10−11 自分の家なのに何のトラップだよ
「ただいま〜……って、オワッ⁉︎」
ドアを開けた途端に、挨拶も待たずに4人の小悪魔達がいきなり飛びついてくる。とにかく待ちきれなかったのだろう、今日もドアの裏側で待っていたらしい。しかし……勢いよくくっ付かれると、言葉よりも先に体勢を整えるのが、精一杯だ。
「まぁまぁ……みんな、そんなに慌ててどうしたの?」
「あ、ママ!」
「お帰りです!」
「僕達、いい子で待っていましたよぅ?」
「ハイでしゅ!」
「ただいま。あのね、みんな。とにかく、パパから降りて。お土産を配れないでしょ?」
リッテルがそこまで言って、ようやく俺から降りるグレムリン達だが。……自分の家なのに何のトラップだよ、コレ。
「……ったく、飛びつくならママの方にしとけよ。何で、俺の方に揃いも揃って……」
「だって、パパの方が強いです」
「パパの方が偉いです」
「アチシはくっつくなら、パパの方がいいでしゅ」
「パパの方が面積が大きいです!」
「ハイハイ、またよく分かんないこと言ってるが……とにかく、奥に引っ込め。お土産の進呈はそっちでするから」
「はーい……」
俺の言う事を仕方なしに聞き分けて。奥へ戻る小悪魔達の姿に、リッテルがクスクスと笑っている。随分と楽しそうだが、どの辺が面白かったんだろうか?
「……何がそんなに可笑しいんだよ……」
「だって……フフフ。みんな、あんなに嬉しそうで……あなたもパパって言われても、怒らなくなったし。何でしょう、それがとても可笑しくて」
「いや、さ……今更、修正するのも面倒だし。俺も慣れちまった」
「そう?」
そんな事を言いながら、いつも通り奥の部屋のソファに身を投げ出すと。一層目を輝かせて、何かをせがむように俺の膝の前に4人が並ぶ。勿体ぶったところで仕方がないし、特にお預けする必要もないのだが。何で、こいつらは……こんなにも俺相手にさえ、嬉しそうなのだろう。
「あの、さ……少し前から疑問だったんだけど。お前らは何が楽しくて、そんなにも俺にくっ付こうとするんだ? リッテルならともかく……俺に突然斬り捨てられたり、殺されるかもって思ったりしないのかよ?」
「そんな事、思わないですよぅ?」
「パパは強くて、優しいです」
「……俺、優しかったことなんて、あったか?」
「ママがいなかった時、抱っこしてくれたです!」
「もぅ、パパったら、何を言ってるんでしゅか〜。自分がもの凄くお人好しなの、自覚ないんでしゅ?」
お人好し? 俺が……か? いやいやいや、いくらなんでも……それはないだろう?
俺が混乱している横で……リッテルが更に嬉しそうに笑っている。今日は泣いたり笑ったりと忙しいようだが、嫁さんが楽しそうなのは悪いことじゃないか。しかし、いつから俺は小悪魔にさえ怖がられなくなったんだろう。真祖としての威厳……どこかに落としてきたっぽい。
「あぁ、もういいや。サクッとお土産を配るとするか。ホラホラ、お土産はママが持ってるから、そっちに行った行った」
「はーい!」
俺が諦めついでにおねだりの矛先をリッテルに向けると、今度はママの前でソワソワし始める小悪魔共。そうしてママはママで彼らの期待に応えるかのように、この上なく優しい表情をして、2種類のお菓子を1つずつ、丁寧に手渡す。
「ママ、これ……何のお菓子でしゅ?」
「そっちの箱はギモーヴというお菓子で、フランボワーズ味とオレンジ味を選んでみたわ。でね、小瓶の方はキャンディの詰め合わせよ」
「わぁ〜……たくさん入ってるです!」
「これ、1つずつもらっていいんですか?」
「もちろん。みんなに1つずつ買ってきたから、大事に食べてね」
「ありがとうです!」
それぞれの手元に菓子が行き渡ると、今度は向かい側のソファに座って、大人しく土産を堪能し始める小悪魔達だが……こんなにすぐ大人しくなるんだったら、サッサと渡してしまうんだった。こうも素直な姿を目の当たりにすると、今度はちょっと悔しくなってくる。というか俺、冗談抜きで抱き付かれ損じゃん。この遣る瀬ない気分、どうしてくれるんだよ。




