表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第9章】物語の続きは腕の中で
374/1100

9−49 悪魔人形と魔王人形(+おまけNo.7)

 不意に上がった「知り合い」の名前に、その場が水を打ったように静まり返る。不意に訪れた静寂に、きっとそれなりの責任を取るつもりなのだろう。ルシフェル様が、やや疲れた様子で話の続きを語り出した。


「それはそれは……驚くよな。原因の一端は我々にも多少、あったようだが。……人間界の暦で、1323年前の事だ。ヴァンダートには、とても美しい姫君がいた。しかし、病弱な王妃が残した姫君も体が弱かった上に……ある日、彼女の腹に聖痕が浮かび上がってな。王は毎晩毎晩神に祈ったが、娘の容体は上向くどころか……まるで神が早くその娘を差し出せと言っているかのように、彼女はとうとう不治の病・瘴気黄熱に罹患した」


 瘴気黄熱。

 瘴気の毒気に血液が冒される病気で、瘴気に対する融和因子を持っている者しかかからない……一種の遺伝病だと記憶している。この病気自体を治すには瘴気そのものを払うしかないが、それ以前に、罹患者を出した一族は融和因子ごと根絶やしにされるのが、通例だったかと思う。

 何れにしても、瘴気を払う技術は今も昔も、人間に持たされた事はない。瘴気の濃度に関わらず、人間は今まで瘴気に向き合う事はせず、ただひたすら避けてきた。故に、瘴気黄熱は未だに「不治の病」とされ続けている。


「無論、瘴気黄熱の罹患は神の意思ではない。だが、王は運命を呪い、神を見限り……とうとう姫の病気を知る者を皆殺しにし、その血を利用して悪魔召喚の儀式に手を出した。そうして、30人以上もの血で描かれた魔法陣の中心に、呼び出しに応じて現れたのは……漆黒の虎の面を着けた魔王だったそうだ」


 黒い虎の面。このフレーズをどこかで聞いた気がするが……今は気にするべきことではないだろうか。ルシフェル様の話の続きに耳を傾けると、次第に王朝が滅亡した理由が見えてくる。


「業の深さに王の闇堕ちを予見したのか、王の悲嘆に同情したのか。取るに足りない存在だったであろう人間の願いを叶えた本意はそれこそ、本人に聞かないと分からんが。マモンは王の願いを聞き届けると、瘴気を祓う霊薬を与え、その霊薬で姫の病気は忽ち快方に向かったという。だが……結局は王が悪魔との約束を違えたために、ヴァンダートは王族ごと滅ぼされたと伝えられている」


 悪魔に願いを託すには、見返りが必要。彼が見返りに何を望んだのかは、伝えられていないそうだが……魔界第一位の悪魔との約束を破るだなんて、王は相当に豪胆な人間だったのか。しかしながら、マモンは強欲の悪魔でもある。もしかしたら、人間には用意できないような対価を求めた可能性もゼロではないか……?


「まぁ、伝承として出回っているだけの内容だし、マモンの心中は正直、分からん。何れにしても、勝手に悪魔と交信した人間を見過ごすわけにもいかず……神界はマモンの討伐も含め、排除部隊の戦闘部隊を遣わしたのだが。当時の排除部隊長だったウリエルさえも降す程に、マモンは強かった。数多の攻撃にも関わらず、傷1つ付けることすら許さずに……とうとう業を煮やしたマモンは大量の雷の束を降らせて、天使もろともヴァンダートを焼き尽くした。流石にウリエルは辛うじて生き延びてきたが、他の70人程いた天使達は1人残らず殲滅されてな。考えれば……あれ以来、かなりの部分で神界は人手不足になった気がする……」


 排除部隊の天使70人を相手にしても、かすり傷すら負わなかった魔王。その魔王が、何故か今は下級天使の尻に敷かれているのだが。やはり美貌というのは、何にも勝る武器になり得るのかもしれない……。


「まぁ、その辺の話はいいとして。奴の雷の影響で、ヴァンダート一帯は異常なまでの魔力を残す結果になってな。今は随分と薄くなってきているようだが……そんな事があってから、ヴァンダートでは強い魔力を宿した鉱石・雷鳴石が産出されるようになった。人間界に出回っているものは偽物も多いが。オーディエルの話にあったストームプラチナの原料の片方は、天使の遺骸とマモンの魔力で生み出された、特殊鉱石なのだよ」

「それでラディウス砲の装備者は、その鉱石の魔力に常々晒されていた耐性がある者……ヴァンダートの出身者に限られるという事ですか」

「ルシフェル様の説明であらかた事情は網羅されていたが……要するに、そういう事だ。実はリヴィエル他2名と……適合者ではなかったが、一応、アヴィエルもヴァンダート出身だった。他にもヴァンダート出身者は居るにはいるが、どうも全員が装備できるわけでもないらしくてな。……適性については耐性以外の要因も、何かあるのかもしれん」


 アヴィエル襲撃の日……一時的とは言え、彼女が曲がりなりにもラディウス砲を発射できたのは、偶然ではなかったという事か。オーディエル様の答えになるほどと思いつつ、マモンが人間界にそんな痕跡を残しているなんて、思いもしなかったと改めて考える。


「脱線が長くなったが、今後はクージェの動向にも気を配らなければならなくなった。特に、熱エネルギー・ラディウスとやらが生み出される過程が我々の持っている原理と同じであれば、まだ救いはあるのだが。おそらく、人間界で神鉄……マナの禊を受けた白銀の調達が難しい事を考えても、別のものを素材にしていると考えた方が自然だろう。非常に嫌な予想だが、おそらく機神族や……竜族の骨等、特殊金属に同等以上の価値がある素材を利用していると邪推するのも、方向性は大きく間違ってはいまい。……そこでラミュエル」

「はい、承知しております。既にキュリエルとも相談し、クージェの監視担当を増員する方向で話を進めています」

「そうか。早急に頼むぞ。それと、オーディエルにはこの破片の調査を命じる。……その結果を元に、リッテルが見た者との関連性も究明するのだ」

「ハッ。承知しました」

「無論、現段階で分かっている範囲の情報は掲示にて共有を行う。別途告知する故、各員目を通した上で任務に励むように! 特に皆のリクエストに応えたマナの厚意で、悪魔人形と魔王人形が本日より交換リストに追加されている。それぞれチケット10000枚で交換可能となっている故、存分に働くがよかろう!」


 最後に話を締めくくるルシフェル様の宣告に、今日1番の熱気を見せるエントランスだが……悪魔人形と魔王人形? そのラインナップに嫌な予感がして、手元の交換リストカタログを確認すると。……そこには、精霊帳に記載されているエルダーウコバクの姿を模した人形と、黒い虎の仮面を着けた礼服姿の魔王らしき人形が追加されている。


「これは……? 一体、何がどうなって、ここにこんな物が追加されているのでしょうか? しかも、チケット10000枚って、かつては中級天使への昇進に必要なチケット数に相当したかと思いますが……」

「あら? ルシエルは知らなかったの? 先日、ルシフェル様がお土産にってハーヴェンちゃん人形を買ってきてくださったのだけど……。あまりに人数が足りないのと、取得条件が曖昧だった事もあって、チケットでの交換制に切り替えてくださったんですって。で、ほら! 私は早速、両方ともゲットしちゃた〜。ウフフ、ハーヴェンちゃんもいいけど、マモン様も素敵だわ。2人揃って机に立っていると、本当に可愛いんだから!」

「……それ、職権乱用って言うんですよ、ラミュエル様。……私達はチケットの交換し放題なのですから……」

「あら〜、ルシエルは相変わらず、真面目なんだから。その位はいいじゃない?」


 両手に無事ゲットしたと言う人形を抱えて、嬉しそうにフワフワし出すラミュエル様。事も無げに流されたが……2人の人形が手元にある時点で、20000枚分の交換を大天使の権威で行ったという事で。片方分の10000枚のチケットを貯めるのですら、どれ程までの労力が必要かご存知なのだろうか、この方は……。

 そうしてそんなラミュエル様を、さも羨ましいと他の天使達も集まってくるが。彼女達の眼差しが熱を帯びているのを感じて、クラクラする。


「あぁ〜! やっぱり、ジェントル系をゲットするべきかしら……」

「でも、ワイルド系も捨てがたいなぁ……。あぁ、いいなぁ……」

「みんなもゲットできるように頑張ってね。相談事があったら、私もお話を聞きますから〜」

「私はサタン様人形が欲しいのだが……そちらは果たして、ないものか……」


 さり気なく面倒見の良さもアピールしつつ、ラミュエル様のお言葉に返事をする天使達と、相変わらず明後日の方向を見つめながら、虚空に呟くオーディエル様。しかし……そうなると、ルシフェル様が持ち帰った人形はどこに行くのだろう?


「……ルシフェル様。それで、オリジナルのぬいぐるみはどこへ?」

「うむ? 13人とも私の机の上で仲良く並んでいるぞ? よく見ると、それぞれ顔つきが違ってな。今後は毎日お供にする子を変えて、楽しむことにした」

「……今、何と? お供にする子を変えて楽しむ?」


 そんな風にルシフェル様が言うものだから、所在を探ると……あろうことか腰の得物の柄に、かのぬいぐるみがぶら下がっているのが見える。ちょっと待て⁉︎ 幾ら何でも、至高の神具に悪魔のぬいぐるみをくっつける必要はないだろう⁉︎ どうしてそうなった⁉︎


「因みにな、1体はマナも気に入ったとかで、かの枝にぶら下げてある。マナもジェントル系若造派だそうだ」

「あぁ、そうですか……」

「で、マナから頼みがあるとかで、特別にお前にも悪魔人形と魔王人形を持ち帰らせるよう、指示があった。どうやら、若造派のマナもあやつの手料理と肉球を堪能したいらしい」

「……それ、どう考えても実現不可能ですよね……?」

「具体的にどうするかの明言はなかったが。事態が落ち着いたら、方法を考えると言っていたぞ」


 素気無くルシフェル様にも自分の違和感を流され、押し頂くように仕方なく人形を両手に受け取っても、もはや焦ることしかできない。まさか神界ぐるみで悪魔人形を愛でる日がくるなんて、思いもしなかったが。……そうして皆に愛でられる悪魔人形の様子に目眩を覚えながら、仕方なしにエントランスを後にする。

 ……とにかく、今日はもう帰ろう。今の私には、熱冷ましと休息が必要だ。私の氷の悪魔ならばきっと、熱冷ましはお手の物だろう。

※コンタローの呟き No.07


 皆さま、おはようです! 相変わらず、モコモコのコンタローでヤンすよ! 今回もちょっとした話題を振りまきに参上したでヤンす。

 早速、お題は……えっと……?


『天使様方の大きさについて』


 ……また、身長の話をすればいいんですかね?

 まず、姐さんは155センチくらいだと紹介しましたが。多分、姐さんは天使様達の中でもチビっこい方でヤンす。

 で、最近よく屋敷にやってくるようになったルシファー様は173センチでヤンすね。強烈な威圧感があるから、もっと大きいと思ってました……って、そんなことを言っている場合ではなくて!

 この調子で、おいらが知っている天使様の身長をズララと暴露していくですよ! 残りの大天使様3名様は……オーディエル様が184センチ、ラミュエル様が163センチ。で……ミシェル様は149センチでヤンすね。


(……おぉ! 姐さんよりもチビっこい天使様がこんな所に!)


 次は……マディエル様は162センチ、リヴィエル様は158センチ。キュリエル様は166センチに……リッテル様は164センチでヤンす。最後にネデル様は170センチに、ザフィール様は162センチ。


 こうして見ると、オーディエル様の大きさが際立ちますね……。生前はどんな生活をしていたんでヤンしょ?


 あぁい! と、とにかく、今回はこんな所でヤンす。ここまで読んで下さって、嬉しかったでヤンすよ!

 ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ