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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第10章】同じ空の下なのに
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10−31 迷惑な客

 ハーヴェンから病院の「隠し部屋」については、少しは聞いていたが。流石に孤児院として運営するには、異常な光景は消し去りたかったのだろう。ネデルの話によると、コンラッドがある程度の調査を終えたところで、子供達の遊び場にとプレイルームを作っている最中なのだという。


「あんなに辛気臭かった部屋がこうも綺麗になっていると、却って違和感があるというか。相変わらず、真っ白なのが妙に落ち着かないな……」

「そうですね。一応、壁は子供達が思う存分落書きも含めてキャンパスにして楽しめるようにと、真っ白にしたのですが。実は、壁の改修時に妙なものが見つかりまして……」


 何やら落ち着かないハーヴェンに答える形で、ネデルが「妙なもの」の説明を始める。昨日の報告では、見つかったのは、持ち主不明の「あるもの」という話だったが……。


「この部分の壁だけ他の場所より脆かったので、耐久性が損なわれてはいけないと思い、強度の確認で少し掘ってみたのです。そうしましたら……子供のものと思われる、頭蓋骨が見つかりました」


 そうして、事も無げに架けられていた絵を外して、その場所を指し示すネデル。いくら壁紙を貼り直しているとは言え……隠蔽方法が少々雑な気がするのは、杞憂だろうか。


「頭蓋骨……」

「えぇ。この丸い窪み部分の奥まった所に埋まっていまして……頭蓋骨ごと、何かに締め付けられたような痕跡があり、不完全な状態ではありましたが。鼻梁と顎の部分は割合、綺麗に残っていました」


 ネデルが指でなぞる壁紙には確かに、それらしい跡がうっすらと残っている。一方で……どこぞのミステリーよろしく、サスペンス感を一気に醸し出した光景に、必要以上に怯え始めるハーヴェン。


「……幽霊が平気な奴が、どうして骨1つで怯えるんだ?」

「いや、だってさ……まさか、この病院が本格的に事故物件だなんて、思いもしなかったし……。と言うか、幽霊と死体は別物なの! 幽霊は説得もお祓いもできるけど、魂の乗っていない死体は怖いんだよ。仕方ないだろ!」

「そんなものなのか?」

「そんなものなの。話が通じない相手は、俺としてはとにかくやり辛い」


 私に言わせれば、両方一緒だと思うけどな。寧ろ、話が通じる分、幽霊の方がやりにくい気がするが。


「フゥン? まぁ、それはともかく……。その頭蓋骨は今、どこに?」

「昨日の報告と一緒に引き上げまして。現在はミシェル様の部隊で鑑識中です」

「あぁ、なるほど。頭が残っていれば、魂の持ち主はある程度、判別できるだろうし……。どうしてこんな所に埋められなければいけなかったのかも含めて、結果も出るかな……」

「恐らくは。魂が特定できれば、ある程度の記憶の遡上は可能でしょう。場合によっては、転生待ちでまだ神界に留まっているかも。何れにしても、この場所は神父様の手でお清めも済んでおりますので、これ以上は心配する必要もないと思いますよ」


 お清めはコンラッドの得意分野でもあるだろうが、それをしたからと言って、気持ちよく使えるかは別問題だと思う。壁紙で隠したところで、そんな物が埋まっていた場所を遊び場にしても大丈夫なんだろうか。


「その持ち主はどんな思いで、こんな所にいたんだろうなぁ。けど……そうなるとこの病院、元から曰く付きだったって事だよな?」

「かもしれないな。まぁ、その辺りも鑑定結果次第でちゃんと分かるだろう。何れにしても、これからは子供達の笑顔で溢れる場所になればいいなと思うよ」

「そうですね。私もそうできるように、頑張りますわ」

「そうだな。少なくとも、子供達には心配させるような事はないようにしないとな」


 3人で確認しあった後、食堂に戻ろうとする途中で……何やら、中庭の方が騒がしいことに気づく。廊下の窓からそちらを窺うと、噴水の前にコンラッドとザフィールの姿が見えるが……来客だろうか?


「今日はお客様の予定はルシエル様達以外には、なかったと思いますが。……何があったのでしょうか?」

「もしかして……ちょっと迷惑な客がやってきた感じかな?」


 コンラッドが対面している相手は1人ではなく、見ればかなりの大人数で囲まれているようで……ハーヴェンがの指摘通り、心なしかザフィールの後ろ姿が不機嫌気味に映る。


「……ネデルは一旦、食堂へ戻ってください。私とハーヴェンで様子を見に行きます」

「は、はい。それにしても、何でしょうか? あれは何かのインタビュー……かしら?」

「あ。言われれば、確かに。曰く付きの物件を買い取ったのがどんな奴か、みんな興味津々って感じか?」


 普通は幽霊騒ぎで人が寄りつかなかった病院を、買い取って使おうなんて者がいるとは思わないだろう。周囲の好奇心を集めに集めたらしい結果が、あの人だかりという訳か。

 そんな事を考えながら、廊下の勝手口から騒ぎの方へ向かってみると、その群衆が興味本位で集まってき者でもない事がなんとなく匂ってくる。ザフィールが時折、苛立ちげに応じているのを聞く限り……まさか、揉め事か?

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