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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第8章】悪魔の概念
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8−41 選りに選ってこいつを寄越すなんて

 ボク達が神界へ戻ると早速、エントランスにルシフェル様とルシエルが迎えに出てきていた。ルシエルは帰り際に捕まったみたいで、もの凄い怖い顔をしているけど。……一体、何をそんなに話すことがあるんだろう?


「3人とも、ご苦労だったな。……で、お前がリッテルか?」

「は、はい……」


 あぁ、そう言えば。リッテルはルシフェル様が神界に帰ってきたのを、知らないんだよね。だけど、いくらこれから罰を与えないといけないとは言え……そんな迫り方をしたら、必要以上に怯えるでしょーが。もう少し融通は利かないんだろうか、この天使長様は……。


「……ふむ? なるほど? お前も悪魔から耐性を受け取ったのか。それはともかく……無事で何よりだ。まずはよく帰ってきた、と言うべきか」

「あ、はい……。えぇと……」

「ルシフェル様。それよりも、自己紹介が先ではありませんか? リッテルはあなたが神界にいる事を、知らないはずですよ」


 相変わらず自分のペースで話を進めようとするルシフェル様に鋭く切り込み、軽く彼女を凹ませるルシエル。その様子は立派にルシフェル様の付き人だけど……ルシエルはいつの間に、部門替えしたんだろうか?


「ゔ……分かっている! 別に忘れていたわけではないぞ?」

「左様ですか? まぁ、いいでしょう。色々と質問責めにする前に、まずは自己紹介とリッテルを休ませることが重要かと思います。この先の話は大天使様も含めて、円卓ですればよろしいのでは?」


 はーい、ボクもそう思いまーす。リッテルには色々と聞きたい事はあるけれど、休憩は大事だよね。


「そうだな。そちらが先か。……ふむ、すまない。私はルシフェル、と言う。ついこの間、人間界に大きな問題が起こっているとかで……オーディエルとルシエルの要請に応え、神界に戻ってきた。この神界では天使長の地位にいる故、敬意はしっかり払うように」

「は、はいっ!」

「……それ、自分で言う事ではありませんから。そんな事を言ったら、相手を萎縮させるだけでしょう? どうして、いつも無駄に偉そうなんですか?」

「う……うるさいぞ、ルシエル! こういう時くらい、ちょっとは権威を振りかざしてもいいではないか⁉︎」


 何やらよっぽど機嫌が悪いのか、ルシエルが的確にルシフェル様をボコボコにしているけど。ボクとしてはその様子が結構、気持ちいい。


「まぁ、いい。神界に入れる前に、持ち物を改めさせてもらおうか。精霊帳と魔法道具の類をこの台に置け」


 ルシフェル様が手をかざすと、床から丁度いいサイズのテーブルがせり上がってくるけど……神界にこんなシステムあったっけ?


「は、はい……」


 一方で少しまごつきながら、リッテルが精霊帳に自分の首にかかっていたベルと、どこかで見た覚えのある上着、そしてさっきマモンから受け取った刀と……。


「あの……これも魔法道具に含まれますか……?」

「一応、外して置いてくれるか。……何もなければ、すぐに返してやるから。そんなに泣きそうな顔をするな」

「……はい……」


 ルシフェル様が優しいお言葉をかけないといけない程に、切なそうな顔をした後……リッテルが左手に嵌っていた指輪を抜いて台の上に置く。……それ、結婚指輪ってモノだよね……?


「神界に持ち込みが出来ないものはなさそうだが……あぁ、マモンの奴。こんな物を寄越しおって……。こっちの指輪は、随分な魔法道具みたいだな。まぁ、アレが用意したものであれば、相当の一級品であろうが……フン。憎たらしいったら、ありゃしない」


 刀と指輪を交互に見比べて、さも不服そうに鼻を鳴らすルシフェル様。何がどう、憎たらしいんだろう?


「えっと、ルシフェル様。ボクには何がどう、憎たらしいのか……サッパリ分からないんですけど?」

「……まず、この指輪だが。これはルシエルがしているのと同じ原理で作られている。要するに、互いのシンクロ率を上げるものだろうが……だが、材料が材料なだけに、効果は桁違いだ」

「材料……? これ、何で出来てるんですか?」

「こいつはマモンの角を作り変えたものだろう。だから魔力の補填率以前に、瘴気への耐性値が異常に高い。これさえあれば、かなり濃い瘴気の中でも活動できるようになるだろうが……まぁ、きっとペアで作られているのだろうし、そういう意味でもリッテル専用だろう。とにかく、指輪はもういいぞ」

「は、はい……!」


 どういう仕組みかは分からないけど、的確に道具の特徴を把握したルシフェル様のお許しが出たので、いそいそと指輪を取り戻して……左手の薬指に黄金色のそれを滑らせるリッテル。無事に戻ってきた指輪を見つめて、少しはにかんだ顔を見せるのが、これまた羨ましくて仕方ない。


「で、これは……マモンの上着か。なんでまた……これをお前が着ているんだ?」

「彼の家は永久凍土に近いせいで、とても寒冷な場所にあったものですから。寒いだろうと貸してくれて……。それ自体も、ヒッポグリフの毛皮で出来ていると言っていました」

「その様だな。幻獣の毛皮で出来たこれも、かなりの魔法効果がある様だが……これは問題視せんでもいいか。それで……問題はこいつだが。選りに選ってこいつを寄越すなんて、マモンは随分と我らを信用していないらしい」

「信用していない、のですか? ルシフェル様、お言葉ですが……」

「うむ? どうした、ラミュエル」


 「信用していない」が引っかかるのか、普段からあまり主張はしないラミュエルが口を挟む。確かに……さっきの様子を見れば、ボクもちょっと意見したくもなる。


「えぇ……マモン様なのですが。リッテルをこちらに引き渡してくれる時に……」

「どうした? 何があった?」

「リッテルをお願いします、と丁寧に頭を下げられたものですから……私達を信用していない、は違う気がします……」

「はぁっ? 頭を下げたぁ⁉︎ あのマモンが、か? 嘘だろう?」

「いやいや、本当。妻をよろしくお願いします〜……なんて、超しおらしく言うもんだから。ボクもビックリしちゃいましたけど。あぁ、いいなぁ〜。ボクもイケメンに妻なんて、言ってもらってみたい……」


 マモンが頭を下げた事が余程、信じられないらしい一方で……なんだか、もの凄く悔しそうな顔をするルシフェル様だけど。もう、そんなに驚かなくてもいいじゃないですか〜。大袈裟なんだから……とかって、ボクが思っているのを尻目に、ルシフェル様は苦々しい顔で、マモンが寄越した刀を睨んでいる。……あの、すみません。ボクとしては、そのお顔の方がとっても怖いです。一体……何がそんなに、気に入らないんでしょうか?

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