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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第10章】同じ空の下なのに
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10−21 クロヒメの希望

 金の砂漠を渡り切った心地よい夜風に吹かれながら、クロヒメはボンヤリと今日の出来事を思い出していた。

 マハに連れられて出産祝いにとゲルニカの所に出かけてみると、偶然にもハーヴェン達も彼の屋敷に揃っていた。ルシエルは一足先に帰ったという事だったが、それはともかく、久しぶりに敬愛するお頭に直接会えたのは、純粋に嬉しい。

 基本的に真面目なハーヴェンは、かなり筆まめな方だ。だからクロヒメの交換日記には必ず、次の日には返事を寄越してくれている。しかし直接会えば、文通のそれとは比べ物にならないくらいに話が弾む訳で。しかし、他愛のない話が弾んだ割には、肝心の「方法」はクロヒメの希望を叶えるには途方もない程に……惨憺たる内容だった。


(……)


《そう言えば、ギノ君》

《あ、はい! どうしましたか、マハ様》

《うん。ラヴァクールに聞いたんだけど……君、もう最上位魔法まで使えるようになったんだって? こう言うと、なんだけど……元々人間だった君が、こんなにも早く魔法を扱えるようになったのが、不思議でね。……恥ずかしながら、僕は魔法はあまり得意じゃない部分があってさ。だから、どうしたらそんな風にメキメキと上達できるのか、教えて欲しいんだ》

《そんな……僕はまだまだです。きっと、マハ様には到底及びません。父さまやハーヴェンさんに、色々と的確なアドバイスをもらえていましたし。……そのお陰だと思います》

《そっか……それじゃぁ、その辺はゲルニカに聞くとして……それにしても、今時、デミエレメントから昇華するなんて。……本当に稀有なこともあるもんだね、ゲルニカ》

《そうですね。ただ、ギノ君のそれは……少々、特殊な例でして》

《おや、そうなのかい?》

《えぇ……なんでも、人間界で無理やり精霊化させられてしまったみたいで……》

《僕自身は運よく、マスター達に助けてもらえて、こうして生き延びられたんですけど……。一緒にいた他の子達はみんな……精霊化実験の犠牲になって……》

《あぁ、そうだったんだ。……ごめんよ、変なことを聞いてしまって。目出度い席で聞くべき内容じゃなかったよね。それはともかく、君もルノ君も貴重なハイエレメント持ちなんだ。これ程までに素晴らしいこともないだろう。うん、竜界の未来を考えるという意味でも……君が生き延びたという意味でも。喜ばしいことじゃないか。ねぇ、クロヒメ》


(……)


 ギノ自身の言葉を借りるのなら。精霊化実験の結果に、彼は竜族になったということになる。

 ハーヴェンからの返事にも具体的な内容は書かれていなかったし、そもそもの方法自体は彼自身も知らないと記されていたが。少なくとも、その経緯がクロヒメの手の届くものではないことくらいは、すぐに分かる。それどころか……間違いなく、倫理的にも禁忌の秘術である事は明白だ。


(こうなったら、人間界に行って……。いいえ、私が出かけて行ったところで、どうこうできる話ではないわ……)


 そもそも、ギノをそんな風に「弄んだ」相手が誰かすらも知らされていない。手がかりもない状態で、で広大な人間界に出かけてみても、最下級悪魔程度に生き延びる術などなく。すぐに野垂れ死ぬのは、目に見えている。

 それ以前に、クロヒメは単体で人間界へ出る方策すら与えられていない。異世界間ポータルを構築することは、相当上位の悪魔でないと不可能な事なのだ。ハーヴェンは普段から、何気なくポータル魔法も自由自在に使いこなしているが……それはあくまで彼が上級悪魔だからであって、ハーヴェンとクロヒメとでは、悪魔としての性能が違い過ぎる。であれば、残る手段は……。


(ベルゼブブ様に相談してみようかしら……? それとも、お頭に相談するべきかしら。この際は正直に……あぁ、でも。それでお頭を困らせるのは……やっぱり、いけないわ……)


 そこまで考えて、ふと首元のサンクチュアリピースに手をやりながら……困らせるならハーヴェンよりも、ベルゼブブだと思い直す。もしかしたら魔界の真祖であれば、他の手段を知っているかもしれない。そうだ、この場合はベルゼブブに相談しよう。

 暴食の真祖は魔界でも類を見ない、いい加減な性格の悪魔だが。それでも、配下への面倒見の良さも抜群だ。きっと彼なら、相談に乗る位はしてくれるに違いない。

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