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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第12章】恋はいつだって不思議模様
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12−5 私に甘えたいと申しています!

「あなたが自分から帽子を被っているなんて……どうしたの? 何があったの? もしかして、どこか具合が悪いのかしら?」

「べ、別に……。たまには、こっちで帽子を被っているのも悪くないかなって……」


 約束通り、嫁さんがしっかりルシエルちゃんを連れて帰ってくるけど。俺が「例の耳」を見られたくなくて、帽子で凌ごうとしているのに、リヴァイアタンがご丁寧に事情を説明してくれちゃったりする。……こいつ、綺麗サッパリこの場で切り刻んでやろうかな……?


「フフン! マモンは今、僕のお嫁さんになってくれるようにと、猫耳を装着中なのだ! だから、そこの天使! 僕にマモンを譲り給え!」

「主人に猫耳ですか、リヴァイアタン様? それに、主人を嫁にするって、どういう事でしょうか?」


 勝手に俺を嫁扱いしながら、リッテルに対して胸を張るリヴァイアタン。一方で……ちょっと怒ったように頬を膨らませて、俺の方を睨みつけるリッテル。えっと……どうして、俺が睨まれているんだ?


「あなた、これ……どういう事? 私がいない間に、なんで勝手な事を決めているの……?」

「ちょ、ちょっと待て、リッテル! 俺も納得してないし! って言うか、俺が嫁ってガラかよ⁉︎」

「……ふ〜ん。でしたら、その帽子……取ってくれる?」

「えっ?」

「帽子の下、見せて欲しいのだけど」

「ゔ、ゔん……」


 契約の効果なのか、単純に嫁さんの圧力なのか。静かな勢いに気圧されて、仕方なしに帽子を取ると……途端に変などよめきが上がって、もの凄く辛い。どうして……どうして……俺がこんな思いをしなければいけないんだ?


「確かに、猫耳も新鮮な感じだけど……リッテル。マモン様も嫌がっているみたいだし、この位にして、本題に入ってもいいかな?」

「そうしたいのは、山々ですが……ルシエル様。私としては、この状況をハッキリさせたいのです。少し待っていただけます?」

「う、うん……」


 唯一、俺の味方らしいルシエルちゃんが場を鎮めようと試みてくれるけど……自分の上司に対しても有無を言わさず、強行突破してくるリッテル。その勢いは、留まる事を知らず。俺の方に向き直ると、嬉しそうにクソガキ共と甲高い声を上げ始める。


「もしかして、トラ猫ちゃんなの? わぁ……! とってもフワフワで、モコモコなのね……!」

「そうみたいでしゅよ、ママ」

「リヴァイアタン様が、ベルゼブブ様に作ってもらったらしいですよぅ!」

「パパ、とってもキュートです!」

「お前ら、纏めて本当に黙れよ……。大体、俺が可愛い必要性がどこにあるんだ……?」

「それはそうと……嫁もどきの天使! 耳が付いている間はマモンは僕の所で預かるから、そのつもりで!」


 いよいよ泣きたくなってきた俺を他所に、更に余計な事を言い始めるリヴァイアタン。あの、さ。……俺、怒っていい? そろそろ、本気で怒っていいかな……?


「あら、そうなのですか? 耳がついている間と言うことは、期間限定ということなのでしょうか? ウフフ。でしたら、最後は私の所に帰ってきてくれるのよね? あなた」

「いや、だから。……ハナから、リヴァイアタンの所に行く気はないけど……」

「だ、そうですよ? 残念でした、リヴァイアタン様。主人は耳が付いていようとなかろうと、私に甘えたいと申しています!」

「な、そんなことはないぞ! だって……耳はもう1つあるのだし! それの魔法が解けたら、追加でくっつけるつもりなんだ! だから、ずっとずっと、マモンは僕のお嫁さんなのだ!」

「まぁ、何て準備のいいことでしょう! でしたら……それ、預かりましょうか? 主人のお耳が取れたら、私が追加で付けて差し上げますよ?」

「ほ、本当か、嫁もどき!」


 完全に俺の立場を無視しながら、2人で変な取り決めをし始めるリッテルとリヴァイアタン。猫耳を痛く気に入ったらしい嫁さんの手に、追加のカチューシャが渡るが……何を血迷ったのか、手渡されたカチューシャを自分の頭に取り付けるリッテル。


「シャキーン★ ほら、どう? 私にも似合うかしら? ウフフ。これで、あなたとお揃いね?」

「リ、リッテル……?」

「ななななななな……何をしているんだね、嫁もどき! それはマモン用であって、お前用ではないのだよ⁉︎」


 うん、そうだな。不本意だが、話の流れ的にも……リッテルが装着する想定はなかったんじゃないかな。


「もちろん、分かっています。でも……こうでもしないと、あなたの嫌がらせは止まらないでしょ?」

「い、嫌がらせ……?」

「えぇ。相手が嫌がっているのに、無理やりこんな事をして……なーにが、主人をお嫁さんにするですか⁉︎ いいですか、リヴァイアタン様。私達はただ相手が可愛いとか、気に入ったとか、簡単な理由で一緒にいる訳ではないんです。とっても深〜い事情があって、一緒になりましたの」


 とっても深〜い事情……。うん、まぁ……なんだ。具体的な内容は忘れておこうかな。……リッテルと一緒にいるために、耐性をゴニョゴニョした事については、ここで語る事でもないだろうし。


「ですから……こんな下らない事で、私達の間に入ろうとしないでくれませんか? 主人が喉をゴロゴロして甘えるのは、私だけです! 他の相手に甘えさせるなんて、何がなんでも、許しませんから!」

「うぅぅ! 悔しい! とっても悔しい! 僕もマモンに甘えてみたいし、甘えさせたいぃぃ‼︎」


 リッテルの高らかな宣言に、羨望の根っこは変わっていないらしいリヴァイアタンが歯軋りしながら、盛大に悔しがっている。しかし……さり気なく、リッテルが変な事を暴露していた気がするんだけど。……思い過ごしだろうか。選りに選って、クソ親父の前でだけは、恥ずかしい事を公言しないで頂きたい。


「ほぉ! マモンはその娘御に甘えておるのか! うむうむ。是非、私もリッテル嬢に甘えてみたいものだ。なぁ、どうだ? 折角、お誂え向きの耳も付いているのだし……今宵は私の所にニャンニャンしに来る気はないか?」

「いい加減にしろよ、この色ボケクソ親父! リッテルは俺のだし、俺も離れる気もないし! とにかく、2人はサッサと帰れよ! そっちのルシエルちゃんと話もあるし、これ以上、邪魔しないで欲しいんだけど!」

「……あ。そう言えば、そっちの天使は随分と色気がないな? 顔はまぁまぁだと思うが、何だ? その平らな胸は。天使は皆、包容力に溢れていると思っていたのだが。……ハズレもいるのか?」

「今、何て……?」


 余計な口も挟まず、静かに見守ってくれていたルシエルちゃんに話を向けると……非常に失礼かつ、完全なる禁句を口にするクソ親父。確か……ルシエルちゃんの幼女体型にまつわるエトセトラは、絶対に踏み入れてはいけない地雷原だって、ハーヴェンが難しい顔をしていた気がするが。


「黙って聞いていれば、好き放題言いおって……! 本当に失礼でロクでもないヤツだな、冥王とやらは! そこまで申すなら、曲がり切って腐り果てた根性を私が叩き直してくれる! 我の元に来れ、ロンギヌスッ‼︎」

「ロ、ロンギヌス⁉︎ まさか、お前……!」

「さぁ……覚悟はいいか? この……ド腐れ龍神!」

「ま、待つのだ、天使! まさか……その! あっ、ご……ごめんなさいぃぃぃ!」


 いや、最初からきっちり翼は出てただろうが。ルシエルちゃんの背中にしっかり8枚も翼があることくらい、気づいとけよ……。

 そんな事を考えつつ、呆れながら見つめていると。ド派手に暴れ始めるルシエルちゃんの攻撃に、撤収を余儀なくされるヨルムンガルド+おまけの王子様。確かに、このヨルムンガルドは仮初の不完全なものだろうけど……。それを抜きにしても、一方的にド腐れ龍神を成敗し尽くす大天使様の威厳に、寒気がする。ハーヴェンはルシエルちゃんがきっちり凶暴だとも言っていたが。……その根拠、まざまざと見せつけられた感じかなー。

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