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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第13章】鮮やかな記憶と置き去りの記憶
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13−3 悪魔の階級

「最下落ちか。そう言えば、“恋するラベンダー”にも出てきたっけ。えぇと……でも、リッテルの報告にも、メカニズムは記載がなかった気がする……」


 最下落ちのフレーズに、ミシェル様が思い出したように首を捻っているものの。その最下落ちだったハンスはアスモデウスのお仕置きでその状態になっていたのを、マモンが無理やり下級悪魔に仕立てさせた……だったかと思う。

 最下落ちの仕組みや概念については、真祖様ご本人達に聞いた方がいいと思う反面、最近はマモンにやや頼りすぎな気がするし、この間も「所定の方法」でかなりの不興を買った気がするし……。これ以上はご迷惑にならないかが、少々心配だ。そこまで考えた所で、ふと……天使長様の薬指と目が合う。そう言えば。もう1人、引き込みに成功した真祖がいたような……?


【ベルゼブブ、魔力レベル14。魔神、地属性。ハイエレメントとして闇属性を持つ。魔界における《暴食》の真祖。攻撃魔法と補助魔法を行使可能。登録者:ルシフェル】


 手元の精霊帳からさして苦労することもなく、バハムートの1ページ前に堂々と悪趣味な悪魔のデータが掲載されているのを、見つけ出す。魔法情報の多さに関しても、こちらを頼った方がいい気がするが。


「ルシフェル様。あの……」

「……みなまで言わなくていい。ベルゼブブを頼れと言いたいのだろう? しかしな、今のあいつは“読み込み中”の状態だ。それでもって、対象の紋章魔法はベルゼブブのものとも完全一致ではないことも分かっている。だから……はぁ。いや。それでも、アレを頼るのが得策か。……かなり、不本意だが」


 さも悲しい顔をされると、話を向けた手前、居た堪れないのだが。ルシフェル様の傷心に関してもそのうち、対処法を一緒に考えて差し上げた方がいいだろうか? あからさまな難題について、私が思いあぐねていると……渦中のルシフェル様が思い出したように、最下落ちについて話し始める。暴食の真祖に身売りしたとは言え、彼女はどこまでも天使長兼・元傲慢の真祖様。ルシフェル様も、その辺りの情報はきちんと持っているようだ。


「あぁ、そうそう。最下落ちについて、だったな。こいつはさっきの話にあった通り、紋章魔法によって祝詞を取り上げられて、最下級の底辺に叩き落とされた奴を指すが……発生には、前提条件があってな。簡単に言うと、最下落ちにされる奴は元々、祝詞を持っていた上級悪魔のみなのだ。真祖以外の悪魔には下級から上級までの3階級が存在しているが、あまり私達と変わらんように見えて、向こう側の階級はしっかりとした基準がある」


 私達の階級は正直な所、翼の数の違いでしかない。しかも、少し前まではその翼も徳積みチケットで購入していたものなのだから……実力は度外視もいいところの、形骸化した概念でしかなかっただろう。しかし、細かい概念は私も知らないが……コンタローとハーヴェンが身近にいる以上、悪魔の階級には確かな壁が存在する事はよく知っている。行使可能な魔法数だけではなく、純粋にできる事自体もかなりの差があり……例えば、異世界間ポータル魔法を使えるのは、基本的に上級悪魔以上のクラスだと、それとなく聞いた事もあった。


「悪魔は闇堕ちした瞬間の苦痛の度合いによって階級が決まるそうだが、苦痛が多ければ多い程、生前の記憶が残ると同時に、封印も確固たるものとなる……という概念は、お前達も知っていたかと思う。ただ、な。厳密には、上級悪魔は自分の名前と祝詞だけを残して、記憶を丸ごと封印された状態で闇堕ちした奴を指すのだ。そして、記憶を完全に取り戻すために、“追憶の試練”を受ける権利を持つのもまた……上級悪魔のみに限られる」


 その後も綿々と続く、ルシフェル様の解説を聞いているに……彼らの階級には名前と祝詞、記憶の残量が大きく関係するらしい。

 生前の記憶はしっかりと残るが、その場で記憶喪失になる名前と祝詞持ちの上級悪魔。そして、生前の記憶量は上級悪魔に及ばず、名前はあっても祝詞がないのが中級悪魔。最後に名前も記憶も、全てを削ぎ落とされて欲望だけが残されているのが下級悪魔……なのだそうだ。

 そこまで聞いて、健気にモフモフと癒しを振りまいていたコンタローの顔が思い浮かぶ。お気楽なように見えて、下級悪魔もそれなりの事情を抱えているものなのだと思うと……少し、辛い。


「名前を勝手に名乗る事は多少許されるようだが、祝詞だけはどうにもならん。だから、中級悪魔以下は真祖が刻んでやらない限り、祝詞を得る事はできないし、“正式に名前を名乗ること”も許されん。その辺りのルールは親の真祖の気分と配慮次第だろうが……名無しの悪魔の方が圧倒的に多いのが、実情だ」

「では……下級悪魔がしっかりと名前と祝詞を持っていて、私達と契約できる状態だという事は……」

「親の真祖がそいつに名前を付けて、祝詞を刻んでやっていたという事だ。……あれで、ベルゼブブはそこだけはしっかり者だったみたいでな。コンタローがすんなりお前と契約できたのには、あいつが親の役割をきっちり果たしていたからに他ならない」


 自分でそんな事を言いながら、ほぅ……と、感心した様子の息を吐くルシフェル様。名無しの悪魔が多い中にあって、暴食の悪魔には名前も祝詞もあるという事実に……旦那様の長所を1つ、見つけられたようだ。


「……まぁ、今はベルゼブブの事はいいか。とにかく、だ。祝詞を取り上げられた上級悪魔は最下落ち……下級悪魔ですらない、最底辺の存在として、ありとあらゆる侮蔑と差別を延々と受け続けなければならない。無論、配下を最下落ちに堕とすのは、真祖としても最終手段だ。存在そのものを奪う事は、貴重な上級悪魔を失う事をも意味している。……上級悪魔の数は各真祖にとって、1つの勢力を示す指標でもあってな。それでなくても、上級悪魔はもとより、追憶越えの悪魔は非常に貴重な存在だ。その可能性を秘めている“大元”を失うのは……どう考えても、賢い選択ではない。故に、最下落ちの罰の執行は真祖の横暴であると同時に、愚行と見做される側面がある」


 それって……かつて最下落ちを作り出したアスモデウスは愚かだと、遠回しに言っているのだろうか? 私自身は彼女とはベルゼブブの屋敷で、一瞬しか顔を合わせた事はないが……。まぁ、彼女の様子だと、理論よりも感情が先行しそうな気がしないでもない。そうだな。それが正に愚かなのだと、この場合は言うのだろうな。そして、ルシフェル様は人間界でそんな魔法を使った術者をも、「愚か」だと言いたいのだろう。

 誰が何のために、紋章魔法を使ったのか。こうして5人で顔を突き合わせても、何1つ、化けの皮の下は見えてこない。やっぱり、旦那も含めて悪魔達に知恵を借りるのが賢明か。折角、力を貸してくれる「頼る先」があるのだから……意地を張って頼らないことこそ、正に愚行でしかないだろう。

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