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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第9章】物語の続きは腕の中で
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9−3 ペンは剣よりも強し

 いつも通りの朝を迎えて、まだ白み切らない窓の外を眺めながら……伸びを1つして、バードフィーダを見やる。どうやら、今朝は収穫がないらしい。律儀に餌は新しいものが用意されているが、突かれた痕跡を残すばかりで肝心の鳥ちゃんの姿も、羽の贈り物も残っていない。

 少し寂しい思いをしながら仕方なく、今日の洋服を選ぶ。そうしてクローゼットを開くと、昨晩の話にあった真新しいコートが掛っているのにも気づいた。綺麗な綺麗な鮮やかな青。いつか見た鳥ちゃんと、いつか買ってもらった靴と……同じ海の青。少しぶ厚めなところを見ても、ハーヴェンの見立てではきっと、この場所の寒さは厳しいものになるのだろう。

 季節なんて、感じたこともなかった私だが。最近の肌寒さが加速しているのを考えても、いずれ雪が降るだろうことくらいは分かる。この辺の冬とやらは……どのくらい雪が積もるのかな。でもこの綺麗なブルーのおかげで、あんなに嫌いだった雪すらも楽しみになるから、不思議だ。


***

「お呼びですか、ルシフェル様」


 神界であらかた仕事を片付けたところで、ルシフェル様からの呼び出しに気づく。直接のお呼び出しとなると……おそらく、内々の話があるのだろう。


「うむ。早速、呼び出して悪いな。それで、今日の仕事は?」

「もちろん、切り上げてきました。ローヴェルズは相変わらず、不気味なくらいに静かです」

「……そうか。どちらにしても、お前は仕事が早くて助かる。で、リッテルの処罰についてこの後、大天使と話す予定になっていてな。招集をかけている故、もう少し待ってくれ。それと……お前の今後についても話すつもりでいるが、それでいいか?」

「えぇ、構いません。準備も抜かりなくやってありますし、ハーヴェンからいい知恵を借りられました」

「ほぉ? どんな?」

「彼曰く、“ ペンは剣より強し”だそうです」

「ふむ?」


 ハーヴェンの作戦名を伝えたところで、他の大天使様がルシフェル様の円卓にやってくる。そうして彼女達が少し緊張した面持ち……ではなく、妙に浮ついた様子なのが気になる。それでなくても、この先の話はきっと彼女達を違う意味で喜ばせそうだし……私としては、既に頭が痛い。


「3人とも、よく来たな。話の内容はある程度、予想はできているだろうが……とにかく座れ。今後の事について重要な内容も含むだろうから、しっかり会議に参加するように」

「もっちろんですよ! とにかく、ささ、始めましょう?」


 明らかに違う方向にワクワクしているミシェル様と、それに追従するように終始笑顔のラミュエル様。一方で、オーディエル様は妙に元気がないみたいだが……あぁ、日記の返事は今日も来なかったのだろうか。


「早速だが、まず1つ報告がある。先日からある程度、決まっていた事なのだが……明日からルシエルを調和の大天使に据えることになった。彼女には既に新しい任務の段取りと、現在の任務の引き継ぎの準備を進めてもらっているが……まず、引き継ぎについてルシエルから話をしてもらう。……ルシエル」

「はい……この度、僭越ながら、調和の大天使として皆様と同じ階位に就くことになりましたが……現状、どうしても手放せない案件もある以上、現在の任務を兼務する形で考えています。とは言え、不肖のこの身では力が及ばない部分が多々、あるかと思いますし……そこで、ラミュエル様にお力を借りながら、ローヴェルズの状況に引き続き目を光らせたいと思っています」

「えぇ、もちろん。協力は惜しまないわ。なんでも言ってちょうだい。それにしても……とうとう、調和の大天使が戻ってくるのね……! これで4人揃って……あぁ、姉様もきっとお喜びになるでしょう……」

「ふ〜ん……最近、ルシフェル様がルシエルをやたら呼び出していたのは、そういうわけだったんですね。もぅ〜。どうして、ボク達に内緒にしてたんですか?」


 話をすんなり受け入れてくれるラミュエル様の一方で、ちょっと不服そうなミシェル様が話の腰を折る。話が遅くなったのには色々と事情があったからなのだが、物事には順序がある。とにかく、まず話すべきことを話さなければ。


「……その辺りもきちんと理由があります。話を続けても、よろしいですか?」

「あぁ、ごめんごめん。そうだよね。で、引き継ぎって具体的にはどうするの?」

「はい。おそらく、今後は私が塔の情報を直に確認するのは難しくなると思われます。そこで、ローヴェルズの現状と注意するべきポイントをラミュエル様も含む救済の天使数人にお話し、毎日の監視データの収集をお任せしようと思います。もちろん、監視データは私も目を通しますし……火急の事態になった時はハーヴェンにも応援を要請し、事に当たってもらいます。また、私もその場に速やかに向かいます」

「と、いう事はもしかして……ハーヴェンちゃんと一緒にお仕事できるってことかしら?」

「……そうなりますね。ハーヴェンにも昨晩、話はしてありますし……彼自身も快諾してくれましたから、問題ないでしょう」

「キャ〜‼︎ そういう事⁉︎ そういう事なのね⁉︎ もぅ、だったら一層、頑張るしかないじゃない〜!」

「ちょっと、ラミュエルばっかりずるい! ボクも混ぜて欲しいんだけど⁉︎」


 昨日の精霊帳のやり取りがあってから、なんとなく予想はできていたが。いざ目の当たりにすると、先が思いやられる。しかも、オーディエル様だけはずっと静かなのだが……幾ら何でも、元気がないにも程があるような。


「あの、オーディエル様。話、聞いていますか? 大丈夫です?」

「あ、あぁ……すまない。話はきちんと聞いている。ただな……サタン様の現状がよろしくないようでな……。私としては、正直なところ……それどころではなくて……」


 彼女の答えに他の全員で顔を見合わせると、深くため息をつく。おそらくこの後の話は、オーディエル様も興味がそそられる内容だろうし……今は放っておこう。


「……引き継ぎのお話は明日、改めて行います。ミシェル様もご参加頂いて構いませんよ。隠すことでもありませんし、情報を共有しておくに越したこともないでしょう」

「うん、そうする〜!」


 ミシェル様も納得してくれたようだし……私の昇進については、概ね問題なさそうだ。さて……と。本題はここからだな。


「引き継ぎに関しては、ルシエルに任せるとして……。続いて、リッテルの処罰についてだが。話があった通り、是光の存在を考えるとリッテルの死に直結する処罰は避けるべき、ということになったが……そこに関して、異論はないか?」

「えぇ、大丈夫です」

「ボクも異議なし」

「……あぁ、大丈夫です」

「……若干、1名が上の空だが……ルシエルも問題ないか?」

「えぇ、私も異存ありません」


 4名の大天使(1人は暫定)の同意を受け取り、ルシフェル様が少しだけ安心したように頷く。しかし、すぐさま難しい表情を取り戻すと、やや複雑な事情を吐露し始めた。


「では、具体的な処罰についてだが。あれだけのことをした手前、軽いものだと示しがつかん。だが、リッテルは下級天使でもある以上、剥奪できる翼もない。その上で……実はな、この事についてはマナからの提案もあって、あまり謹慎期間を延ばすわけにも行かなくてな……」

「マナからの話ですか?」

「……ふむ。マナからの提案は4つ。まずは調和の大天使にルシエルを据える事、ルシエルに精霊のデータと共に、悪魔達のデータも管理させる事。そして……悪魔の情報収拾要員に、魔界での生活経験のあるリッテルを起用し、ルシエルの下に配属する事。最後に、集めた悪魔のデータをもとに、ボーラ潜入に協力してくれそうな悪魔を見つける事。故に、あまり悠長にリッテルに過度な謹慎期間を与えるわけにもいかんのだが。……ん? どうした、3人共……何をそわそわしている?」

「それ、要するに……」

「リッテルを魔界に戻して、悪魔のデータを拾わせる……って事かしら?」

「そして……悪魔の協力を仰ぐ……つまり、悪魔とある程度、交流するという事でしょうか?」

「……そうだ。今の説明で……それ以上の内容があるか?」


 ルシフェル様は終始淡々と話を進めているが、一方で……3名様の不気味な食いつき方に不安になる。水を打ったように静かな彼女達の頭の中で、話が駆け巡って……もうそろそろ、結果にまで思考が至るところだろう。

 私がそんな事を考えた矢先に、一斉に大騒ぎし出す大天使様達。……だから、今まで詳細な話を伏せていたんだけど。この辺りも恐ろしいくらいに想定通りだと、ハーヴェンの作戦を伝えるのに気が引けてしまう。しかし、リッテルを守る目的もあるし……彼女達の空騒ぎは捨て置いても、問題ない……か?

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