の余地もないな。それに……」

「それに……? それに何だと申すのだ、貧相な天使よ。別に、お前なんぞに同情されなくとも、結構だ。どうせ、お前の言い分など下ら……」

「ふざけるなッ! 僅かな間とは言え……私からハーヴェンの契約を奪っておいて、下らないなどと、どの口が申すのだ! ま、まぁ……私はハーヴェンを信じていたし、お前なんぞに奪われる程、私達の契約は軽々しくもないけどなっ!」

「……うん?」


 すみません、ルシエルさん。もしかして……調和の大天使様のお怒りポイント、そこですか? ハミュエルさんを利用していた事ではなく? 俺との契約を上書きした事に、そんなに怒っていらっしゃるの? なのですけど、その……。


「……そう言ってくれるのは嬉しいけど、ルシエル。……ちょっとその右手、離してくれない? ……ベストと一緒に、肉も握り締められると、かなり痛い」

「これが握り締めずにいられるか⁉︎ ハーヴェンの事はこの先、絶対に離さないんだから!」


 ウリエル相手に小さな体で精一杯威嚇して、今度は俺の胴体に抱きついては締め技をキメてくる嫁さん。しかし……毎度毎度、思うんだけど。その馬鹿力、どこから捻出しているんだよ! 俺、このままじゃ悶え死んじゃう! 物理的にも死んじゃうって‼︎


「ふふふ……アッハハハハ! そうか、そうか。それでは、ウリエルはルシエルに謝らねばならんな。……精霊との大切な契約を奪おうとするのは、何よりもやってはならぬ事だ。ふふ……それにしても、ルシエルの口からそんなにも情熱的な言葉が聞けるとは、思いもせなんだ。……この姿になってでも、生き延びた甲斐があったというもの」

「あら、マスター。ルシエル様は秘めたる情熱を、しっかりとお持ちの大天使様なのですよ? ハーヴェン様から合図を頂いた時には確か、“私もあなたが……”」

「わぁっ! わぁッ! それ以上は言わなくていいです、竜女帝様ッ! あのセリフは今すぐに忘れてください! 金輪際、永久にッ!」


 ……あのセリフって、多分、指輪トラップのアレだよな。そう言や、シチュエーション的に竜女帝様もフルバージョンでご存知だったっけ。そうして真っ赤なお顔を手で覆い始めた、ルシエルさんの締め技から解放されたのはいいけれど。……お次は恥ずかしさで、俺自身も悶えるしかないのが結構、切ない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ