18−19 病みつきにならない方がおかしい
意気消沈はしていても、きっちりとデザートを差し出してくれるのだから、本当に私は旦那様に恵まれている。まぁ、デザートの提供ついでに「機嫌直せよ」なんて言われるのはちょっぴり癪だけど。私の機嫌が悪いのは、食事を落ち着いて満喫できないからであって、元凶のエドワルドがやっぱり「嫌い」だからだと思う。とは言え、いつまでも不機嫌なままでいるのも大人気ない……か。仕方ない。ここはとりあえず、許してやろう。とりあえず、だけど。
「その様子だと、少しは落ち着いた感じなのかな。それにしても、ハーヴェンは本当に料理、上手だよね。……私、こんなに甘い物を食べさせられたこともないから、よく分からないけど。でも、美味しいのだけは確実に分かるっていうか」
「おっ? そうか、そうか。ティデルも俺の料理の虜になっちゃった? だったら……モフ中毒の責任も含めて、これからもしっかりお料理、提供しちゃうぞ」
……モフ中毒? なんだそれ……と、私が首を傾げる隙も与えられないうちに、すぐ隣に座っていたはずのコンタローがいつの間にか、ポフンとティデルの膝上に収まっている。そうされてティデルも満更じゃない様子で、ヨシヨシとコンタローの頭を撫で始めたが……。あぁ、そう言えば。孤児院に出かけた時もこんな感じだったな。モフモフの禁断症状(無性にモフりたくなる)は私も経験したことがあるし、特にウコバクの撫で心地は冗談抜きで最上級だ。……病みつきにならない方がおかしい。
「で……さっきの続き、なんだけど。……私もここらで吐き出した方が楽になると思うし。折角だから、話してやる事にするわ。……結局、私もあいつらには利用されただけだったしで、ムカムカしてんのよね。こうなったら、あっち側の邪魔をしてやった方が、有意義だと思うし」
……なるほど、な。彼女が協力してくれるのは、あくまで向こう側に仕返しするためなんだな。オレンジのムースを掬いながら、ティデルの恨み言に耳を傾けるものの。しかし、すぐさまそのツンケンした態度は照れ隠しなのだろうと、納得する。だって、ティデル……何だか、嬉しそうだし。膝上のコンタローを抜かりなくナデナデしているのを見る限り、物騒なのは言葉だけなのかも知れない。
「さっき、霊樹の意思を穢すためにラディウスを使っているって、言ったけど。結局……それも、失敗しちゃったのよね、詰まるところ。……ユグドラシルは意外としぶとくて、サ。しかも、エルノアがやってきてから、頑張ることも思い出したもんだから、生贄を食うのも止めちゃったのよね。……それまでは出来損ないの精霊を試験的に与えては、どのポイントの芽が生長し切るか楽しく観察してたのに。最終的には1番生長度合いが進んでいた、アルーの霊樹を使うことにしたらしいんだけど……それも、上手く生長しなくなって」
ホント、馬鹿みたい……なんて、ティデルはあぁ〜ぁ、といかにもなため息を吐いて見せるが。更に続く彼女の説明では、私が生まれた地・アルーの地下こそが、彼女達の言うラボ……つまり、「ボーラ」なのだと言う。そして、アーチェッタとは地下通路と転移装置で結ばれていたとのことで、彼らはその拠点を中心として活動していたらしい。
「新しい霊樹……向こうでは、マナツリー・レプリカなんて呼んでいたけど。そのレプリカちゃんは今もあのラボの奥で根を張っているはずよ。……状況は私も知らないけど。それでも、エルノアの言うことは聞いていたし。あの子が居れば、話くらいは聞けるんじゃないの?」
しかし、そのエルノアは今……脱皮中の状況だ。もう少しで帰って来れそうだと言うことだったが……こればかりは急かす訳にもいかないし、待つしかないか。
「で、さ。一応、向こうさんの拠点にはアンカーを打ち込んできてあって。……プランシーも行方が分からないままだし、あっちの感じだと、瘴気も薄いみたいだったから。……雰囲気的に天使の皆さんも、調査は可能だろうと思う」
「そうか。だったら明日は早速、まずはボーラの調査についてルシフェル様に相談してみるよ。この場合はエルノアの帰りを待ってからになりそうだが……あらかじめ、段取りを決めておいても損はない。それと……例のデミエレメントについても、解放してやれる方法がないか調べてくる」
「うん、そうだな。だから……エドワルド、そう気を落とすなよ。ロジェとタールカに関しては、天使様方も考えてくれそうだし」
「そ、それは本当ですか……? 天使様……!」
「……上手い方法が見つかるかは、保証しませんけれど。できる限り、善処いたしましょう」
いくら嫌いな相手だからと言って、手を差し伸べる対象から除外していい訳ではない。ただ、こればかりは「絶対大丈夫」とも言い切れないのが、歯痒いところだ。
天使は確かに精霊と契約をすることで、彼らの祝詞を預かり、力を借りることもできる。そして、場合によっては強制契約で強引に縛ることもできるが……それは禁じ手である上に、精霊側から一応は「Yes」の意思表示がないと成り立たない。
しかし、ここで問題になっているのは天使の契約ではなく、悪魔……しかも真祖クラスのみが行使できるという、紋章魔法の呪縛だ。そんな固有魔法の拘束に、天使の契約が付け入る隙があるとも思えない。だとすると、この場合は……。
「ベルゼブブとマモンにも相談した方がいいかも知れないな。……例の紋章魔法は天使には到底、ロジックを理解できない代物だろう。素直に悪魔側の知恵を借りた方がいい気がする」
「あぁ、それもそうだな。それに、さ。マモンはともかく、あのベルセブブがやる気に満ち溢れててな。大昔に何があったのかは知らないが……アケーディアはあいつにとって、因縁の相手っぽくて。今日は一旦魔界に帰ったが、困ったことがあったら相談してくれなんて、言ってたぞ」
ベルゼブブが相談に乗ってくれる、だって? 常におやつを要求し、挙げ句の果てに天使長までもを人質に取ったあの暴食の真祖が……素直に力を貸してくれるなんて。どういう風の吹き回しだろう。
「何れにしても、新しいマナツリーの様子も確認した方がいいだろうし……潜入ルートを確保できた以上、躊躇する理由もないだろう。あとは……不足に事態に備えて、悪魔の協力者も本格的に募るとするか」
「って、ルシエル。前にも言ったと思うけど。悪魔の協力者なんて、そんな簡単に見つかる訳……」
「いや? どうやら、意外とあちらの皆様も乗り気らしいぞ? リッテルの報告によれば、マモンの配下とお弟子さん周りは調査に参加してくれるとの返事を得ている。その辺りはもちろん、対価次第なのだろうけど……そちらに関しては別途、魔界側にも交換リストを置くことにしたらしい。それを元に、悪魔のリクエストにも順次、対応する予定だ」
「そ、そうだったんだ……」
まぁ、私も交換リストカタログを魔界に置くのは、早計だと思うけれど。悪魔達の欲しいものが分からない以上、物理的な対価に関してはまずまず、それでいいと思っていたりもする。……いずれにしても彼らの協力を得ることが第一。そこに付随する懸念事項はとりあえずは、後で考えればいいだろう。




