11−53 とにかくカーテンは却下
「リッテル……あの、さ。配下共に毛布を用意してくれたのは、とってもありがたいよ? だけど、俺の布団にまで気を使ってくれなくて良かったんだけど……。しかも、そのカーテン……。部屋に合っていないにも、程があるんじゃない……?」
神界からとっても上機嫌で帰ってきた嫁さんだったが。何を血迷ったのか、布団カバーを甘ったるいフリルに掛け替えたものだから、上機嫌の理由を何となく理解できてしまい、ゾッとする。しかも布団だけでは飽き足らず、カーテンまでもをフリフリレースに変更しようとしているのを、慌てて止めに入るものの。彼女は彼女で、当然のように俺の「待った」に顔を赤らめて抗議し始める。
「もぅ! カーテンもお布団も真っ黒だったら、気が滅入ってしまうじゃない! こちらでも青空が見えるようになったのですし、お家の中も明るい方がいいのは、当たり前でしょ⁉︎」
「当たり前なのか? それは……?」
「とにかく、カーテンとお布団はレースに変更します。……そうしてくれないと、今晩から添い寝してあげないんですから!」
「それってつまり……多少は認めてやれば、今からでも添い寝してくれるってコト?」
「えっ?」
もう限界だ。大体……さっきから背伸びをしつつ、尻を振られたら我慢できないだろうが。
そんな事を沸々と考えながら、咄嗟に俺の意図するところが理解できない嫁さんを抱き上げて、真新しい布団カバーの上にちょっと乱暴に寝かせると同時に、睨むように見下ろす。
「あっ、あなた……その……」
「ワガママも大概にしておけよ? ……とにかくカーテンは却下。そっちは添い寝に関係ねーだろうが」
「ご、ごめんなさい……。でも、私もここで暮らすのに、お部屋の雰囲気を変えたくて……」
ようやく、俺がちょっと怒っているのに気づいたのだろう。やや怯えた表情をしながらも、しっかりと頬を染めるリッテル。潤んだ瞳に、思わず吸い込まれそうになるが……その感傷を受け流して、キッチリ悪魔の恐ろしさを再認識してもらおうと、怒っているフリをしながら話を続けてみる。
「……その顔、たまんねぇなぁ。最近、忘れられているみたいだから、改めて言っとくと……俺は悪魔なんだけど。欲望を邪魔するものに、容赦するつもりはないな。この家の調度類を黒に統一しているのには、それなりに意味がある。……例え、相手がお前だったとしても、譲るわけにはいかない」
「意味があるのですか?」
もちろん、ありますとも。クダラナイようで、意外と深いワケが。
「俺は最初っから、この状態なんでな。……どこまでも真っ暗な世界に慣れているんだよ。たまに明るい世界を覗きに行くのは悪くないが、ずっと明るいのは落ち着かない。いつだって……綺麗で眩しい世界は、俺達みたいな汚い存在を受け入れてくれる事なんか、1度もなかったからな。今更、そっちに行ってもいいよと言われても、ご厚意さえをも疑うのは……それこそ、当たり前だろう?」
自分でも忘れかけているから、情けないんだけども。俺はなんだかんだで、2800年も真っ暗な魔界で暮らしてきた生粋の悪魔だったりする。そりゃもう、天使ちゃん達からは目の敵にされまくってきたんだよ。それなのに……今まで徹底的に悪役を押し付けられてきたのが、いきなり態度を軟化されたらば。……警戒するのは、当然じゃないか。
「でしたら、少しずつ慣れていったら……どう、かしら……」
「慣れる、ね。じゃぁ、俺がそっちさんに慣れるまで、しっかりお相手してくれるんだろうな?」
「もちろんです……。ちゃんと最後まで、ご一緒します……」
ウンウン、いいなぁ、こういうシチュエーションも。嫁さんを無理やり組み敷いて、顔を真っ赤にさせるの、却って新鮮かも。
「そんな事を言いながら、もう既に息が上がってるじゃねーかよ。……フゥン? 満更でもないってところか?」
「そ、そんな事は……」
「言っとくが、今日は手加減するつもりもないからな。色々と……覚悟しておけよ」
「大丈夫、最後までずっと……一緒にいます。だって、私は身も心も全て……あなたのものですもの。あの日から、忘れた事は一時たりともないわ」
「そ。……悪いが、俺もずっと手放すつもりもないからな。これからはちゃんと、いい子でいるんだぞ?」
「……はい」
結局、天使はどこまでも「いい子ちゃん」らしい。そんな聞き分けのよろしい「いい子ちゃん」にお仕置きをしながら自分色に染めるという、背徳感を感じる欲望に身を任せれば。カーテンフリフリの気色が悪い状況さえも、あっという間に飲み込んで、俺を十二分に満たし始める。
こんな事を繰り返していたら、彼女が「いい子ちゃん」以上に欲張りでワガママになるのは、分かっているのだけど。だけど……それ以上に俺は「悪い子」で強欲なのだから、こればかりは仕方ないだろう。




