18−12 最悪の究極魔法
リッちゃん3号機(魔法道具らしい)の真価を思い知って、こんな状況なのに呆れざるを得ない俺がいる。しかし一方のベルゼブブは配下が唖然としているのも意に介さず、リッちゃんにミッションを懇々と教え込んだ後に、真剣な様子で魔法の詠唱をし始めた。まさか、ここであの最悪の究極魔法を披露するつもりなのか……?
「この詠唱内容はよもや……本当に僕の魔法には足りない部分が……?」
「だから、言ったじゃないか……。あんたの呪文は足りていない気がするって」
俺もスペルディザイアを使えるわけじゃないから、何とも言えないけど。中身は悪魔らしいハインリヒもベルゼブブの呪文の意味は聞き分けられると見えて、彼の一言一句を聞き逃すまいと真剣な面持ちで魔法発動の瞬間を見守っている。……普通、ここは「そんな事させるかぁ!」って、息巻くところだろうに。どうも、ハインリヒはハインリヒで研究熱心な奴みたいだな。
「純白の希望、漆黒の絶望。汝が言霊を糧に、永遠の願望を世に顕さん。最後の言の葉に願いを乗せ、汝が望み叶え賜う! スペルディザイア! ……さ、リッちゃん! さっきのお願い、叫んじゃって!」
「承知いたしました。(すぅ〜……)とっとと、この化け物を元に戻しやがれ、このヤローが!」
「……うん?」
意味ありげに深々と呼吸をしたかと思った次の瞬間、突然の大声に思わず飛び退いてしまう。
えぇと……何をそんなにご乱心されているの、リッちゃん様。折角の麗し過ぎる見た目が台無しでございますよ?
それよりも……さっき、あんなに長々とお願いを教え込んでいたのに、結果がこれなのか? リッテルの外観で、こんな暴言を吐かせたとなると……。
(これは……マモンが知ったら、ベルゼブブもタダじゃ済まないぞ。マジで……)
しかし、リッちゃんのお願いは言葉の勢いだけはあるもんだから、スペルディザイアもしっかりと望みを叶えてくれる様子。吐き出された言葉がご乱暴であろうと、お上品であろうと。魔法陣がしっかりとリッちゃんの言霊を受け取っては、キラキラと輝いて……。
「ふぅ〜……こんなもん? こんなもん? うんうん。ちゃんとお願いは叶ったみたいだね。大成功〜★ ……ってところかな? それで、リッちゃん。しばらく我慢してね。ザーハにお願いすれば、声は戻ってくるはずだから」
「……(コクリ)」
ベルゼブブの取りなしに、作り物とは思えないほどに綺麗なお顔で微笑むリッちゃんだけど。……そのお顔でさっきのお言葉を吐き出したことを考えると、眩しい笑顔が却って恐ろしい。
しかし……本当に、やりやがったし。代理のお願い、しっかり叶えちまったし。しかも、リッちゃんボイスは修復可能っぽいし。これ……ある意味で、悪用し放題なんじゃ……?
「あ、兄上……!」
「タールカ……なのか? 私は……」
俺が妙な不安にブルブルと震えていると……さっきまでベルゼブブの威容に怯えていたタールカが、エドワルドの元へ駆け寄る。未だに効果発揮中のエンドサークル越しの再会ではあるけれど。しっかりと俺の知っている姿に戻ったエドワルドが感無量とばかりに涙を流し始めると、またまたタールカもボロボロと泣き始めるが……。
「……この場合の勇者は俺じゃなくて、リッちゃんな気がするな」
「え、えぇ……。すごいわ、ベルちゃん。まさか、こんな方法でエドワルドを戻してあげられるなんて……」
「フフン! 凄いでしょ、凄いでしょ★ もっと褒めてくれていいよん★ ……と、言いたいところだけど。実は今回はたまたま上手く行っただけなんだよねぇ」
「えっ?」
しかし、感動の再会を見守っているのも束の間。リッちゃん(魔法道具)をそそくさと自分の空間へ戻しながら、ベルゼブブが意外な事を白状し始める。
ベルゼブブによれば、リッちゃんに代理でお願いできるのは本当に「単純な希望」だけだということで、複雑な内容を無理にお願いしても失敗する可能性が高いのだという。俺にしてみれば、今回のお願いもそこまで「単純な希望」には思えないが……どうも、お願いする本人が中身を把握していなくても、強い意志さえあればオーケーってことになるらしい。で、兎にも角にも「化け物を元に戻す」というフレーズを強い意志で叫んで頂戴とお願いした結果が、さっきのご乱心ということになるそうな。
「もしかして、リッちゃんの言葉遣いが乱暴になったのって、そのせいだったりするのか?」
「多分ね。或いは……ヨルムの沼から引っ張った魂に依存するのかもねぇ? リッちゃんは魔界に迷い込んだ魂を燃料にしては、魂が消えるまでの間にヨシヨシモードを稼働する仕組みになっているんだって。……魔界をフラついている魂は大抵、欲望も曖昧なままのへなちょこ君達だからね。悪魔に食われるか、ヨルムツリーを目指して沼に沈むか、自然消滅するかの道しかないし。だから、そんな魂を取り込んでも、一発できるかできないかの時間しか保たないって、聞いたけど……」
「……ベルゼブブ。聞いておいて、なんだけど。お願いだから、いい子の前で怪しげな事は言わないでくれ。それと、この事はマモンには内緒にしておく……で、いいんだよな?」
「それでヨロシコ。……でないと、今度こそ触覚を引っこ抜かれちゃうよん」
うん、だろうな。分かってるじゃないか。
「……なるほど。こういう願いの叶え方もあるのか。魂を搭載した人形を用意して……それはそうと、貴方がベルゼブブ、ですか? そちらのナンバー2の親の悪魔だとか、なんとか」
「うん? そうだよん? だけど……悪いけど、僕は君のこと、大嫌いだから。あらかじめ、言っておくけど。お願いの叶え方も、正しいスペルディザイアの呪文も教えてあげるつもりはないよ?」
「なっ……いきなり、本当に失礼ですね! 大体、僕が何をしたって……」
「……お前はバビロンを散々馬鹿にしてきたよね? 僕はどこまでもバビロンの味方なの。……バビロンを苦しめてきた奴を手助けするだなんて、死んでもゴメンだね」
お? なんだ、なんだ?
常におちゃらけているはずのベルゼブブが、今度は妙に突っかかっている気がするが……。アケーディアがバビロンを苦しめてきた、だって? 一体、ベルゼブブは何の事を言っているんだろう?




