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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第9章】物語の続きは腕の中で
360/1100

9−35 見返りを要求すると申しています

「……ふふ。ありがとう、是光ちゃん。あ、もうお喋りはしないのね? 是光ちゃんが言うには、ヒントをあげたのだから後は皆さんでどうにかしろ、との事です……」


 ヒントよりも、身の上話の方が長かった気がする。……とは言え、魔禍になりかけたモノが懲罰房にいるのは分かったけど、魔禍って退治方法が確立していなかったよね? どうすればいいんだろうな、この状況は。


「言われてみれば……刑罰房では今までも不可解な点が多かったのは、事実だ。しかし、天使以外の魔力検知があった場合はすぐに警告が上がるはずだが、どうなっている?」

「オーディエル。もしかして、今までも何かあったの?」

「例えば、ノクエルの時もそうだ。刑罰房では収容されている人員の魔力状況は具に確認しているため、死に際もある程度は把握できるはずだったのだが、ノクエルは急に生命反応が途切れてな。いくら瀕死の状態だったとは言え、計測値は明らかに不自然だった。しかし、そんな存在がいるならば、どうして何も引っ掛からなかったのだろう?」


 ラミュエルの質問に答える形で、今までの疑問点を述べるオーディエル。

 懲罰房も含め、この神界は天使以外を受け入れる度量を持ち合わせていない。その為の魔力検知システムなのだし、それでなくても、神界はマナツリー自身を地盤にした、丸ごと監視システムの塊と言っても過言じゃない場所だ。そんな場所で、今まで監視の目を掻い潜って何かが暗躍していたなんて……考えもつかないのは、当然じゃないか。これはオーディエルが間抜けだったのではなく、その黒い何かが神界の目をすり抜けていたと考える方が自然だと思う。


「……そこまで分かっていれば、答えは1つであろう。その黒い何かは、元は天使の残留思念が魔禍になりかけたものなのだ。そして……多分だが、そいつの残留思念が神界の風穴になっている可能性もあると見ていいと思う。例のハミュエルもどきが、こちらの空間と意図的に別の空間を繋げた事例もあるし、そのような存在を送り込むのは造作もない事だろう。今後のことも考え、神界全体で認識したおいた方が良いだろうが……リッテル。是光御前の話も含めて、神界で情報共有しても構わんか?」

「えっと……是光ちゃん、どうかしら? 今の話、こちらで公開しても平気? うん、そうなの? 是光ちゃん的には共有しても構わないけど、見返りを要求すると申しています……」

「うむ? 条件があるのなら、申してみよ。こちらとて、無条件で情報を活用するなどと、図々しい真似はせん」

「だって。是光ちゃん、どうする? あら、そんな事を? でしたら1つ条件があるので、お話しすると申しています……」


 きっとそのやり取りに、もどかしさを感じたのだろう。結局、ご本人(ご本刀?)様がため息交じりで囁く。


(こちらからの条件は1点です。先ほどの情報と引き換えに、そちら側の情報も提供していただきましょう。……あなた方の組織構成と人員規模、個々の能力や特徴等の情報を、某らのお館様にお引き渡し下さい)


 リッテルへの熱の入れ方から、個人的趣味な要望を寄越してくると思っていた是光ちゃんが、意外にも厳しい条件を提示してくる。それ……こっちの勢力情報を筒抜けにしろって事だよね? 幾ら何でも、マズくない?


「マモンの側近は随分と、抜け目がないと見える。……よかろう。情報を纏めるのに時間は必要だろうが、ルシエルに任せればそこまで待たせる事もないだろうし……確かに、それは当然の要求ぞ。既にマモンの情報がある上で協力を仰ごうとしている手前、こちら側の手の内を明かすのも必要な事だろう。我らとて、不必要にお前達とコトを構える気は毛頭ないし、一方的に利用するつもりもない。情報はきちんと引き渡す故、少し猶予を貰えるか?」

(……それで結構です。時間がかかろうとも、必ずお約束は守って下さい)


 是光ちゃんの条件に戸惑いを隠せないボク達を他所に、天使長様が意外とあっさり条件を飲むと、満足そうに承諾する是光ちゃん。


(それはさておき……ボクも是光ちゃんに話を聞いてみたいんだけど……)


 特にマモンの裏話とか、恋バナとか。それ以外にも、悪魔の事とか、魔界の事とか……興味が尽きないんですけど。


(まぁ、それは今聞く事じゃないかぁ。……聞ける雰囲気でもないし)


 うん、とりあえずは空気を読んでおこう。変な失言をしたら、ハーヴェン様人形ゲットが遠のくかもしれないし。

 それにしても……目の前の不思議な刀は自らを魔法道具だと言う割には、ボク達の神具とは明らかに別の原理で作られているみたいで。持ち前の自我で事実の一端を語ってくれたそれは、誰よりも魔界のこと、そして……マモンの事を心配しているように思えた。

 彼を「お館様」なんて変な呼び方をしているのが、かな〜り気になるけど。その辺はオリエント生まれの名残なのかもしれない。それに、魔界にもそれなりの秩序がある事が分かっただけでも、かなりの収穫だと思う。何よりも自由だと思っていた悪魔が、結構な部分で規則に縛られているなんて。……ホント、意外だったなぁ。

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