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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第9章】物語の続きは腕の中で
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9−39 愛と魔法を振りまいているでしゅ!

「へぇ、ルシエルちゃんもそんな表情するんだな。リッテルも何かあると、赤くなって俯いたりしてたっけ。……リッテル、元気かな……」


 自分の凶暴性を指摘されて、落ち込んだルシエルをからかう事もなく。嫁さんの様子に、リッテルを思い出したらしいマモン。明らかに寂しそうに言われると、いかに彼が彼女の事を心配していたのかも思い知らされるが。それを知ってか知らずか、小悪魔達が妙な感じでマモンに絡み出した。


「マモン様。リッテル様、帰ってこないです?」

「まだ来ないですか?」

「おいら、待ちくたびれちゃいました……」

「それは俺のセリフだ。……ったく。リッテルがいなくなったせいで、お前らに揉みくちゃにされる俺の身にもなれよ……」

「えぇ〜⁉︎ だってマモン様、強いですよぅ?」

「マモンしゃま、イケメンでしゅ!」

「マモン様、頼りになるです!」

「マモン様、寝相悪いです!」

「本当にお前らは毎度、毎度、色々とズレているよな……? しかも、ゴジのは意味不明な上に、完全に悪口だし。いい加減にしとけよ?」


 小悪魔にまで寝相が悪いと指摘され、彼らを足元に下ろしつつ疲れ切った表情を見せるマモン。だけど、一方で……下級悪魔にもちゃんと接している彼の様子が、微笑ましい。そしていよいよ、堪えきれなかったんだろう。背中越しで嬉しそうに笑いを噛み締めていたリッテルが、ようやく前に歩み出る。


「……そう。あなたは相変わらず、寝相が悪いの……。お布団を蹴っぽって、お腹出して……風邪、引いたりしなかった?」

「別に布団を蹴ってなんかねーし、腹も出してねーし……って、あ?」

「……ただいま。謹慎が解けたので、帰ってこれました……」

「……‼︎」


 彼女の突然の登場に声も出ないらしいマモンと、そんな彼に飛びつくリッテルと。されるがままに抱きつかれても、暫く立ち尽くしていたが……ようよう、状況を飲み込んだんだろう。絞り出すように「お帰り」と一言呟くと、ヒシと彼女を抱きしめる。


「……そっか、帰ってこれたんだ。ところで、無事か? 他の奴らにイジメられたり、しなかっただろうな?」

「えぇ、大丈夫よ。みなさん、親切にしてくださったし……今日から、新しいお仕事をする事になったの! それでね……」

「って、おい、リッテル! ちょ、ちょっと、どうしたよ? 何、泣いてんだよ⁉︎」

「グスッ……会いたかった。……ずっと会いたかった……」

「あっ……」


 とうとう感極まって泣き出したリッテルに、旦那様はどう接していいのか分からないらしい。そんな彼の代わりに、様子を見守っていた小悪魔達がリッテルに抱きつく。


「リッテル様、お帰りです!」

「みんなで待っていましたよぅ!」

「マモン様と一緒に待ってたです」

「お前ら! 俺よりも先に、そんな所に抱きつくな! いいから、離れろ‼︎」

「え〜?」

「ヤダ」

「リッテル様とべったりするです!」

「この、クソッタレ共……‼︎」


 この様子だと、普段からマモンを散々、振り回しているんだろうな……。嬉しそうな小悪魔達に怒るに怒れなくて、頭を掻きながらため息をついたところで……渋いお顔のマモンが、こちらに向き直る。あっ、これはお説教も諦めた感じか。


「そっか。今日はリッテルを見送りに来てくれたんだな……。リッテルを連れて来てくれて、ありがとう。で、聞いとかないといけない事があったら、話は聞くよ。とは言え、もうそろそろ時間だから、あまり相手はしてやれないけど。何か、あるか?」

「時間?」

「あぁ、ちょっとした約束があってな」


 何やら、予定があるのか……時間を気にし出したマモンの代わりに、先ほどから妙に目立っているインプが説明してくれる。


「マモンしゃまは、たくさんのお弟子さんに剣のお稽古をつけているんでしゅ。それで、お昼頃にお稽古をつけて欲しい悪魔がここに集まってくるんでしゅよ。今日もそろそろ、そんなお時間でしゅ!」

「……迷惑にも、変な噂が流れちまってな。回り回って、よく分かんないけど……そういう事になっているらしくて。俺も今はそこまで忙しくないし、その位はいいかなと思って面倒見てるけど」

「そうなんですよぅ!」

「それで、僕達も魔法を教えてもらっていたんです!」

「おいら、ちょっと魔法上手くなったです!」

「アチシも、愛と魔法を振りまいているでしゅ!」

「……愛は余計だ、愛は。いちいち、変なことを言うな」


 手慣れた様子でインプにツッコミを入れながら、またも大きなため息をつくマモン。なるほど、この子達に教えていたのは魔法だったのか。それにしても、今まで他の悪魔との交流そのものを嫌っていた彼が……そんな事をしているのに驚かされる。強欲の真祖様も色々と変わったよな。


「ウフフ、そうだったの。そう言えば、あなた。この子は……?」

「あ、そうか。こいつがインプになったのは、お前が帰った後だったもんな。こいつが例のクロスケだよ。アスモデウスを脅して最下落ちから下級悪魔に仕立てさせたんだけど……で、名前はハンス。一緒にお前を待ってるって言い張るもんだから、連れて来てたんだけど。ほれ、ハンスもさっさと挨拶しておけ。何で、当然のようにリッテルにくっ付いてんだよ」

「モゥ〜! キュートなアチシがくっ付くのに、なんの問題があるんでしゅか?」

「問題だらけだろうが、このアホ羊! 自己紹介は基本だろーが!」

「ハイハイ。マモンしゃまは、妙に真面目なんだから〜。という事で、アチシはハンスでしゅ! リッテルしゃまがマモンしゃまにお願いしてくれていたお陰で、こうして普通の悪魔になれたでしゅ! ありがとうでしゅ!」

「そっか、ハンスちゃんって言うんだ。みんなにイジメられないようにしてもらえて、良かったわね」

「ハイでしゅ!」


 リッテルのお願いを聞き届けたマモンのお陰で、普通の悪魔になれたとか言っているインプだけど……いや、ちょっと待て。今、最下落ちって言ったか? それを下級悪魔に仕立てるって、簡単にできる事だったっけ?


「マモン……最下落ちを下級悪魔に仕立てさせたって、どう言う事? それ、かなりの禁則事項じゃないの?」

「あ、流石にハーヴェンもその辺は知ってるか。まぁ、そうなんだけど。こいつを最下落ちにしたのが、アスモデウスだったもんだから。ちょっと脅して、それなりの姿にしてやれって協力を仰いでさ。結果的に妙に浮ついた奴になっちまったが、所詮、インプなんてこんなもんだろうし。……そればっかりは仕方ないかなと、諦めてるよ」

「そ、そうなんだ……」


 マモンがアッサリと言うけれど、それがどんなに面倒な事なのか、彼は分かっているんだろうか。この軽さは真祖様だからと割り切ってもいいのか、これ。

 そうして、俺がかなり戸惑っているのを察知したんだろう。さっきまで膝にイジイジと指を立てていた嫁さんが、不思議そうに尋ねてくる。


「ハーヴェン、それ……そんなに面倒な事なのか?」

「うん……ちょっとやそっとの事じゃないぞ。普通はあり得ないし、最下落ちを助ける事自体が馬鹿げてる。とは言え……俺もお前のお願いだったら、なんとかしようと頑張るかも。そっか、そう言う事。やっぱりマモンもしっかり、リッテルの尻に敷かれてるんだな〜」

「べ、別にそんな事ねーし! お前と一緒にするなし!」

「そうか〜?」


 照れたように赤くなりながら慌てて否定してくる様子に、小悪魔達に抱きつかれながらも嬉しそうに笑っているリッテル。その彼女の様子に小さく参ったな、とか言いながら……マモンも嬉しそうに、最後は笑顔を見せた。それにしても、あのマモンが自然に笑うようになるなんて。本当に、強欲の真祖様も随分とお変わりになったなぁ。

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