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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第10章】同じ空の下なのに
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10−19 圧倒的な包容力の差

「あぁ。そう言えば、忘れるところだった。是光ちゃんとの約束の書類ができたから、マモンに渡しておいて」


 思いの外、リッテルと旦那話で盛り上がってしまったので、宿題の存在も忘れかけたが。既のところで使命も思い出し、ようやく作り上げた神界の人員リストをリッテルに手渡す。ベースは精霊帳を参考にしているので、都度更新が必要だが……現状は最新の状態になっているので、今はそれを確認してもらえばいいだろう。


「すごい、こんなにも緻密な情報を網羅するなんて。……流石、ルシエル様です」

「いや、大した事はしてないよ。名簿に関しては、資料があったし……個々の性格や能力に関しては、マナがきちんと把握しているみたいだったから、ルシフェル様経由でデータ化しただけだし。私がした事は、組織毎に実力順で並べ替えただけだよ」

「そうなのですか? それにしても……天使の総数って意外と少ないんですね。もっといると思っていたんですけど、300人位しかいないなんて、思いもしませんでした」


 それは私も同感だ。改めて人員構成に目を向ける機会があったから、気づけたものの。現代の天使は総勢でも300人程しかいないらしく……何度数え直しても、人数が間違っているわけでもなさそうだった。


「私も300切っているとは、思いもしなかったな。リッテルが纏めてくれた資料の中にもあったけど……サタンの配下だけでも200人以上いることを考えても、悪魔側の方が圧倒的に勢力は上だと考えるべきだろう」


 ここまで総数に差があるとなると、エレメントの優位性など、些細なアドバンテージにしかならない。その上、マモンやベルゼブブを始め、悪魔達は個々の能力も非常に高いのだ。これを機に、天使が悪魔に対して圧倒的有利だという驕りはキッパリと捨てたほうがいいだろう。


「しかしながら、天使の総数が浮き彫りになったのには少々、マズい部分もあって……。リッテル。悪いのだけど、そのリストは……」

「えぇ、承知しました。……主人には他の悪魔さんに見せないよう、お願いしておきます。彼は軽はずみな事をする人ではありませんが、万が一もありますし……この勢力図を目にして、良からぬ事を考える悪魔さんがいないとは保証できません。その上で、こちら側に協力してくれる悪魔さんを増やせるように、私も頑張ります」


 流石、気配り上手なリッテルだ。皆まで言わずとも、私の懸念事項にもすんなりと理解を示してくる。


「そうだね。マモンを疑うわけじゃないけれど、現状で悪魔が危険な相手なのはあまり変わっていない。……ルシフェル様も、この差を憂慮されていてね。それで、交流の意味も含めて……手始めにマモンのお弟子さん相手に、回復魔法要員を適宜派遣することにしたんだ。リッテルは確か、魔界行きのサンクチュアリピースを持っていたよね。その鍵で魔界にお邪魔したいんだけど、大丈夫だろうか」

「皆さんの様子を見ていても、大丈夫だと思いますが……こればかりは、主人にも確認しないと」

「うん。それで構わない。彼の返事次第で、こちら側は準備することにするから。迷惑がられるようだったら、無理強いはしなくていいよ」

「はい。何れにしても、リストは主人に渡しておきます。今日もありがとうございます」

「いいえ、こちらこそ。マモンにも、よろしく伝えておいてね。あぁ、それと……」

「?」


 リッテルの前を通過して、入り口ドアを勢いよく引いてみると……情けなく、数人の天使がこちら側に転がり込んでくる。先程までの静けさの「嫌な予感」がこうも的中すると、もう何も言えない。


「ミシェル様……こんな所で、何を遊んでいるんですか……?」

「いやぁ……扉が閉まっているもんだから、何してるのかなって……」

「そ、そうですよ! いつもは開いている扉が閉まっていれば、気になるじゃないですか」

「ほほぉ……? で、さっきの話はどこまで盗み聞きされていたんですか?」

「えっと、アスモデウスがオシャレさんってあたりから……です」


 ……それ、ほぼ始めからじゃないか。


「あっ、ルシエル! ちょ、ちょっと待って! 別に悪意はないんだよ、悪意は!」

「問答無用! 今日という今日は、許しません! お行儀の悪さも含めて……徹底的にお仕置きを実施します! ミシェル様にローエル、フィーネルには今後、魔界への派遣任務は一切無いものとお考えください! いいですね⁉︎」

「えっ! ちょ、ちょっと待ってよ、ルシエル!」

「そ、それとこれとは、話が別と言うか」

「そうですよ! それに、お仕置きって……どんな事をされるんでしょうか……?」

「それはルシフェル様と相談します。……任務を放って盗み聞きに精を出している以上、厳しい対処になると思いますので、ご覚悟を」


 わざと冷たく接してみると、ワナワナと恐怖で震え出す、大天使含む3名様。彼女達の震えの強度は、ルシフェル様の名前を出したからだろう。手っ取り早く反省させるには、天使長様の威厳をチラつかせるのが効果的だと……私も知らぬ訳ではない。


「ルシエル様。そこまでしなくても、いいのでは?」

「どうして? リッテルだって、盗み聞きされたら気分も良くないでしょ?」

「そうですね……。でも、私も知りたい事がたくさんあって、サンドスニーキングまで使って盗み聞きをしたこともありましたし……ミシェル様達の気持ちも、痛いほど分かるというか。全てをオープンにする必要はないと思いますが、秘密が皆さんのお仕事に支障を出しているのであれば、ある程度は教えてあげてもいいと思うのです。気になるものは気になるのですから、仕方ないでしょう?」

「……そんなものかな……」

「そんなものです。神界には、心ときめく事が本当にないんですから。お仕事を放り出してまでする事ではないと思いますが、息抜きに魔界のお話をして差し上げるのは、悪い事じゃないと思います」

「そう。リッテルがそこまで言うんなら、今回に限り、不問とします。ただし! 次からは盗み聞きはしないように! それと、余興はお仕事をきちんと終わらせてから! それでなくても、例の風穴の問題でオーディエル様が手こずっていると聞きましたよ? こんな時は神界の入退室データを把握している、ミシェル様の出番ではないのですか?」

「あ、そうだよね……うん。今日はお仕事に戻るよ……リッテル。今度、魔界の話聞かせてね」

「はい。次はジェイドさんのお話を集めてきますね。ですから、皆さんもお仕事、頑張ってください」


 ジェイドの名前を出した途端に嬉しそうに興奮した後、仕事に戻り始めたミシェル様達を見送って、優しく微笑むリッテル。きっと彼女は向こうでたくさんの悪魔達に囲まれて、相手の気持ちを読み取るスキルも磨いていたのだろう。餌のチョイスも水の向け方も効果的な上に、そんな風に優しくされれば天使だけじゃなく、大抵の悪魔も彼女に靡く気がする。

 しかし……何なんだろうな、この圧倒的な包容力の差は。私も魔界で暮せば……もう少し、女子力とやらを身に付けられるのだろうか。

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