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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第12章】恋はいつだって不思議模様
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12−35 あなたの魔界ライフサポート

 ミカエリスから預かった「記憶のカケラ」……と思われる、紫色の特大鉱物を見つめるものの。何がどうなって、あいつがこんな物を持っていたのだろう。と、言うか……。


「今の人間界で、こんなに魔力量を保持しているものが存在しているなんてな……。俺、そんなに派手にやらかした記憶ないけど……」

「あなた、それって……」

「うん、ヴァンダート産の雷鳴石ってヤツだな。天使様方の遺灰に、俺がイエローカタストロフィをぶっ放した時の魔力が結合して、魔石化したものなんだけど。魔力すっからかんの人間界で……ここまでしっかりと魔力を保持しているのは、不気味かも……。奇跡というよりも、何かのカラクリがありそうな気がしないでもない」

「カラクリ、ですか?」


 うん、そうだな。あんまり良くない向きのカラクリがありそうだな。


「魔力は、飽きっぽい上に気まぐれでさ。お前も魔法を使っていれば分かるだろうけど、詠唱の時に魔力に呼びかけるのは、気まぐれな魔力さんにふさわしい言葉を囁いて、一旦集合してもらっているだけだ」


 しかも、魔法が無事発動されればお役目完了とばかりに、その場で即解散が原則。魔力は大抵、現地集合・現地解散が信条なもんで。……工夫なしに、その場で待機はまずまずないと言っていい。


「だから、コンスタントに呼びかけでもしない限り、こんなに長い間、魔力を保っているのは不自然なんだよ」


 俺に失礼にも程がある輝きを示しながら、鎮座するそれを見つめて……嫁さんが不思議そうに首を傾げている。そもそも、目の前のこいつがムカつく感じで光るのは、天使様方の意思を引き継いでいるからに過ぎない。そういう意味でも、かなりの魔法道具材料になり得るのだろうが……あいつが最期の記憶を取り戻すまで、こんな気色悪い物を俺が預からないといけないのか。


「そう言えば、あなた。1つ、質問があるのだけど」

「ハイハイ、何でございますか?」

「どうして真祖さんって、悪魔さんから記憶のカケラを預かるのかしら?」

「あぁ、その事か。まぁ、それは一種の様式美ってヤツなんだが。ちょいと詳しめに言うと、真祖の悪魔が記憶のカケラを預かるのは……そいつの記憶を湾曲させないため、だろうな」

「記憶の湾曲……?」

「悪魔は死際の苦痛に応じて階級が決まるが、上級悪魔は記憶の保持量も膨大な分、記憶の穴も大きいんだよ。で、記憶に穴が空いているのは、気持ち悪いもんだから。それを無理やり埋めようとして、余計な記憶を詰め込んだ結果……壊れちまう奴が出てきたりする」


 聞いた話によると、記憶の喪失はかなり胸糞の悪い「焦燥感」を伴うものらしい。最初からすっからかんであれば気にも留めないだろうが、上級悪魔はそれがあった感覚だけはきっちり残っているものだから、違和感にも近い焦燥は耐え難いものだろう。だからこそ……真祖が仕方なしに、それを連想させる「物的証拠」を預かっていたりするんだけど。


「記憶のカケラってのは、心に穴がポッカリ空いている事をイヤというほど、持ち主に見せ付けるものらしくてな。だが、一方で……重要な記憶がある事を示す、安心材料にもなり得る。手元に置いておけば不安材料にしかならないが、かといって、なかったらなかったで統合性失調にもなりかねない。だから、一時的に真祖が預かる事で、安心材料はあるから心配すんな……って、気休めを兼ねてるんだよ」

「そうだったの……。悪魔さんって、意外と繊細で律儀なのね……」

「……改めて感心されると、切ないんですけど」


 まぁ……嫁さんの変な感傷はどうでもいいや。

 隣で嬉しそうにクスクス笑う嫁さんを尻目に、とりあえず雷鳴石を自分の空間に引っ込める。当のミカエリスも、記憶が封印されているみたいだったし……妙にイライラさせられるこいつを、恭しく置いておく必要もない。


「さて、と。今日のところは、こんなもんだろ。で、リッテル。俺……お仕事、とっても頑張ったんですけど。ご褒美とか、もらえたりするのかな? なんて……」

「もちろん。お仕事を頑張った旦那様には、ちゃんとご褒美を差し上げないと」


 リッテルが嬉しそうに首に腕を回してくるので、さも当然と、彼女の腰を抱いて引き寄せる。そうして頬にご褒美(第1弾)の口付けをいただいたところで、いよいよ彼女を遠慮なく抱き上げれば。ようやく、1日の終わりが穏やかにやってくる。

 明日から「新入り」の面倒を本格的に見なければいけないのだから、ある程度は考えておかなければいけないんだけど。そこは同類同士で、何とかして貰えばいいだろうし……。ミカエリスは体良く、ダンタリオンに押し付けてしまおうと決めると、今は煩わしい事を忘れることにしてみる。

 正直な所、送迎サービスは完全に気まぐれのオプションだったし。それでも、ちゃんとお仕事の対価をいただけるのなら……世話を焼いてやってもいいかと思えるんだから、俺自身も変わったと認めざるを得ない。昔の俺だったら、勝手にやっていろと放置していただろうに。

 結局、なんだかんだで「あなたの魔界ライフサポート」宣言に、しっかりと巻き込まれた事を自覚しつつ。それも悪くないと……そんな事を宣言してくれちゃった嫁さんのご褒美(第2弾)を堪能するのも、俺の最大の特権なのだろう。

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