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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第11章】調和と不協和音
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11−9 迷惑行為はご遠慮くださーい

 無事に「お花畑」に連れ立っていったサタン達を見送って、その場に残されたヤーティが疲れたように話しかけてくる。あまりの草臥れ加減に、自分の配下でもないにも関わらず、ちょっと不憫な気分にさせられるが……。あれだけ色々と無頓着なサタンがトップだったら、配下の気苦労は絶えないんだろうな……。


「本当に何から何まで、申し訳ありません、マモン様……。どうしたら、サタン様もあなた様のように、きちんと物事を見据えられるようになるんでしょうね……」

「きちんと、ね……。別に俺も、そんな大層なもんでもないけどな」

「左様ですか? ……白状致しますと私自身、今は強欲の皆様が羨ましくて仕方ないのです」

「あ?」


 うーんと。俺、このトリ頭にはかなり嫌われていたと思うんだけど。意外と、高評価っぽい?


「……マモン様は会合の日の事を覚えておいでで?」

「まぁ、ある程度は覚えているけど」

「実を申せば、あの日……私は非常に悔しかったのです。玉座の所有者を決めるという段階で、あなた様は自分の力で勝ち取ったものでない以上、あの席には戻らないと仰いました。そんな潔い言葉が主人の口から出たらばどんなにかいいだろうと、ずっと考えているのです」


 そう言われても、なぁ。別に俺は潔い訳じゃなくて……実の伴わない権力はいらないだけなんだけど。


「そうそう……そう言えば。結局、玉座の持ち主になったリヴァイアタン様も未だに、あの席に座る事を許されていないそうですよ? きっと、本当の持ち主だと認められていないのだと思われます」

「は? 許されていない……って、誰に、何の理由で?」

「多分、ヨルムツリーもあの会合の様子を把握しているのでしょう。ですから、あの霊樹はリヴァイアタン様に意地悪をしているみたいで……彼に翼がないのをいい事に、玉座を枝の上に載せてしまっているのだとか」


 あんの、陰険野郎……! 折角、わざわざ話し合って持ち主を決めたのに。俺達の意見は丸無視かよ……!


「なるほどな。今の玉座は、リヴァイアタンの物になっているのか」

「えぇ、ルシファー様もお久しぶりですね。……かの玉座においででしたらば、ご存知かと思いますが。ヨルムツリーは、それはそれは意地悪な霊樹ですので。確かに、先の会合の話し合いの結果ではリヴァイアタン様が持ち主に決まりました。ですが、一方で……甚だ失礼な言い方ではありますが、この魔界にリヴァイアタン様があの席の持ち主だと認めている悪魔は唯の1人としていないでしょう」


 なんだかんだで結構辛辣だよな、ヤーティも。リヴァイアタンが認められていないのは、俺も完全に同意だが。そこまで全否定しなくても、良くない?


「きっとヨルムツリーは、その機微を敏感に感じ取っているのだと思います。……フフ、これはこれは、困りましたね。何でも、リヴァイアタン様が話しかけても、ヨルムツリーは返事すらしないそうです。誰かがきちんと話をしてやって、ヨルムツリーを納得させないといけないみたいですよ?」

「……そういう事なら、ベルゼブブに言えよ。俺、知らね」

「ヨルムツリーはどうやら、そのベルゼブブ様の話すら、聞いてくれないみたいですけどね」


 何だか含みのある言葉に、つい押し黙ってしまう。それ……俺には関係ないし。関係ない……ハズだよな?


「まぁ、これ以上は野暮ですか。マモン様。本日はあのアンポンタンの為に、色々とありがとうございました。私は一旦先に帰りますので、大変お手数ですが主人にもその旨、伝えて下さいませんか」

「ハイハイ。俺の独断で呼び出したんだし、そのくらいはやってやるよ。だから今日くらいは、お前もちょっと息抜きすれば?」

「そうですね。……えぇ、そうします。折角ですから、主人がいない間にみんなで楽しくお喋りでもしましょうか」


 そこまで言ってやると、失礼しますと丁寧に頭を下げて帰っていくヤーティ。俺としては、優秀な配下がいるサタンが羨ましくて仕方ないんだけど。ヤーティみたいに色々と仕切ってくれる奴がいたら、どれだけ楽だろうな……。


「あぁ、そうだ。マモン」

「あ? 今度は何?」

「リッテルに聞いたのだが、スパができたらしいな?」

「あぁ、その事。この先の崖の上に……ほれ、妙に目立つあれがスパとやらだけど。折角、こっちに来たんだから、ひとっ風呂浴びてけば?」

「無論、言われずともそうさせて頂くぞ!」


 言われずとも、そうさせて頂く……って。いや、せめて持ち主の了承くらいは取れよ。なんで、こう……不必要に偉そうなんだろうな、こいつは。


「聞けば、泳げるほど広いらしいな、お前のところの風呂は」

「泳げるほどって……そんなお行儀の悪いことをするのは、グレムリンくらいだぞ? リッテルも何、余計な事を吹き込んでるんだよ……」

「だって、あなたのクランちゃん達とのやりとりが、とっても可愛かったんですもの。つい、お話ししてしまいました」

「……そう言や、前から疑問だったけど。……リッテルの可愛い基準って、かなーり幅広いよな?」

「そう?」


 そうして何かを思い出したらしく、面白そうにクスクスと笑い始めるリッテル。幸せそうなのは何よりだが、今日は色々と抑えてくれないかな。だって、ほら……。


「あぁぁぁぁ! 乗ってきましたよ〜! こうなったら、私もお風呂を頂いていきますぅ〜!」

「うん、もちろん構わないけど……。頼むから、勢いで変な事を書かないでくれよな……まぁ、いいや。おい、お前ら! そろそろ続きをするぞ! 天使様方はお風呂に入られるそうだから、休憩は切り上げて戻ってこい!」

「あ、マモン様……」

「えっと……」

「俺達もお風呂をお借りしたいんですけど……」


 気まずさマックスの俺が、気分転換に休憩終了の合図をすると。こっちはこっちで、モジモジし始める悪魔共。あぁ、そう。そういうこと……!


「ったく、そんな集中力ズタズタの状態で稽古を付けても、意味ねーじゃん……。もういい、分かった、分かった。折角だから、お前らも一緒に行ってこいよ……。ちょっと早いけど、今日はこの位にしておいてやるから」

「あ。そう言えば、マモン〜」

「何だよ、チンチクリン」

「もう! チンチクリンはやめてよね、チンチクリンは! とにかく、今日はジェイド君はいないの?」

「多分、来ないんじゃないかな。あいつはアレで、アスモデウスのところのナンバー2だし……。毎日来られる程、暇じゃないだろう」

「ゔ、そうなんだ……。ジェイド君に会いたかったなぁ。……あ、だったらさ」


 ……うるうると上目遣いされても、気色悪いだけだからな? しかも、無理難題なご要望も透けて見えるようで、とにかく面倒臭い。


「ハイ、却下。何で、俺がそこまでせにゃならん」

「って、オーディエルにはサタン様を呼んでくれたのに! どうして、ボクにはサービスしてくれないのさ⁉︎」

「いや、状況が違うだろうが。アスモデウス相手に、そんなもの出してみろよ。超面倒クセーだろ」

「ケチ!」


 ケチで結構。俺は損得勘定は大事にするタチなの。


「まぁまぁ、ミシェル。ここにいる悪魔さん達も、みんなマッチョで素敵じゃない。ウフフ、私は特にスルトのエメリックさんが気になるわ。リヴィエルは?」

「皆様甲乙つけ難いほどに魅力的ですが……私は特に、ゴブリンヘッドのヒューマさんが気になります!」

「って、えぇ⁉︎ ラミュエルもリヴィエルも、いつの間にちゃっかりお相手見つけてるのさ! クゥ〜! だったら、お風呂でボクもお相手、見つけるもん! マモン、という事で……」

「ハイ、それも却下。当スパご利用の際は、それなりの貞操観念をお持ち頂きますよう、お願いしまーす。淫らな行為、及び、それに準ずる迷惑行為はご遠慮くださーい。混浴はあり得ませーん」

「あぁぁ! もう! 妙な敬語がなんか、メチャクチャムカつく〜!」

「ミシェル、落ち着け。この場合はどこまでも、マモンが言っている事が正しい」


 最後はルシファーまで出てきて、ミシェルを宥めているけど。天使様方の交流とやらが、どこかアスモデウスの花探しに似ている気がするのは、気のせいだろうか。しかも、この様子だと、コンスタントにこっちに彼女達が来ることになりそうだし……暫く、騒がしくなりそうだな……。

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