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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第18章】取り合うその手に花束を
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18−32 つまらない野望

 純白のレリーフを彩るのは、金色の翼を持つ天使達。神々しく舞い踊っているように見えて、彼女達の手にはきちんと思い思いの武器が握られている。そして、レリーフの一番上で翼を広げている天使こそ……かの始まりの大天使なのだと、諒解しては。まずまず、大天使というのは自己愛が強すぎると、ハインリヒもプランシーも嘆息してしまう。


「……何もここまで自分達を崇め立てなくても、いいでしょうに。これだから、天使というのは傲慢でいけませんね」

「全く以て、同感ですな。わざわざ、目立つ場所に自分自身を描かせなくてもと、思いますよ。しかし、このモチーフこそが、あの扉を懐柔するヒントになるのではないかと」

「でしょうね。……グラディウスを稼働させたのはミカエルでしょうし、彼女は神界を忌み嫌い、疎んでいました。なので、この場合はあのモチーフが示す鍵を連れてこいと言いたいのでしょう」


 プランシーの推測には、彼に対してやや否定的な気分を募らせていたハインリヒも同意せざるを得ない。ミカエルは天使でありながら、天使長・ルシフェルの後塵を拝する立場を強要され、最後の最後まで彼女を追い越すことのできなかった敗者である。そして、同じ敗者である同胞……つまり、他の始まりの大天使が揃うことに固執もしていた。

 しかし、彼女がかの大天使達を求めているのは、寂しいからでも、戦力を期待しているからでもない。彼女が心底求めているのは、自分を飾るための引き立て役だ。そして、同格の相手だからこそ自分の「凄さ」を知らしめられると思い込んでいる彼女にしてみれば……かつての大天使が4人揃うことこそが、つまらない野望でもあった。


「……まぁ、いいでしょう。彼女がお望みとあらば、1人だけ手元に残っていますし。彼女の方も神に呼ばれているとでも言ってやれば、僕達の足掛かりくらいにはなってくれるでしょう」


 陸奥刈穂が「逃がしてやって」から、姿をくらませ続けているが。ミカ……もとい、ウリエルもまた、神界から弾き出された敗者である。ウリエルにはフランツこそがミカエルだったとは伝えてもいないが、今度こそ「新しい世界」の一員になれると餌をぶら下げてやれば。きっと、情けなく尻尾を振ってエスコート役を買って出るに違いない。


「しかし、そのミカは今、行方知れずなんですよねぇ。……多分、また例の白い空間に閉じこもっているんでしょうけど。生憎と、僕はあの空間には入れないし……」

「……だったら、別に無理して城に入らなくてもいいんじゃないの? ……ハーヴェンの所に帰りたいよ」

「僕もタールカに同感。……どっち道、自分の力で入れないなんて、意味ないと思うし。……入る資格がないんだって、サッサと諦めればいいのに」

「うるさいですよ、ロジェにタールカ。生意気なことばっかり言っていると、あの棘の中に放り込んでやりますからね」

「ふ〜ん……だってさ、ロジェ。この人、まだそんな強がりを言っているけど……」

「……本当に、呆れちゃうよね。弱いクセに、威張ることしかできないんだもん」


 鎖で繋がれていようとも、2人のデミエレメントは完璧にハインリヒを舐めきっている様子。揃って「お手上げ」のポーズをして見せると、明らかな侮蔑の視線を投げてくる。しかも、いつもであれば「生意気な子供」が嫌いで、実力行使で彼らを黙らせていたはずのプランシーでさえも、彼らを嗜めないのを見るに……この場で「最弱」の立場に置かれているのは、ハインリヒその人らしい。そうして、意味ありげな目配せをするや否や、3人がかりでハインリヒを羽交い締めにしてくる。


「ちょ、ちょっと! 何をするのです! 離しなさいッ!」

「……分からないのですか? そんなにもあの城に入りたいのであれば、まずはあなたご自身の力で乗り越えてみたらどうなのです。正直なところ、私達にはそこまでの目的はありませんし」

「僕も神父様の言う通りだと思う。……だって、あそこに入りたがっているの、あんただけだし。だったら、自分1人でやればいいじゃん」

「そうそう。偉そうにしているだけの役立たずが笑っちゃうよ。そろそろ、1人でなんとかして見せたらどうなの?」

「なっ……⁉︎」


 突然の反駁と急激な離反。しかも、非常によろしくない事にハインリヒの「麻痺」は未だに回復していない。彼を陥れた魔法の構成には永久継続構築はなかったにせよ、相当の自動継続の構築は練り込まれていたのだろう。その上、ロゼクレードルの毒効果は本来、非常に強烈な神経毒の類だ。耐性が多少あったとしても、マジックディスペルで魔法耐性にも穴を開ける事ができると、ベルゼブブは見越してもいたし、強制的に自分の趣味に合わせた結果でもあった。


 ベルゼブブは享楽至上主義者であると同時に、意外にもサディスティックな部分がある。彼が面倒見の良さを発揮するのはあくまで配下や、仲のいい相手に限られ、それ以外の相手には苛烈な態度を取ることもしばしば。そして、気に入らない相手を一思いに屠るなんて、優しさは持ち合わせていない。

 常々お仕置きが大好きで、「情報通」の彼がダークラビリンスを選ばなかった理由は、純粋に「ハインリヒが苦しむ姿が見えなくなるから」……その一点に尽きる。叱責叱咤に責折檻は相手がいてこそ、面白い。ダークラビリンスを使ったら、ただただ迷宮で迷子になる魂を見つめられるだけで、実際に苦しんでいる様子は見えてこない。そして……ベルゼブブはハインリヒを真綿で絞め殺すように、魔法能力を弱体化させた上で、「お仕置き」を決行するつもりだったのだ。

 ただ、ベルゼブブ側に誤算があったとすれば。ハインリヒ……もとい、アケーディアに逃走に関する特殊能力があるのを、知らなかったという事くらいか。しかし……。


(クッ……! しかし、僕の能力は物理的な戒めを解くことはできない……!)


 そう、アケーディアの「絶対逃避」が力を発揮するには、対象の戒めが魔法由来であることが前提となる。魔法に依存しない緊縛……例えば、魔力消費を必要としない魔法道具や、物理的な束縛には効果を発揮できないのだ。故に、3人が仕掛けてきた集団攻撃は……非力なアケーディアには到底、振り切れるものではなかった。

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