表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第11章】調和と不協和音
491/1100

11−53 とにかくカーテンは却下

「リッテル……あの、さ。配下共に毛布を用意してくれたのは、とってもありがたいよ? だけど、俺の布団にまで気を使ってくれなくて良かったんだけど……。しかも、そのカーテン……。部屋に合っていないにも、程があるんじゃない……?」


 神界からとっても上機嫌で帰ってきた嫁さんだったが。何を血迷ったのか、布団カバーを甘ったるいフリルに掛け替えたものだから、上機嫌の理由を何となく理解できてしまい、ゾッとする。しかも布団だけでは飽き足らず、カーテンまでもをフリフリレースに変更しようとしているのを、慌てて止めに入るものの。彼女は彼女で、当然のように俺の「待った」に顔を赤らめて抗議し始める。


「もぅ! カーテンもお布団も真っ黒だったら、気が滅入ってしまうじゃない! こちらでも青空が見えるようになったのですし、お家の中も明るい方がいいのは、当たり前でしょ⁉︎」

「当たり前なのか? それは……?」

「とにかく、カーテンとお布団はレースに変更します。……そうしてくれないと、今晩から添い寝してあげないんですから!」

「それってつまり……多少は認めてやれば、今からでも添い寝してくれるってコト?」

「えっ?」


 もう限界だ。大体……さっきから背伸びをしつつ、尻を振られたら我慢できないだろうが。

 そんな事を沸々と考えながら、咄嗟に俺の意図するところが理解できない嫁さんを抱き上げて、真新しい布団カバーの上にちょっと乱暴に寝かせると同時に、睨むように見下ろす。


「あっ、あなた……その……」

「ワガママも大概にしておけよ? ……とにかくカーテンは却下。そっちは添い寝に関係ねーだろうが」

「ご、ごめんなさい……。でも、私もここで暮らすのに、お部屋の雰囲気を変えたくて……」


 ようやく、俺がちょっと怒っているのに気づいたのだろう。やや怯えた表情をしながらも、しっかりと頬を染めるリッテル。潤んだ瞳に、思わず吸い込まれそうになるが……その感傷を受け流して、キッチリ悪魔の恐ろしさを再認識してもらおうと、怒っているフリをしながら話を続けてみる。


「……その顔、たまんねぇなぁ。最近、忘れられているみたいだから、改めて言っとくと……俺は悪魔なんだけど。欲望を邪魔するものに、容赦するつもりはないな。この家の調度類を黒に統一しているのには、それなりに意味がある。……例え、相手がお前だったとしても、譲るわけにはいかない」

「意味があるのですか?」


 もちろん、ありますとも。クダラナイようで、意外と深いワケが。


「俺は最初っから、この状態なんでな。……どこまでも真っ暗な世界に慣れているんだよ。たまに明るい世界を覗きに行くのは悪くないが、ずっと明るいのは落ち着かない。いつだって……綺麗で眩しい世界は、俺達みたいな汚い存在を受け入れてくれる事なんか、1度もなかったからな。今更、そっちに行ってもいいよと言われても、ご厚意さえをも疑うのは……それこそ、当たり前だろう?」


 自分でも忘れかけているから、情けないんだけども。俺はなんだかんだで、2800年も真っ暗な魔界で暮らしてきた生粋の悪魔だったりする。そりゃもう、天使ちゃん達からは目の敵にされまくってきたんだよ。それなのに……今まで徹底的に悪役を押し付けられてきたのが、いきなり態度を軟化されたらば。……警戒するのは、当然じゃないか。


「でしたら、少しずつ慣れていったら……どう、かしら……」

「慣れる、ね。じゃぁ、俺がそっちさんに慣れるまで、しっかりお相手してくれるんだろうな?」

「もちろんです……。ちゃんと最後まで、ご一緒します……」


 ウンウン、いいなぁ、こういうシチュエーションも。嫁さんを無理やり組み敷いて、顔を真っ赤にさせるの、却って新鮮かも。


「そんな事を言いながら、もう既に息が上がってるじゃねーかよ。……フゥン? 満更でもないってところか?」

「そ、そんな事は……」

「言っとくが、今日は手加減するつもりもないからな。色々と……覚悟しておけよ」

「大丈夫、最後までずっと……一緒にいます。だって、私は身も心も全て……あなたのものですもの。あの日から、忘れた事は一時たりともないわ」

「そ。……悪いが、俺もずっと手放すつもりもないからな。これからはちゃんと、いい子でいるんだぞ?」

「……はい」


 結局、天使はどこまでも「いい子ちゃん」らしい。そんな聞き分けのよろしい「いい子ちゃん」にお仕置きをしながら自分色に染めるという、背徳感を感じる欲望に身を任せれば。カーテンフリフリの気色が悪い状況さえも、あっという間に飲み込んで、俺を十二分に満たし始める。

 こんな事を繰り返していたら、彼女が「いい子ちゃん」以上に欲張りでワガママになるのは、分かっているのだけど。だけど……それ以上に俺は「悪い子」で強欲なのだから、こればかりは仕方ないだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ