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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第10章】同じ空の下なのに
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10−12 いよいよ悪魔失格

「……ったく、本当に単純なんだから。まぁ、いいか。で、リッテル。この絵はどこに飾ろうか?」


 お土産の進呈も無事終わり、小悪魔共が大人しくなったのを見計らっては、リッテルに絵の配置について相談してみる。こういうのってセンスとか、色々と必要なんだろうけど……インテリアに凝ったこともないもんだから、嫁さんと一緒の方が効率もいい気がする。


「そうね……。庭園の絵は階段の踊り場に飾ったら、どうかしら?」

「そうだな。えぇと……じゃぁ、この海の絵はこの部屋に飾るか。で……うん。これは寝室にしよう」


 陰気な家の空気を変えようと、選んできた絵は全部で4枚。中でも、割合大きめの海と綺麗な夕日の絵を目の前の壁に架けると、途端に雰囲気が明るくなった気がする。


「まぁ、素敵。……青い空もいいけど、夕日の絵も綺麗ね」

「そうだな。しかし、人間界ってのは……こんなに綺麗な絵も、銀貨1枚程度で手に入るんだな。これもそうだけど……ちょっと安すぎやしないか?」


 模造品じゃないんだよなー。全部、肉筆なんだよなー。金の価値は今ひとつ、掴みきれていないが。……労力と対価が割に合ってないと思うのは、俺だけだろうか。


「えぇ……。きっとこの絵だって、絵描きさんが一生懸命描いたと思うのだけど……。どうしても絵の価値というのは、画家さんの知名度に左右される部分も大きくて。後からその画家さんが有名になっただけで、元々はあまり高くなかった絵も高額になったりするの……」


 人間界って、妙に世知辛い気がする……。上手くて綺麗だったら、きちんとした金額で買ってやれよ。絵のクオリティは変わらないのに、知名度で値段が変わるって……人間の価値観って、なんか理不尽だよな。


「フゥン……そういうもんなのかな? 絵の価値はどうあれ、俺は気に入った絵が飾れれば、それでいいんだけど。特に……最後に見つけたヴァンダートの風景画は、かなり気に入ってる」

「まさか、あなたがあんなに勢いよくこれ下さい、なんて言うと思わなかったわ。素直で可愛いんだから」

「ゔ……。空の青い色も気に入ったし、構図もいい感じだったし……。城跡の寂れた空気が変に気取ってなくて、自分の好みに合っているというか……」

「そうね。賑やかな絵もいいと思うけど、自然な風景を描いた作品はその場所の空気さえも一緒に伝えてくれるようで、ただ眺めているだけでも清々しい気分になるの。あの絵は青空をも一緒に持ち帰ってきた気にさせてくれる、とても素敵な絵だと思うわ」


 俺が選んだ絵は、概ね嫁さんにも好評らしい。こうして話し合えば、絵の好みも近いように思えて、ちょっと嬉しくなる……と、思いきや。残念なことに、絵の好みがピッタンコなワケじゃないんだよなぁ。リッテルが知れっと、変な絵をチョイスしてたし……。


「うん……でもさ。だったら、リッテルの選んだアレは何なんだよ……」

「あら? 何がダメなの?」

「いや……だって。満月はいいとして、中央のはどう見ても……」

「忘れたの? 私、怪盗・グリードの大ファンなんだけど。1枚くらい、人物画があってもいいじゃない」

「人物画はいいんだけど……選りに選って、あれを選ぶことはないだろうよ……」

「もう! 文句言わないの! あの絵は廊下の突き当たりに飾りますからね。いい?」

「えっ? あんな目立つ場所に飾るのか……?」

「勿論よ!」


 廊下の突き当たりって事は、玄関を入った途端に目につくという事であり……この家にやってきた奴の視界に否応無しに入るという事になるのだが。……ベルゼブブに必要以上にからかわれる気がして、目眩がする。


「……ママは他の男の人のファンなのです?」

「ゔ……ママ、どこかに行っちゃうのですか?」


 そうしてちょっとした頭痛のタネが増えたところで、クランとゴジが口を挟んでくる。……お前ら、お土産に夢中じゃなかったのかよ。


「まさか。パパ以外の所になんて、行かないわ」

「でも、さっきパパ以外の人のファンだって……」

「怪盗・グリートはパパが人間界で活躍していた時のお名前なのよ? 要するに、ママはパパの大ファンって事なの。だから、心配はいらないわ」

「そうなのです?」

「パパ、人間界でも有名なのです?」

「待て待て、違うし! ほら、この間お前らもしっかり盗み聞きしてたろーが。ヴァンダートの話が変な方向に広まっただけだ!」

「あっ! そう言えば、そうでした!」

「格好良くて、優しいパパの話!」


 格好良いはともかく……あの話で優しい認定される俺って、本当に何なんだろう……。いよいよ悪魔失格かもしれない。


「フフフ〜ん? 随分と楽しそうだね?」

「……マモンの家、初めて入るけど……あら。結構、洒落てるじゃない」

「誰かと思えば……お前らは本当に、無神経にズカズカと……。どうして、ナチュラルにこんな所にまで、勝手に上がり込んでるんだ……?」

「ひゃっ……アスモデウスしゃま……」


 グレムリンにまでそんな事を言われながら、ゲンナリしている俺の背後には……これまた、嫌な予感しかしない顔ぶれが並んでいる。恐ろしい女帝の登場に、俺の背後に隠れ始めるハンスと、それが気に入らないと睨みつける鬼ババア。それにしてもベルゼブブもだが、どうしてアスモデウスまでこんな所にいるんだよ……。


「……お前ら、何か用? 見ての通り、俺達は忙しいんだけど」

「えぇ〜? だってお土産買ってきてくれるって、約束したじゃなーい。しかも、小悪魔ちゃん達は美味しそうなお菓子食べてるし。ベルちゃんにもお菓子、頂戴〜」

「図々しいのも、ここまでくると立派だよな……リッテル、悪い。この物乞いにもチャッチャと土産渡して、帰ってもらってくれる?」

「あ、はい。えぇと……ベルゼブブ様には、こちらを買ってきました。どうぞご賞味下さい」

「うん、ありがとう! これ、どんなお菓子だろう〜?」

「ふ〜ん……随分と鮮やかなお菓子ね。彩りもいいし……人間界も捨てたもんじゃないってことかしら?」


 嫁さんが渡したギモーヴとやらの詰め合わせに早速、手を伸ばすお邪魔虫2人。ベルゼブブ用に派手な色合いのお菓子を選んできたが、嫁さんチョイスということもあり、色彩のまとまり感は絶妙な感じで……補色で目にダメージが入るなんて事はなさそうだ。


「おぉ! これはまた、新食感のお菓子だね〜。フニフニで柔らかいけど……あ、ちょっと反抗的な歯ごたえがたまらないっていうか」

「結構、イケるじゃない。……意外と自然な味がするわね」

「……試食は自分の家に帰ってからにしてくんないかな。これ以上、邪魔しないでくれよ……」

「えぇ〜? ちょっとくらい、僕達にもお土産話聞かせてくれてもいいじゃなーい。しかも、マモンも地味〜にめかし込んじゃって。……ね、そのお洋服、どうしたの?」


 それこそ、お前らには関係ないだろうが。特にベルゼブブには、服のセンスどうこうは言われたくない。


「……別に。人間界をフラつく時に目立たないように、それなりに考慮しただけだし」

「あら。それにしては、随分と似合っているじゃない。……そのセンスはお嫁さんのチョイスかしら?」

「あ、いいえ……お店の店員さんに見繕って頂きました。……どうです? ピシッとしているのが素敵だと思うのですけど、その中に絶妙な可愛さがあるというか。特に、帽子とストリングタイがキュートだと思いません?」

「ウンウン、確かに! もぅ、マモンったら人間界でお買い物するために、一生懸命お着替えしてみたの?」

「いや、そういうわけじゃ……」


 キュートに、一生懸命お着替え……? 俺、そんな言われ方したの、冗談抜きで初めてなんだけど……?

 そうして、何故か話が合うらしい嫁さんとアスモデウスから、あからさまに縁がなかった褒め言葉を頂いて……ただただ、何かが薄ら寒い。


「フフフ……アッハハハハ! もう〜、マモンも可愛いったらないわ。お嫁さんと一緒に買い物に繰り出したらしいって、ベルゼブブから聞いてたけど! 魔界の真祖様が人間界に馴染もうとするなんて、健気すぎるじゃない〜! 昔の暴れん坊はどこに行っちゃったのかしら?」

「……昔のことは忘れてくれないかな。別に俺は俺だし。ただ今は契約している身の上なもんだから、オイタができないだけで……向こうさんに迷惑をかけるような真似をしたら、丸ごと嫁さんの責任になっちまう。そんな事になったら、今度こそ……一緒にいられなくなるかもしれないし」


 ため息交じりで渋々と答えると……なぜか、その場の全員がシンと静まり返った。えっと……俺、変なこと言ったか?


「……なるほど、なるほど。アスモデウス。これ以上は邪魔しちゃ悪いかも〜」

「ったく、仕方ないわね〜。分かったわよ。にしても、本当にあのマモンがね〜……ウッフフッフフフ! 今日も面白いネタが上がったから早速、ばらまいちゃおうっと」

「えっと……今のどの辺の何が、そんなに面白いネタになるんだ……? リッテルは分かる?」

「えぇ、それとなく……」


 曖昧な返事をしながら俺の腕に抱きつきつつ、赤くなって俯く嫁さんだけど。俺には、何が問題だったのかサッパリ分からない。そうしてどこか置いてけぼりの気分にさせられたまま、ベルゼブブとアスモデウスが嫌な予感しかしない様子で帰っていく。結果はどうあれ、お邪魔虫を体良く追い払えて……一安心といったところか?


「よく分かんないけど……いいか。とにかく、残りの絵を飾るぞ」

「はい。……今日は本当に最初から最後まで、楽しかったわ。……ありがとう、あなた」

「……最後まで、がなーんか引っかかるんだけど……リッテルが楽しかったんなら、それでいいよ」


 そんな事を2人で言いながら、目の前の海にもう1度視線を戻して……今日の事を色々と思い返す。

 リッテルに群がる害虫のせいで不愉快な思いもさせられたけど、俺も初めての事ばかりで楽しかったのだし……彼女が隣で嬉しそうにしているのが、何よりも嬉しい。今度はこの景色と同じような海を、一緒に見に行ければいいな。

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