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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第12章】恋はいつだって不思議模様
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12−8 以前にも増してラブラブ

 ギノとエルノアを“デート”に送り出した後、しばらくしてゲルニカが帰ってくる。ゲルニカは俺達が突然お邪魔しているのにも関わらず、迷惑そうな顔1つ見せずに、嬉しそうにしてくれるのだからありがたいのだけど。家族ぐるみで竜族とお付き合いって、本来はあり得ないことだった気がする。まぁ……今となっては、あまり気にしなくてもいいか。


「そう言えば、ハーヴェン殿。少し報告したいことがあるのだけど、いいだろうか?」

「お? 何かあったのか? ……あ、もしかしてダンタリオンの事かな? あの様子だと、結構こっちに入り浸っているみたいだし……もうちょい、遠慮するように伝えたほうがいい?」


 ちょっとした世間話の合間に、ルノくんの可愛い寝顔をモフモフ達と拝見していると……その父親のゲルニカから、相談事があるらしい。先程の調子とは打って変わった神妙な面持ちに、心当たりの内容を先回りしてみるが……相談はダンタリオンの事ではなかったようだ。


「いや、違うよ。私としては、ここまで魔法について、深い話ができる相手がいるなんて思いもしなかったから……迷惑どころか、こちらに住んで頂いても構わないくらいだよ」

「そ、そう? まぁ、ゲルニカはそれでいいのかも知れないけど……この状況、奥さん的には大丈夫なの?」

「まぁ! ハーヴェン様は私の事を、どんな風に思っていらっしゃるのですか? ウフフ……大丈夫ですよ。相手は魔法書でも、女性でもありませんもの。それに、ダンタリオン様にお相手いただいた後には、必ず私にもたっぷり愛情を注いでくれると約束してくれましたし……最近は、以前にも増してラブラブですのよ?」


 な、なるほど。入り浸る相手が他の女の人じゃなければいいんだな、奥さん的には。しかし……相変わらず、この屋敷で1番場所をとっている「同居人達」を目の敵にしているらしい。どう考えても、同列に並びっこないはずの相手が並列に並んでいる時点で、ゲルニカは随分と、魔法書がらみで奥さんの気を揉みまくってきたんだろうなぁ……。


「……それは、それは。何だ、ゲルニカも隅におけないな〜」

「いやいや、それ程でも……というか、すまない。それについては、深く考えないでくれるかな」


 いつも通りに赤面の反応を示すゲルニカを囃しつつ、彼の報告を待ってみる。話題が見事に脇に逸れてしまったが……仕切り直しとでも言いたげに、咳払いをしながらゲルニカが本題を切り出した。彼の表情を見る限り、あまり深刻な内容ではなさそうだが……一体、何があったんだろう?


「実は……先日から、マハ様がお籠りの期間に入られてね。クロヒメちゃんが、お母さんになるみたいなんだ」

「マ、マジでッ⁉︎」


 しかし、ゲルニカの報告内容があまりに突飛すぎて……今度は俺の番と言わんばかりに、飛び上がって驚いてしまう。ついでにコンタロー達を驚かせた挙句に、巻き添えでルノ君を起こしてしまったらしい。ぐずり出したルノ君を慌てて奥さんが抱き上げる光景に、遅れながらも……かなり申し訳ない気分になる。


「あ、あぁ……ごめん。変な声を上げて……。ルノ君、びっくりしたよな……」

「いいえ、大丈夫ですわ。……ルノ、大丈夫ですよ〜。別に怖いことは、ありませんからね〜」


 手慣れた様子でルノ君をあやす奥さんの足元で、妙にしたり顔でニヤニヤしているダウジャ。あっ、その顔は……俺を揶揄おうとしているな? そうだよな?


「悪魔の旦那、驚きすぎですぜ……。俺達もびっくりですよ〜」

「本当、ごめん。まさか……クロヒメが母親になるだなんて、夢にも思ってもいなかったから……つい」

「あい、ちょっとビックリしたけど、おいらは大丈夫でヤンす。お頭が驚くのも、無理ないでヤンす! ……アフ、クロヒメがママになるんでヤンすね……」

「そうね。きっと、クロヒメの赤ちゃんも可愛いんでしょうね……!」


 無駄ないたずら心を発揮しているダウジャの横で、素直にクロヒメの赤ちゃんに思いを馳せるコンタローとハンナの様子に俺も落ち着いてきて……いよいよ、自分の事のように嬉しさがこみ上げてくる。そうか。クロヒメが母親になるんだ。かつて自分の子分だった女の子が、まさか竜族の母親になるなんて、思いもしなかったけど。……勢い、娘もいないはずなのに、孫ができるような気分にさせられる。兎にも角にも……こんなにおめでたい話題が嬉しくないはず、ないよな。


***

「ルシフェル! ルシフェルはおるかの⁉︎」


 ルシエルが情報収集をしに魔界に行っているとかで、こちらはこちらで、残ったメンバーで魔界訪問について方針を決めていると。あろう事か、誰かが天使長様を呼び捨てにしているのが響いてくる。えっと。この声はもしかして……。


「ルシフェル様、そう言えば……マナの謹慎が解けるのって、今日でしたっけ?」

「……すまぬ、すっかり忘れていた。まぁ、話は概ね終わっただろうし……仕方ない。一応、アレでもここの女神だからな。……無視するわけにもいかぬか」


 円卓の最上座で眉間にシワを寄せながら、ため息をつきつつ退出するルシフェル様。マナの女神っていうからには、もっと落ち着いているもんだと思っていたんだけど。見た目が子供のせいなのか、中身も随分と子供だと思うのはボクだけかな……。


「ふむ……しかし、困ったものだな。まさか、神界の風穴を塞いだ瞬間に、このような問題が浮上するとは……。ルシフェル様もさぞ、お疲れだろうに」

「そうね〜。それにしても……マナの女神が私情で他の女神を滅ぼしていたなんて、思いもしなかったわぁ。まぁ、なんて恐ろしいんでしょう⁉︎」


 きっとマナに対する印象はボクとほぼほぼ、一緒なんだろう。オーディエルにラミュエルも、半ば呆れた顔をしている。うん、それにはボクも同感。マナとしては浮気相手が許せなかったんだろうけど、それ以前に……元凶のヨルムンガルドにお仕置きする方が先だと思う。


「……しっかし、その女神様がルシフェル様に何のご用事だろう?」

「はて……。まさか、今度は魔界に乗り込むつもりなのか……?」

「ま、まぁ! それはいけないわ。だって、ようやく悪魔さん達と仲良くなれたのよ? それを壊されるような真似をされたら……」


 旦那様ゲットの道が閉ざされるね。


「ボク達も様子を見にいこうか? 場合によっては、ルシフェル様に加勢した方がいいだろうし」

「そ、そうね!」

「うむ、私もその方が良いと思う。……サタン様に会えなくなるのは、何を置いても耐えがたい」


 3人揃ってそちらの名目で一致団結すると、ちょっと覚悟を決めて騒動の発信地へ向かう。そうして辿り着いたエントランスでは、子供っぽく寝転がって、駄々をこねる女神の姿が目に入ってくるけど。……えぇと。こんなに古風な「いい駄々」、久しぶりに見た気がする……。


「ヤダヤダヤダ! 今日はどうしても、肉球を触りに行くのじゃ! デザート、食べに行くのじゃ〜‼︎」

「突然、そのような事を申すでない! 先方にも都合というものがあるだろうに。まして、お前はルシエルを怒らせたばかりであろう⁉︎ もう忘れたのか⁉︎」

「イ〜ヤ〜! 妾もハーヴェンに会いに行く〜!」


 どうしよう、想像以上におかしな状況なんですけど。

 ……かねてから、ジェントル系派だったマナは、ハーヴェン様に会いに行きたいらしい。ハーヴェン様はそんな事で怒ったりはしないだろうけど、ルシエルを怒らせる気がする。見れば、彼女の手にはあの悪魔のぬいぐるみがきちんと握られていて。彼女が立派な駄々をこねる度に、無残に床に叩きつけられているのが、この上なく不憫だ。


「えぇと……とりあえず、起きたらどうです? ほら……ぬいぐるみも打ち付けられて、泣いてますよ?」

「……! あ、あぁ! 妾のハーヴェンが!」


 妾のハーヴェン……。間違いなく禁句ワードだと思うな、それは。


「全く、神界の女神ともあろう者が情けない! そんなにワガママを申すなら、化身なんぞ寄越さんでいい! 霊樹に引っ込んでおれ!」

「ルシフェルの意地悪! ケチ! それでもって、大年増ッ!」

「はぬッ⁉︎  大年増⁉︎  お前にだけは言われたくないわ、この化石女神が!」


 ……何かが噛み合わない、売り言葉と買い言葉。

 そこまで言われて、更に盛大に駄々をこねながら……大音量で泣き喚き始める化石女神様だけど。……周りのみんなも呆れ切って、苦笑いをしている。


「……何だろうな。こうも凄惨な状況を目の当たりにすると、マナの女神の性格が愛想を尽かされた原因に思えてきたのだが……」

「え、えぇ……。こんな風にワガママを言われて大騒ぎされたら、誰だって愛想を尽かしてしまうわ……」

「うん。さっきまでの話だと、ヨルムンガルドがとにかく悪いってボクも思ってたけど……。これじゃぁ、嫌われて当然かも……」


 結局、加勢するにも程遠い状況を仕方なしに見つめるボク達だけど。これはやっぱり、ハーヴェン様になんとかしてもらうより他ないんだろうか? 何だか、ボク……いよいよ、悪魔の方が真っ当だと思えてきたよ……。

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