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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第8章】悪魔の概念
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8−38 周りも根こそぎ再教育(+番外編「悪魔の帝王学」)

「ベルゼブブ、どうしてあの子は悲しそうなのだ?」

「サタンは相変わらず、鈍感だよねぇ。あの子はきっと、帰るつもりなんだよ。神界に」

「うぐ? どうしてだ? このまま魔界にいてもよかろう?」


 リッテルの萎れた背中を見送って、尚。あからさまに空気を読まないサタンの間抜けさが、殊更腹に据えかねると言わんばかりに、ベルゼブブが珍しく声を荒げる。そのくらい怒ってしまう程に……ベルゼブブも彼女の覚悟を十分に痛感していた。


「あぁ、もうぅ〜! サタンはそんなんだから、ヤーティちゃんに絞られるんでしょーが⁉︎ あの子は神界で罰を受けないといけない身なんだよ! 何か向こうでやらかして、お仕置きされないといけないんだって、お前も知ってたでしょ⁉︎ だから、彼女はお仕置きを受ける覚悟をしたんだよ! さっきのお願いは、思い出の品をマモンに残すためのものだったの!」


 場合によっては、今生の別れになるかも知れない。リッテルの大きな覚悟を前にして、しんみりしていたと言うのに……サタンのせいで、素敵なおセンチメントも台無しである。


「その程度も気づけないようじゃ、オーディエルちゃんとイチャイチャできるのは、かなーり先かもね……」

「な、なに⁉︎ オーディエルとやり取りを再開するには、どうすればいいか相談しに来たのに……もしかして、ダメなのか? ……これ、ダメなやつ?」

「ダメなやつだよ、全く。折角だから、鈍感さも含めてヤーティちゃんに再教育してもらえば?」


 ご機嫌も悪いと、プイとそっぽを向くベルゼブブ。鈍感過ぎるサタンを慰めてやれる程までには、ベルゼブブもお人好しではない。


「そ、そんなぁ……。ベルゼブブ、もう一冊、あの日記を借りれないか? そうすれば、オーディエルに慰めてもらえるかもしれないし……」

「イヤだね。大体、もう一冊あっても、オーディエルちゃんのサインがなければ、無意味でしょうが。日記を取り上げられたんなら、取り戻せるように頑張ったら? 抜け作のお前を再教育してくれるなんて、優しすぎる優秀な配下がいるんだから、助言に従うのも大事だと思うけど」

「その通りですよ、サタン様……! ありがた〜い講義中に逃げ出した挙句、何をベルゼブブ様にまでご迷惑を掛けているんですか?」

「ヤ、ヤーティ⁉︎ ……う、どうしてここが分かった? と、言うか……」

「黙らっしゃい‼︎」


 いつの間にか屋敷にやってきていたらしい、完全に「鶏冠に来ている」ヤーティがツカツカとサタンの前までやって来ると、何かを含みに含んだ笑顔で……情けない様子の主人を見据えている。彼の怒りが静かに、しかし、轟々と大炎上しているのを感じ取ると、ベルゼブブは巻き込まれないうちにその場を離れようとするが……。


「……ベルゼブブ様」

「はっ、はい? 何かな?」


 頭に「逃げられない!」というメッセージウインドウが表示される錯覚に陥りながら、目の前のアドラメレクの恐ろしさに慄くベルゼブブ。これは……巻き添えを食うパターンな気がする。


「……主人を甘やかすのも、大概にして下さいませんか? それでなくとも、このアンポンタンはあろうことか……シャックスのマナー講師を張り倒して逃走しておりまして……! 私が一生懸命、調度を設えているのを良い事に……!」

「ご、ごめん……! いや、サタンがヤーティちゃんに手帳を取りあげられたって拗ねてたから、慰めてたんだけど……」


 主人を事もあろうに「アンポンタン」呼ばわりした挙句、ベルゼブブにまで怒りを向けるヤーティ。やはり、魔界流に「連帯責任」を負わせるつもりらしい。


「そうですね……。この際、ベルゼブブ様も一緒に私の講義を聞かれますか? 昨日のご様子からしても、配下に苦労をさせているのは、お変わりないみたいですし。周りも根こそぎ再教育するのも、手かと思いまして」

「ヤーティ……講義、お前がするの? やっぱり、シャックスでいいんじゃ……」


 確実に大きくなりつつある火柱に、更に油を注ぐような事を言い出すサタン。そして、主人の言葉にワナワナと震え出すヤーティ。いよいよ翡翠色の美しい尾羽を全開にして、威嚇体制を取っているが……この状態のヤーティを止める術は、魔界の真祖2人も持ち合わせていなかった。


「そのシャックスを張り倒したのは、どなたですッ⁉︎ それでなくても、キューシスはあなた様の配下の中でも、超一流の知識人……この上ない程の適任者だったのですよ⁉︎ ほら、何をボサッとしているのです‼︎ 帰りますよ! それと、ベルゼブブ様!」

「は、ハイッ⁉︎」

「あなた様もさっさと準備なさい! こうなったら……お2人には、真祖とはなんたるかの基礎をみっちり叩き込んで差し上げますッ‼︎」

「え、えぇ〜⁉︎ 僕も?」

「ツベコベ言わない‼︎ お早くッ‼︎」

「ハ、ハイィ〜‼︎」


 結局、威勢良く返事をさせられて、サタンと一緒に連行されるベルゼブブ。ハーヴェンといい、ヤーティといい。どうしてナンバー2の上級悪魔は真祖相手にも有無を言わさず、強制的な要望をいとも簡単に通してくるのかが、分からない。しかし、それでも……何かの強迫観念が働いて、大人しくスゴスゴと移動するしかないのだが。ここで逃げ出したらお仕置きがただ増えるだけではないばかりか、不条理に数倍になることが分からない程、ベルゼブブもサタンも彼の恐怖を知らぬわけではなかった。

【番外編「悪魔の帝王学」】


 ここは魔界、サタン城。

 そんな魔城の一室で、何故か勉強机を並べさせられ……こじんまりと「苦行」に耐える大悪魔2人の姿がそこにはあった。そんな大悪魔に教鞭を振るうのは、憤怒のナンバー2にして、魔界でも屈指の実力を誇るアドラメレク・ヤーティ。


「大悪魔たる者、礼節を忘るるべからず。また、配下の進言には耳を傾けると同時に、疑わなければなりません。……さて、どうしてか分かりますか? サタン様」

「う、うぬぅ? そもそも、真祖はとっても偉いのだから……配下の話はあまり聞かなくてもいいんじゃ……?」


 ビクビクとしながらも、無鉄砲な回答を寄越すサタン。彼の脳味噌では、この回答が精一杯である。


「……全く、サタン様の脳味噌が捻り出す結論は、尽く論外の極みですね……。もう呆れて物も言えませんよ、私は」


 サタンの回答に、すぐさま顔を顰めると……大袈裟にやれやれとため息をつくヤーティ。きっと、サタンはオハナシにならないと思ったのだろう。今度はベルゼブブに回答を求めてくる。


「では、ベルゼブブ様はいかがですか?」

「えぇッ? えっと……話はちゃんと聞いてあげちゃうけど、僕はそもそもやりたいようにしかできないし〜。だから……分かんないッ★」 

「本当に……本当に……! お2人揃って、なんと情けない事でしょう……! この大馬鹿者共がッ‼︎」


 しかし、ベルゼブブからも期待した回答は得られなかった。その絶望が故に……ワナワナと震えながら、再度美しい尾羽を広げて、威嚇体勢を構えるヤーティ。そうして怒りのボルテージも最高潮とばかりに、2人の「不届き者」に言論の雷を落とし始めた。


「いいですかッ、お2人とも! 真祖たる者、配下の手本となるように、常々自らを戒めなければなりませんッ! 配下を信頼するのは当然でしょうが……我らは悪魔なのです! 真祖さえをもいいように利用しようとする輩がいる事も、きちんと想定せねばなりませんッ! 特に、サタン様のようにスカスカの脳味噌しかお持ちでないとあらば、あっという間に騙されてしまうでしょうが! ですので、きちんと自分の頭で考え、判断できる鋼のように固い自我を構築し、盤石なものとせねば……あれこれあれこれ、クドクドクドクド……ネチネチネチネチ……!」


 この後、サタンとベルゼブブにもう1度発言のチャンスが与えられたのは……約2時間後でありましたとさ。

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