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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第10章】同じ空の下なのに
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10−38 猫に抗う1匹の窮鼠(後編)

「……抵抗の結果が、頭蓋骨ということか……」


 想像以上の鮮明な映像に、沈痛な空気に包まれる卓上。そうか……ルトニアは自分の存在を兄に伝えるために、頭蓋骨だけは死守したのか。それにしても……。


「……この記録の中に登場していた、オズリックの身元を洗った方が良さそうだな。ラミュエル、当時の魔法データは存在しているか?」

「えぇ、恐らくは。ただ……ルシエルが上げていた報告書にも、そんな履歴はなかった気が……」

「形状からあれは多分、地属性の……しかも、相当上位の魔法かと。そんなものが今の人間界で使われていた場合は、真っ先に魔力検知をしているはずです。気づかないとは、考えにくいのですが……」


 確かに、ハーヴェンに出会う前の私は、惰性的に人間界の監視をしていた。しかし、それを抜きにしても……ここまでの派手な魔法行使の履歴を見落とす程までには、落ちぶれていなかったと思う。


「まぁ、お前のことだ。そんなつまらないミスはせんだろうよ。このオズリックが向こう側の奴であるならば、監視システムに関してもある程度、知っているだろうから……魔力が隠蔽されていたとしても、不思議はなかろう。魔法行使の履歴を残すなんていうヘマもせんだろうし、様子を見ている限り……こいつは札付きの精霊の可能性が高い。で、実を言えば……同じような例が、つい最近にも確認されている。所定の方法を利用すれば、塔の検知に引っかからずとも、魔法を発動することができるのだろう。その辺りに関しては、『嵐を呼ぶ愛の連携魔法』にもしっかり記載があった」


 そこで呪いの書のタイトルを出さないで欲しいのだが。ルシフェル様の言わんとしている事象についても、すぐに思い当たり……すんなりと納得する自分がいる。


「そう言うこと、ですか……。アヴィエル襲撃の時、ゲルニカ……バハムートも詠唱もなく、相当上位の回復魔法を使ったり、100連以上のファイアボールを展開していました」


 具体的な仕組みはゲルニカに聞いてみないと、分からないが。あれだけの魔法にも関わらず、彼が使った魔法は塔の検知履歴には残っていない。しかも、魔法発動に絶対不可欠なはずの詠唱を挟んでいないのを考えても、この辺りに抜け道があると見て、良さそうか。


「オズリックが詠唱をしている様子がなかったのを見ても、発動メカニズムはゲルニカと同じものと判断してよいでしょう。そして……おそらくオズリック自身も竜族、ないし、それに近い種族である可能性が高いと思われます」

「ふむ……向こう側には竜族の協力者がいるか、或いはべへモスと同じく精霊化に成功した者がいるか……のいずれかの可能性が出てきたということか。……竜族は魔力の扱いに殊に長けている種族だ。かつて世界の調律を担っていたという側面を持ち合わせる以上、知識の深さは我々以上のものがあってもおかしくない。この場合、素直にバハムートに協力を仰ぐのが手っ取り早いか。そういう事で、ルシエル」

「かしこまりました。私の方からバハムートに説明と協力をお願いをしておきます。事が事ですし……おそらくゲルニカであれば、快く引き受けてくれるでしょう」


 あの竜神様は実力も去ることながら、お人好し加減も高レベルだ。……ハーヴェンといい勝負だと思う。


「うむ、頼んだぞ。その上で、ラミュエル。お前はこのオズリックが何者なのかを特定しろ。さっき彼自身が“他の仕事が忙しくなった”と言っていた以上、何かしらの役目を帯びている可能性も考えられる。ある程度の人員を投入し、速やかに情報を集めてこい」

「承知しました。まずは今までの報告書を精査し、その上で人員を選抜……オズリックの確保を最終目標として、事に当たることにします」

「そうだな。排除部隊の人員も動かせるよう、オーディエルには私の方から申し伝えておく。それと、ミシェル!」

「は〜い、分かってますよ。塔の改良、ですね」

「あぁ。今回の場合、詠唱なしという部分が抜け道になっているだろう。魔力反応を拾う条件を拡張し、魔力反応全てを検知できるように構築し直すのだ。その上で、レイライン上以外も監視対象に含められるよう、改良しておけ」

「全く、簡単に言ってくれますね〜。それ、ちょっと面倒ですよ?」


 ミシェル様の口調からするに、改良自体はアッサリとやってのけそうだが……。それはつまり、精査対象のデータ量も増えるということだ。ミシェル様だけでは、手が足りない気がする。


「分かっている。レイライン上にない、という事は魔力反応が薄いという事だ。だが、全くの0でもないだろう。なので、微かな検知でもきちんと拾えるようにしておけ。……その上で、データ精査は私が逐一行う。お前だけに負担を強いるつもりもない」

「あ、そういう事ですか。精査はルシフェル様がしてくれるんですね。じゃぁ、張り切って余計なものも拾えるように拡張しておきます」

「……う、うむ。……まぁ、ある程度はそれも致し方ないか……」


 ミシェル様。余計なものは、拾わなくていいと思います。こんな調子で、果たして大丈夫だろうか。


「しかし……仮にオズリックが竜族だったとして、どうして最上位の精霊が向こう側に加担しているのでしょうか?」

「さぁな。ただ、竜族にもそれなりに泥臭い部分があるのかもしれん。神にも近しい存在と言われてはいるが、エルノアを見る限り、そうとも言い切れん部分もあるのではないか? まぁ、あれはまだ子供だろうが……それを差し置いても、彼らも完全無欠ではなかろう。……内々に何か揉め事でもあったのかもしれん」


 揉め事、か。少し前……確か、テュカチアの妊娠が分かってすぐだったか。彼女の姉が竜女帝を毒殺しようとしたとかで、逃走中だとハーヴェンが言っていたが。大物の竜族が別の世界に出ていった割にはその後、彼女の痕跡は見つかっていない。いくら竜族とは言え、これだけ時間が経っている以上、彼女が生き延びている可能性は低い気がするが……もし生きているのなら、どこで何をしているのだろう?

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