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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第18章】取り合うその手に花束を
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18−42 有効な一手(+番外編「グリグリ冥王様」)

 神界では調べ物をしていただけだというのに。こちらに帰る頃には、薄情な太陽はとっくに沈み切った後なのだから、兎角、恨めしい。そんな太陽の冷めた態度を穴埋めするように、出迎えから夕食の支度をしてくれるハーヴェンのこの有り難みたるや。心も目頭も熱くなってしまうじゃないか。

 今夜のメニューはトマトとチキンのラザニアに、白インゲンのポタージュ。付け合わせはカブとピーナッツのサラダに、イカのオレンジマリネ。そして、メインはブラウンマッシュルームの肉詰め(クランベリーソース)。うん、食卓にピーマンはいない……と思っていたが。さりげなく、スープに憎っくき緑色のテカテカが紛れ込んでいた。


(この、ピーマン男……! どうして、仕入れてまでピーマンを入れてくるんだろう……?)


 不慮のピーマン出現に、ちょっと気落ちしてしまうけれど。それでも相変わらず美味しすぎる食事を噛み締めながら、ハーヴェンに神界で調べてきたことと、気がかりなことを相談する。そうして、事実確認も兼ねて竜界に行く予定だから、一緒に来て欲しいとお願いしてみる。


「そか。明日は竜界にお出かけ、か」

「うん……私はそのつもりでいるのだけど、ハーヴェンも一緒に来れそう?」


 正直なところ、今回の用事にはハーヴェンに一緒に来てもらう主だった理由はない。だが、ハーヴェンは紛れもなくシェルデンの特異転生体なのだ。竜族から人間へ転生し、更に悪魔に闇堕ちしたという複雑な変遷はあるものの、彼の魂はシェルデンという存在だった時期がある。であれば、互いに「初対面」だったとしても、竜女帝にはご挨拶くらいはしておいても、バチは当たらないだろう。それに……。


「ハーヴェンはハミュエル様がいる場所へのアンカー、持っていたよね? 場合によっては……」

「竜女帝様とハミュエルさんを会わせてやる事もできるかも、だな?」


 もちろん、それもある。今更会わせてみたところで、何になると言われてしまいそうだが。しかし、あの白い空間を作り出した竜女帝であれば……ハミュエル様を解放してくれるかもと、私は身勝手にも考えていた。


《こんな私でも、どうしても捨ておけぬ相手がいてな。……彼女の最後を見届けるまで、私はここで静かに過ごすとしよう》


 いつかの邂逅の時に、ハミュエル様には見守りたい相手がいるらしいことは知らされていたが。それが誰なのかは、私には確かめようもない。しかし、ハミュエル様の言い草からしても、何となくだが……デュプリケイトガイアの空間に出入りしている相手だろうことは、それとなく予想ができるというもの。そうして、ティデルが言っていたことも思い出しながら……漠然としているが、その相手こそが「ミカ様」とやらなのではないかと、思い当たる。

 それでなくても、「人工エーテル溶剤」……「霊樹の栄養剤を作るための水溶液」には、ハミュエル様由来の原料が使われているところまでは、分かっている。ティデルはそれを「魔禍の上澄」、延いては「魔禍の大元の煤を混ぜ込んでできるもの」なのだと話してくれたが。現代の魔禍の大元がシェルデン……つまり今のハミュエル様である以上、大元自体を彼女達から引き剥がすのも、有効な一手になり得る。


《人体を内部から少しずつ溶かすと同時に、溶かした部分に穴埋めするかのように魔力を定着させる物》

《そんな事をされれば対象は大暴れすると思われますので、その暴走を抑制するために麻薬・レッドシナモンを併用している》


 キュリエルの報告にも、人工エーテル溶剤についての話があったが。人工エーテル溶剤の根源でもあるハミュエル様を、向こうから引き離すことで……彼らの残酷な所業そのものを、妨害できるだろうと私は考えていた。そうすれば、苦痛を紛らわせるためにレッドシナモン漬けにされる者も、そのレッドシナモンの苗床にされて苦しむ者もなくせるかも知れない。


「それでね、コンラッドの居場所も確認してきたのだけど……コンラッドは今、ヴァンダートにいるみたいだ」

「ヴァンダート、か。これまた、随分と遠いところに行ったもんだなぁ……」


 お茶を用意してくれながら顎に手をやり、ちょっぴり怪訝そうに首を傾げるハーヴェン。受け取った瞬間からいい香りをさせているお茶を口に含みながら、更にその場所で明らかに不自然な魔法が使われていた事を説明すれば。ハーヴェンの表情が、みるみるうちに本格的な怪訝顔になっていく。……きっと、彼もその魔法の存在に竜界行きの意図を悟ったのだろう。


「……なるほど。要するに、明日のメインは長老様に会いに行く事か」

「うん。そうなるかな。ほら、それでなくても少し前に関連する話が出てたでしょ?」

「あぁ、そうだったな。……ギルテンスターンさんはオズリックとして、向こう側でしっかりと活動していたかもしれないって話だったな」

「データの状況からしても……この魔法の主は、ギルテンスターンの可能性が高いんだ」


 そこまで吐き出して、やれやれとため息をついてしまう。それはハーヴェンも同じらしく、彼の怪訝な表情も保たれたままだ。……そう、だよな。ハーヴェンにも、よく分かるよな。ギルテンスターンの生存が長老様にとって、ただの感動の再会にはなり得ない事くらい。私の目的としては、ヴァンダートで使われた魔法の種類を特定することだけなのだが……複雑すぎる現実を前に、相談する前から気が滅入るものがある。


「……なんて、ここで考え込んでも仕方ないよな。ルシエルの話はしっかりと長老様に相談した方がいいと、俺も思う。その上でどうするかは、竜族側の決定次第だろう。さて……と。そろそろ、デザートの時間かな?」

「そう言えば、今日のデザートは何だろう……?」

「じゃーん! デザートはお待ちかね、ピーマンケーキです!」

「えっ……? ピ、ピーマンケーキ……?」


 いや、待て。断じてお待ちかねしてないぞ、そんなもの。

 ハーヴェンが自信満々に持ってきたのは、憎っくき緑のテカテカ色のデザート。ケーキも何も……見た目はまんま、ピーマンなんだが……?


「うぐっ……! 一生懸命、お仕事して……今日も頑張ったのに……! ご褒美がこれだなんて、あんまりじゃないか……! ハーヴェンのバカァッ! 悪魔ッ! そんでもって、ピーマン男ッ‼︎」

「もぅ〜、何を大人気ないこと言ってるの、ルシエルさんは。騙されたと思って、フォークを入れてみろよ。意外とイケるかも知れないぞ?」

「ピーマン味だなんて、悪夢以外のナニモノでもない……」


 そう言いつつも……仕方なしにフォークを入れてみれば、意外や意外。手元からは、サクッと軽やかな音がする。

 あれ? もしかして、この様子だと……。


「……まさか、ピーマンなのは見た目だけ……?」

「その通り! 中身はピスタチオと洋梨のムースだから、ピーマン味は絶対にしないぞ。ふっふっふ……どうどう? これだったら、ルシエルもピーマンを食べられるんじゃない?」

「お前はどうしても、私にピーマンを食べさせたいのか? そもそも、わざわざ見た目だけピーマンにする必要、ないんじゃないか……?」


 そうして恐る恐る口に運んでみれば、冗談抜きでピーマンなのは外側だけらしい。妙にリアルなテカテカは飴細工のようだが……なんで、こんな所に手間暇をかけているんだ? このピーマン男は。


「味は……うん、悪くない。というか、いつも通り美味しいけど……」

「けど?」

「こんな手の込んだ意地悪をしなくても、いいんじゃないか?」

「おぉ? そうか? ま、これもちょっとしたお遊びってことで。大丈夫さ。俺が手の込んだ意地悪をするのは、ルシエルにだけだから」

「大丈夫……って、何が大丈夫なんだ? それ。安心材料が何1つ、見つからないんだが……?」


 悔しいが、味だけは文句なく完璧なピーマンケーキを平げてしまうが……絶対に、納得なんかできっこない。それなのに、このハーヴェンの意地悪な笑顔ときたら。そんな顔をされたら、こっちは否応なしに膨れっ面をするしかないじゃないか。もぅ、仕方ないな。今は不貞腐れるのが先だ。この際……心配するのは、先送りにしてしまおう。

【番外編「グリグリ冥王様」】


「まっ、待て、待つのだ! マモン、早まるでない!」

「……テメー、この状況で言い逃れできると思ってんのか? あぁ⁉︎」


 情けなく俺の足元でプルプル震えているのは自称・魔界の冥王、ヨルムンガルド。

 一応、説明しておくと。非っ常〜に不本意だが、こいつは俺達大悪魔の生みの親であり、領分そのものの根源だったりする。

 で、そんな冥王様をどーしてもお仕置きせにゃならん事案が発生したので、今宵はヨルムツリーのお膝元にお邪魔してますよ、っと。


「人形相手に何をやってるんだよ! この、スットコドッコイの変態クソ親父がぁッ! 今日という今日は、許さねーぞ! 覚悟しろッ‼︎」

「マ、マモン! よせ、それ以上は……あぁぁぁぁ! ギブギブギブギブ、ギブなのだ! 頭が割れるッ‼︎」

「うっせぇ!」


 ……ハイハイ。今日も今日とて、よろしくない事をやらかした悪い子に、お仕置きを決行してますよ。頭かち割る勢いで、思う存分グリグリしてまーす。嫁さんのご意向もたっぷり、乗ってますよ〜。


「そんで……おい、ダイダロス」

「は、はい……ッ!」

「今後、リッテル人形は絶対に作らないと、誓え。この場で誓約書もキッチリ書いてもらうぞ」

「無論、マモン様の仰せのままに致しますので、何卒……」

「素直でよろしい。その素直さに免じて、お前さんは誓約書の調印だけで許してやるよ。……どーせ、このスットコドッコイに巻き込まれただけなんだろーし」

「おぉ! 何と、寛大な沙汰でございましょう……! 流石は真の魔王様!」


 真の魔王、ねぇ……。そんな妙な二つ名で持ち上げられても、気持ち悪いだけなんだけど。とは言え……本来の冥王様はお仕置き効果で戦闘不能だし。そう呼ばれるのも、仕方ないのか?

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